第2話 振り返ると奴がいた

 ハッと気づいたら、屋上にいた。


 屋上は立ち入り禁止になっていて、どうやって入ってきたのかは分からない。

 後ろを振り返るがドアが開いている。

 僕はそのドアの向こうに2つの悪があったことを知っている。

 

 1つは、人気ひとけのないその場所は僕が良く理不尽に虐められていたこと。

 そして、もう1つは、その現場を抑えた僕の担任が事実を黙認したことだ。

 

 思い出すと胸が苦しくなる。

 光り輝く扉から出てきた男を神が遣わした救世主だと思った。

 しかし、顔が見えるとその醜悪な顔は僕を絶望に落とした。


 とてもめんどくさそうな顔。

 

 僕が虐められていたときに屋上のあの扉から僕の担任が出てきた。

 

 タバコのにおいをさせて。

 

 当然校舎・学校敷地内は禁煙だ。僕の担任はこっそりと鍵を持って、よく屋上に行って一服していたようだ。虐めていた連中もその匂いのことはわかっていただろう。僕を除いた利害関係がある担任と虐めていた連中は結託して、お互いを黙認することを決めた。

 

 あの扉は羅生門ではないか。

 

 くすっ

(なんだ、この高揚感。まるで、知的な哲学者)


 もしかしたら、さっきの僕の声かけで動揺した担任が一服をして、そのまま鍵を閉めずに帰ってしまったのかもしれない。


「へへっ」


 これで、僕が死ねば何もしなかった担任が違反をしていた罪も、不注意だった罪も、そして僕を見捨てたこと罪も降りかかるだろう。いい気味だ。そして、世界の善であり、英知が失われるのだ。


 この世に善はない。


 けれど、パンドラの箱も開けたことで様々な厄災を世に放ったが、最後に希望が残った。なら、僕の死を起因としてこの世に善が生まれるかもしれない。


 

 もしかしたら、僕が死んでもあの担任は罪悪感を覚えるのではなく、逆切れで僕を怨むかもしれない。しかし、周りからの悪として見られる辛さを身をもって味わうといい。


 ―――僕と同じように


 僕は屋上の端へ進む。


「わぁ・・・」


 町全体を見れる景色。


 あいつが一服した場所だと思うと不愉快だったが、この景色は聖戦を行う僕にはぴったりだ。


 風が吹いた。


 僕を後押しするように僕の背中を押す。

 

(さぁ、飛び立とう)


 ギィーーッ



 僕は慌てて、後ろを振り向く。

 誰かが来たわけでない。

 閉め忘れた屋上のドアが風で動いたようだ。安心して瞬きする。

 

 あれっ。


 そこに奴がいた。

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