第2話『襲撃者』

いきなり攻撃されたんですけど。


私のゴーレムが盾になってくれたから助かったけど本来なら今のは当たり前の様に私を狙っていた。


「……誰ですか?そこから出て来なさい」


ゴーレムは両腕が吹き飛んでいた。だがまだイケるとでも言うように姿の見えない襲撃者の方を向いている。

もう一体のゴーレムも私の前に移動する。


「……チッ以外と頑丈なゴーレムね」


女性の声がした。

ガサガサと森の奥の茂みがすれる音と共に、数名の人間が現れた。


現れた人間は全部で三人。

男が二人で女が一人と言うパーティーだ。


男は共に身長が百九十以上ありマッスルな外人さんだ。堀が深い顔でとても怖い。


女性は身長百六十くらいの茶髪で瞳が青い、年齢は二十歳なるかどうかってところ。

肌は白くスタイルも良い白人に近い顔立ちをしている。


……男と女性で情報量に差があるのは仕方がない事である。私の主観だからな。


しかしその見た目から残念ながらアレだ。


完全に山賊な感じの装備で身を固めている。

絶対に敵キャラだよ。

……一応は確認だな。


「……あの攻撃は、何のつもりですか?」


「はぁ?何のつもり?オッサン、アンタバカじゃないの?」


「確かに見たことがない顔立ちをしてるな」


「ん?リザードマン見たいなヤツだな」


ひどくない?オッサンは事実だけどもリザードマンとかひどくない?。

それでも私は話し合いを提案するけどな。だって暴力反対だから。


「私に争う意思はありません、ここは穏便に済ませる気はありませんか?」


「はっ!オイオイオッサン、ビビって怖いなら最初からそう言えよ。姉御、コイツ奴隷商に売れますかね?」


「そんなの無理に決まってんだろ?あんな平たい顔、誰が好き好んで買うかってんだ」


「身体もろくに筋肉がついてねぇ、コイツどっかのボンボンじゃねぇか?苦労なんて何もない知りませんって人生を生きてたんじゃねぇか?」


「ハハハッ!そりゃあありえるわね、山賊に襲われて話し合いをしたがるなんて、とんだ世間知らずの間抜け野郎だよ」


すげぇなオイッたった一言話しただけで、顔面偏差値の低さをバカにされ、育ちをバカにされ、オツムをバカにされたぞ。


三冠王、トリプル達成だなちくしょう。


悔しすぎる。そして全く会話の余地がない。

これはヤバくないか?。何か、何か会話を繋げなければ……。


「……り、リザードマンってこの辺りに居るんですか?」


「リザードマンだろうがゴブリンだろうがどっちでもいいのよ!さっさと身ぐるみ剥ぐよアンタ達!」


「分かりやした姉御!」


「へへ……悪いな、俺達はお前見たいな人間を食い物にしてる悪もんなんだよ!」


こわいこわーい強盗とのエンカウントが、異世界初の戦闘か。

怖いけどやるしかなさそうだな。


恐らく魔法を使ったのはあの若い女性だ。何故かと聞かれると、実は私自身が魔法を使えるからなのか、普段は目に見えない力である魔力を私は事が出来る様なのだ。


身体を包む白い色のオーラ見たいなヤツが見える。

そして彼ら彼女らを見ると男二人よりもあの女性の方がその白いオーラ、魔力が多い、つまり内包する魔力が高いって訳だ。


そして魔法の知識と一緒になって私にインストールされた情報によると、この魔力の量が相手の力量を測る目安とされているらしい。


何でもこの世界、魔力一つで肉体をかなり強化出来て、更に魔法が使えるかどうかで戦力に差が出るのは当たり前、従って魔力が多いイコール強いと言うのがこの世界の常識とのこと。


つまりあの女性の方がマッスル野郎二人よりも厄介で強いと言うことだ。

物理的に女子がマッスルよりも強いってある意味ファンタジーのテンプレだよな。


「やっちまいな!お前達!」


「「了解!」」


やべっ考え事してたら先制されたっぽい。


私が身構えると何故かゴーレム達は私の後ろに回り込む。


「…………はい?」


え?何で?まさか私を盾にする的な?。

嘘だろって一瞬思考が止まりそうになった時だ。



何か黒い影が私の背後、森の奥から出て来た。



ヒュゴウッ!。


風を切る様な音がした。

それは私とゴーレムをかわすように一瞬で移動する、巨大な影が動いていると思った。


……しかし違った。それはとても大きな虎だった。

真っ黒な虎である、全長三メートルくらいあるぞあれ。

私の目がその黒い虎を確認したと同時に、その虎は山賊的な連中に襲いかかる。


「ぎゃあああああああああああああ!」


「なっ何でこんな森の浅い所に!?…ぎゃっ」


一瞬でマッスルな山賊二人が殺られた。

片方は喉を噛み砕かれ、もう一人は爪で切り裂かれた。共に即死である。


残った女山賊はパニックである。


「なっ!?大影虎シャドータイガーがこんな日の高い時に狩りに来てるだと!?」


どうやらあの黒いのが大影虎と言うこの森で一等に強力なモンスターの様だ。

強そうだ。怖すぎるぞ。


不意打ちしてきた山賊が同じように不意打ちしてきたモンスターに蹂躙される。

なんて弱肉強食な世界なんだ異世界。怖いな。


そんなヤツに大きな声を上げた彼女はにらまれる。


「グルルルルルルルルルルルルルルッ!」


「ひっひいっ!?」


縮み上がる程の恐怖が彼女を襲う、実際ににらまれた訳ではない私ですらこの場の重い空気で身動きが取れないのだから彼女の恐怖はいかほどのものか。


それに耐えきれなくなった彼女は悲鳴を上げた。


「いっイヤァアアアアアアアッ!」


女性らしく高く可愛らしい悲鳴である。


「ッ!……だっダメで………ッ」


そして悲鳴を上げながら彼女は大影虎に背を向けて逃走を図る。

猫科のそもそも大型の獣に背を向けるとか、前の世界でも自殺行為だから。


そんな事を指摘したい私も極度の緊張でろくに声すら出せずにまごついた。


大影虎は来たときと同じ様に一瞬消えた。


ザシュッ!。


「あぎゃあっ!?」


そして次の瞬間、女山賊は身体を切り裂かれ死んだ。


「…………ッ!?マジかよ」


マジだよ。流石にリアルファンタジー。グロさがえげつないわ。

そして大影虎は獲物はまだ残っているとばかりにこちらに向き直る。


不味いわ。


「私を守って下さい!」


自分の頼みにゴーレム二体は応える様に大影虎と自分との間に陣取る。

しかし大影虎はまた消えた、するとゴーレム二体が粉々にされた。


瞬殺とか、される側は心底恐怖だな。


大影虎の足音が聞こえる、後ろの方からだ。

どんだけスピードを見せつける様な戦い方をするんだよって思った私だ。


後ろを見る、いない。


「……消えった?」


視線をゴーレムの残骸に戻すと。


居た。目の前に。


「ひぃっ!」


「ガウッ!」


喉元に噛みつかれた。


これは死んだな、間違いなく。


………しかしいくら待っても痛みも衝撃も来なかった。


「………何で?」


見ると大影虎の怖いくらい鋭い牙が私の服に届く数センチ手前で止まっていた。


まるで見えない壁にでも阻まれているような感じである。


「まさか。魔法鎧マジック・メイルが発動したのか?」


まさかこんなデカブツの噛みつきを平然と止めるとは、思った以上に大した魔法である。


……いやっ違うな。


この魔法の正しい知識を持つ私には理解出来る。

よりはっきり言ってしまえば、私の魔法がこんな雑魚に破られる筈がないんだと、この時私は理解したのだ。


要はあの青い太陽の言うことはマジだったって事だ、私はどうやら異世界で無双出来る方の異世界転生を果たせていたらしい。


ありがとう青い太陽とかゴーレムとか兎に角ありがとうとしか言えない。私は何とか戦えそうです。


意識するとさっきまで心臓バクバクと汗かきまくりだったのがスウッと落ち着いてきた。


「グルルルッ!」


私の気配が変わったのを見て理解したのか、大影虎は後ろにジャンプして距離を取った。


「……もう遅いよ」


この虎は私が倒せないと分かった時に全力で逃げるべきだった、それならこちらも追うことはしなかったのだが。

残念だが一度殺されかけた相手だ。私も躊躇なんてしないよ。


【魔法の鎖よ、我が敵の身体の自由を奪え。鎖縛封チェイン・バインド


片手をかざすと手のひらの前に二メートル程の白く光る魔法陣が現れた。

そしてその魔法陣から白く光る鎖が無数に飛び出す、その鎖が一瞬で大影虎を捕縛した。


自分で使った魔法だが、凄いな。瞬間移動見たいに早く動くあの大影虎のスピードをものともせずに捕縛してしまった。


「グゥグッガウルルルッ!」


大影虎は魔法の鎖から逃れようと鎖を噛んだり引き千切ろうと暴れるが鎖はビクともしない。

私の魔力から編まれた特殊な鎖だが、その強度は大したものだ。


そして……。


私はゴーレムの残骸に視線を向ける。

私の魔法が大影虎程度のモンスターに破られる訳がない。


思えば私はこのゴーレム達に自分を守る様にと言う命令しか出していなかった事に今さら気づいた。

ならばいい加減別の命令をしてみるとするか。


「ゴーレム達、この大影虎を倒して下さい」


指示を出した瞬間粉々になっていた土くれの破片がそれぞれの集まり始める。

さっきまでは人型に近い形だったが今回は大分その形が違う。


……これは、こん棒か?。


見るとそこには二本の長さ二メートル程のゴツいこん棒が宙に浮いていた。

土くれで出来ているとは思えないくらいに固そうである、あんなもので殴打されたらひとたまりもないだろう。


そんなデカイこん棒が身動きが取れない大影虎に襲いかかる。


ゴッドガッバギッボゴォッ。


骨やら何やらが砕ける音がいやにリアルである。

ちなみに私にはグロいのに耐性がない、さっき山賊が殺られたのも咄嗟に視線をずらさなければオエッてなっていた自信があるくらいだ。


やがて殴打の音が止み。

一瞬チラッと見た………。


「ッ!………オエェッ……」


………吐いてない。


ギリギリ吐きはしなかったが、これは酷いなゴーレムには今度は切れ味の鋭い武器になってもらってスパッと決めてくれる様に頼むとしよう。


気分が悪すぎるので少し精神を安定させる魔法を使おうか。


【我に精神の安定と癒しの力を。精神回復キュアー


ふうっどうにか吐き気とかは消えたな。


「……しかし、この凄惨な現場をどうすれば良いんだ?」


私の視界にあるのは、まぁあれである。

実にスプラッタな感じだ、だって山賊が三人と超デカイ虎が死んでるから。

血とか凄い量が飛び散って……やめよう下手の意識するとまた吐きそうになる。


「……なんとかこの現場だけでも綺麗に出来ないか?」


いくら全員私を殺そうとした連中ばかりとはいえこの場を知らぬ振りをして町を目指せる程私は神経がどうにかなってはいない。


しかしどうしたらものかと考えていると、こん棒になったゴーレム二体が動いた。

身体を一度ただの土くれに戻し、ゴーレムの核となっている魔力核だてになって宙に浮く。


そして二つの魔力核が青い光を放ち出した。


眩しいな。あっ現場のスプラッタな死体や血やらの色々なものが何故か青い光の粒子になって消えていく。


やがてその粒子は私の魔力核に吸い込まれる、数十秒程で実に酷い光景だった現場がまるで何もなかった様に自然の森の道に戻っていた。


おおっ自動掃除魔法。超便利。


しかし変化はそれだけではなかった、私は宙に浮くビー玉見たいな魔力核を見ると……。



何でかそこには女性が二人立っていた。



「…………は?」


『ご主人様、人間の死体を我々の素材として回収しましたが。問題はありませんでしたか?』


『我々は人間の死体を素材とする事で言葉と思考能力を得た貴方の僕です』


なっなるほど、なんか見たことある顔だなと思ったら、二人ともさっき私を殺そうとした女山賊にクリソツである。


それが二人、そっくりさんとかってレベルじゃないな、双子のレベルで瓜二つである。


『我々は共にご主人様の魔力より生み出された者です、個々に意思はありますが能力等は共有化出来ますから…』


『この様に取り込んだ素材と同じ姿を二体共変身することが出来るのです。無論戦闘力、魔法やスキル。生前の記憶まで全てコピーできます。人格まではコピーしませんが…』


「わっ私の疑問に答えてくれてありがとう…」


確かにゴーレムであるこの二人の能力について、魔法知識にはないものがちらほらと出てきた。


確かゴーレムを生み出す為には自身が生み出した魔力核にゴーレム魔法を付与する事で後は自動的にゴーレムの生成が行われる。



この説明があるから省かれたのか?どのみち人を殺してゴーレムの材料にした見たいで……うわぁっどうすんのこれ……。

良心とかが凄い痛む、いくらこちらを殺そうとしたとはいえ。


「人を材料にってこれは……」


『ご主人様が事前にゴーレムの材料として除外するつもりだったのは生きている人間やそれに近しい生き物だったのでは?』


『少なくとも我々はその様に生まれた時のインストールされた情報にはありました、しかし数ミリ以下の生物や死体にまではそれに該当しないのでは?』


え?そんな事を事前に決めなくちゃなの?いやっ多分だが材料にして良いものの線引きは本人の知識と良識によって自動的に行われる筈だ。


だってそんな取り決め私は何も決めてないから。


『……それにこの身体の元になった女は、ご主人様を本当に金目の物やらを奪って殺す事しか考えていませんでしたから……』


『そこまで気に病む必要はないと断言出来ます』


所で片方が途中で言葉を切ってもう片方が繋げるその会話は一体?。


しかしまぁ……あれだな、確かにあの子はそんな感じの子だった。


『それに不細工とか足が短いとか肌が黄色いとか心のなかで凄くバカにしていました』


………本当はさ、内心ではステキなおじ様に胸キュンとかあるかもっとか後々でハーレム加入する可能性とかオッサンは考えていたのに……。


リアル女子は素直で残酷だ。まっ私が女性の立場なら、全く同意見だと思うけどね。


『一重で鼻が低い事も見下していましたよ?ゴブリンやオークみたいだって……』


「………………………………」


何で君達はあの女山賊の悪意を私にストレートに伝えてくるの?しつこいよ?泣くよ?。


そんで完全に貢ぐ君以下の存在だった様だ。


「それなら、まっ良いですね今さら気にしても仕方ないですからね!」


オッサンも人間だから、自分に冷たく非情な人間にまで優しくとか無理無理。


むしろ戦力アップを喜ぼう。


そんな感じで魔法を使える前衛の女性姿(これ大事!)のゴーレムをゲットした私はガイドブックを片手に近場の町を目指して歩き出した。


……………目頭に涙が溜まるのを感じながらな。





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