第4話 人道

「はっ?」

「ですので・・・あなたの過去をいただけませんか」

 何を言っているのかわからない彼女。そもそも彼女がなんなのかもわからない。

 マイナスとマイナスを掛け合わせるとプラスになるというが、訳の分からない状況が重ね合わさってもどんどん混沌カオスになる。僕はその状況を理解できずにいた。


「あなた、死ぬおつもりでしたよね?」

「えっと・・・」

「そんな辛い過去いらないじゃないですか。私にいただければ、あなたもハッピー、私もハッピーになります」


「僕はここから・・・落ちて・・・」

「変わりません」

 彼女の優しい口調から、強い口調へと変わった。


「えっ」

「あなたがそこから落ちて死んだとしても、何も、誰も変わることはございません。ただ、あなたが落ちただけと処理させれます」

「いや・・・これだけネットが普及した世の中なら意味が!!!」

「何にもありません。そして、何も、誰も変わることはございません」

 きっぱりと断言する彼女。


(こいつは、僕の何を知っているんだ)

「あなたはこう考えているのではありませんか?自分の悲しみ、苦しみをこいつは全くわかっていないと。違いますか」

 僕は彼女を見つめる。

「わかっていたから、私はここにいるんです」

 僕の無言を肯定と判断した彼女は言葉を続ける。


―――僕は訴えるために死を選ぼうとしているが、それは無意味


―――この地獄を耐えたところで何も残らない


 死すら・・・行き止まり。


「君は誰なの?」

 今更ながら、彼女の素上を訪ねる。

「私自身も私がなんだったか存じ上げません。しかし、私が生きるためにはあなたのような濃厚な過去が必要なのです。それだけが私の望みです」


 この言葉を信じて過去を渡すのか、信じずに命を落とすか―――

 

 1つ言えることは・・・僕の人生はこの選択に立たされた時点で終わりを告げた。

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