第3話 暗闇の女
「あなた、良い過去をお持ちで・・・」
白いスーツにシルクハットの女が深々とお辞儀をしている。
「ひっ」
顔を上げた彼女の顔は無かった。
いや、無いというと語弊があるだろうか。彼女の顔は暗闇だった。
まだ、綺麗に夕陽が出ている。彼女の綺麗なスーツは夕陽を反射させてオレンジにも見えるが、顔から首元まで黒色ではない暗闇がそこにはあった。手や足もそうなのか目線を代えるが、純白の手袋と純白のズボンで分からない。そして、足元を見ると、彼女には影がない。
「そんなにジロジロ見ると・・・突き落としますよ」
その顔に吸い込まれそうになる。
「うわっ」
怖くなって足を踏み外しそうになる。
ガシッ
女とは思えない彼女は僕の手を握ります。
「冗談ですよ?アクト様」
心臓が掴まれているような恐怖。逃げられない。
「うっうわああああああああっ」
「大丈夫です。私はあなたには何もしませんよ」
ふっ、ふっ、ふぅ、ふぅーーー
息を整える。ゆっくりと彼女は手を離す。
「よろしいですか。アクト様」
「うぅ・・・」
こんな時に機転の利いた言葉を言えるようだったら、僕が死を選ぶことも、虐めてきた奴らが僕を選ぶこともなかっただろう。僕はようやく息は整ったが、頭は全然働かない。
「アクト様。あなたは特別でございます。あなたほど、特別な・・・存在はございません」
彼女はきっと僕の一挙手一投足を見ている・・・いや、見定めているのかもしれない。
「落ち着きましたか?アクト様?」
彼女はどうやら、僕が落ち着くのを待っていたらしい。僕も彼女の存在が何なのか考えていたら少しは落ち着けたらしい。
彼女はもう一度、深々と頭を下げる。
「あなたの、過去。私にいただけませんか?」
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