『ギャラクシースター丸忍法帖~星間忍者大戦』三門出版BOOKS

 ああ、こんにちは。

 今日も、架空ライトノベルの話を聞きにいらしたんですか?

 なるほど、では少しばかりゆっくりしていきましょうか。

 マスター、いつものを。

 ここにわざわざいらっしゃるお客さんは、架空ライトノベルを読む方でもさらに変わり者が多いんですよね。

 だから皆さん、流行とかそっちのけで自分の好きな本について語っておられることが多くて、聞いていていつも刺激を受けるんですよ。

 おや、あちらの席でなにやら揉めているのは、どこかの架空文芸サークルのお二人ですね。

 では、ちょっと聞き耳を―――――――



「で、なんですか部長、こんなところに呼び出して」

「お前をここに呼び出すってことは、話題は一つしかないだろ」

「まあ、どうせ架空ラノベの話ってのはわかりますよ。でも、部長はいつも無茶振りばっかりじゃないですか」

「あ? なんか言ったか?」

「部長はいつも無茶振りばかりしてくると言ったんです。で、今日の用件はなんですか?」

「お前さ、なんか面白いSF架空ラノベ知らない?」

「うわ出た。凄い無茶振り」

「別に無茶じゃないだろ。気楽に言ってくれればいいんだよ、気楽に」

「気楽にって、SFはまず定義から揉めるじゃないですか。嫌ですよ、これのどこがSFなのかまずコンセンサスを示せとか、SF1000冊読んでから来いとか言われるのは……」


 ああ、これはある種のSFあるあるですね。

 濃ゆいファンだとそれくらいは普通に読んでいるのが最も恐ろしいところですが。


「そんな頭の固い老害はさっさと締め上げてしまえ」

「それで2年前散々に締め上げてもケロリとしていたのが部長じゃないですか……。落ちた後、目を覚ましての第一声が『で、俺が寝ている間に何冊読んだんだ?』ですからね」

「あったなあ、そんなことも……ホロリ」

「なんかホロリとか口に出してまでいい思い出風に振り返らないでください老害」

「まあ、それはそれ、これはこれ。俺もなんか新しい刺激が欲しくてさ。SF畑以外のSFを探しているのよ、で、架空ラノベ読みのお前の存在に思い至ったというわけだ」


 ジャンルの越境はなかなか人気作以外は拾いにくいですからね。

 こうやってサークル内で情報を共有できるというのは確かに強みではあります。


「そりゃどうも。ああ、そんなクソな理由で刺激を求めて蘇る部長にピッタリの架空ラノベがありますよ」

「お、流石だな。まずはタイトルから聞かせてもらおうか」

「『ギャラクシースター丸忍法帖~星間忍者大戦』です」

「は? 部員くん、ちょっともう一回言ってくれないか?」

「『ギャラクシースター丸忍法帖~星間忍者大戦』ですよ。付け加えるなら『エピソード1~サルガッソー風雲編』です。ちなみに著者は承地九倍とジェフリー・モンドの共著で、イラストは重厚な世界観で知られる漫画『グライフ街』の作者、名倉レイルです」

「まてまてまて、いくらなんでもあからさまにヤバイやつを出しすぎだろ」

「その反応が見たかったんですよ。でも、内容的にも今のマンネリズムに陥った部長にピッタリといえるものですよ」

「ホントかぁ?」

「本当ですって。まずタイトルからもわかるように、こいつはスペースオペラです」

「わかるか? ホントにわかるか?」

「ギャラクシースターに、星間に、サルガッソーですよ。ほらスペオペだ。あと大戦もスペオペっぽい」

「よし、お前のスペオペ観だけはよくわかった」


 スペースオペラ、スペオペ。

 宇宙冒険活劇とされがちですが、これも定義しにくいジャンルですよね。元々は蔑称が始まりだったらしいですし。

 それに、日本と本場アメリカでも定義にズレがありそうですしね。


「とにかく、主人公である『ギャラクシースター丸銀河星丸』、通称星丸やその他コズミック伊賀とスペース甲賀といった流派の忍者たちが、銀河帝国と星間連合の間にある闇を駆け、しのぎを削るのがこの小説の大筋ですね」

「いや、なんというか、タイトルから想像できるまんまの内容だな」

「しかしあらゆる点が想像を遥かに超えていきますよ。まずなにが凄いって、忍者たちの忍術が凄い」

「いわゆる火遁かとんとか、水遁すいとんとか、そういうのか」

「ええ、それです。そういうやつです。しかし、サイバネティクスや精神拡張、宇宙的ダークマターで極限まで心身ともに強化した宇宙忍者は、平然とこの世のことわりを捻じ曲げていきますからね。例えば星丸の『星遁の術シューティングスター』は、隕石を自由に操ってスペース倒幕軍の宇宙船団を壊滅に追い込んだりするわけです」

「色々おかしいが、まずそのルビをどうにかしろ。あと倒幕軍ってなんだよ。幕府か? 幕府なのか!?」

「はい。大銀河トクガワ帝国幕府ですよ。コールドスリープ状態にある形だけの『ミカド』を中央に据えて、1000年の鎖国を解除し、全銀河の支配を目論む巨大帝国です」

「うん、そのまま続けろ。ツッコミ場所がもうわからん」

「一方で商船連合『シュバルツフリート』の支援を受け、その幕府に反旗を翻したのがスペース倒幕軍というわけです」

「商船なのか艦隊なのかドイツ語なのか英語なのか……」

「もはや我々の知る西暦は遥か過去に消え去った世界という設定ですからね。ありとあらゆる言葉は、古代文明の電子データの海から発掘されたそれっぽいものが流用されているというのが、この世界の基盤の一つとしてあります」

「上手いこと落とし込んできやがったな。で、そのシューティングスター以外にはどんな術があるんだ?」

「スペーズ甲賀の懐刀であるライバルの『スティルサン郎静陽郎』が使うのは『太陽遁の術ソーラレイ』、これは左腕に仕込まれた人工太陽の出力で敵を焼き尽くすタイプの術ですね」

「仕込まれてるのか、人工太陽」

「スペース甲賀はサイバネティクスを基盤に据えた文明の力を信じる流派ですからね。一方のコズミック伊賀は精神拡張によるマインドキネシスを軸にした人間の可能性を信奉する流派で、このあたりの思想の違いによって流派が別れたとされています。部長はどちら派です?」


 この対立軸も面白いところですね。

 科学信奉と人間信奉を流派に落とし込んでいるのがこの作品のキモの一つといえる部分でありますね


「うわっ、どっちも関わりたくねえ」

「協調性のない部長ならそう言ってくれると信じてましたよ。じゃあ傭兵忍者集団『新たな波ヌーヴェル・ヴァーグ』ですね。僕のお気に入りの『ヴァーティゴ座眩暈座』もここの忍者でしてね。こいつは別次元からやってきたと自称しているピンク色の忍者で、『第四壁遁の術メタフィクション』を使って読者に語りかけてきたりする凄いヤツなんですよ。まあ、1巻にはあとがきにしか登場しませんが。あとがきは基本、承地先生とモンド先生となんかいるこの忍者の鼎談方式です」

「聞けば聞くほどメチャクチャなんだが、大丈夫なのか、その小説?」

「まあ、こうやって語られる外側の要素はトンチキ日本とハチャメチャスペースオペラを融合させてしまったふざけにふざけまくった作品ですが、話の根幹は古来からの忍者モノの軸を一本通してますからね。基本は短編から中編なんですが、必ずしも主人公が正義の立場ではなく、また、必ずしも勝利をおさめるわけでもない。主人公格やサブキャラクターたちが見せる忠義、復讐、人情、絆と裏切り、……そういった要素が盛り込まれた話はどれも熱いんですよ」


 このあたり、びっくりするほど忍者モノの空気があるんですよね。

 ガジェットはバリバリにSFなんですが。


「今お前ふざけまくったとか言ったぞ。聞き逃さなかったからな」

「退屈持て余してはびこる部長にはこれくらいの刺激が必要なんですって。とにかく、どこを切ってもふざけているのに、ちゃんと読むと脈々と続く由緒正しき忍者モノの脈流をきっちり感じ取ることができる。まさに新世紀の忍者活劇にしてスペースオペラといったところですね」

「……大丈夫か、この作者」

「お、鋭いですね。表面上はいつもふざけてる承地先生より、翻訳もあってモンド先生のほうがまともと言われがちなんですが、よくよく発言を拾っていくとモンド先生のほうが狂気が深いというのがファンの間では定説ですよ」


 承地先生の著者近影はいつもへんなコスプレですけれど、モンド先生は目の座った厳つい白人なんですよね。

 全く対照的に、近くにいたら距離を置きたいタイプだという。

 本人たちの弁によれば、この二人は古本屋で偶然出会ったそうで……。


「大丈夫じゃないのが揃ってるじゃねーか!」

「狂人に狂人をかけて100倍というわけです。わかりますか?この算数が。ええ、つまり最強なんですよ」

「最も狂ってると書いて最狂の間違いだろ」

「それは否定しません」

「しないのかよ!」

「熱いバトルとヤバいギャグを書かせたら天下一品だった承地先生に、モンド先生のハリウッド仕込の世界観と工学知識とテクニックが融合した最高傑作、部長もぜひニューロンを破壊されてください」

「お前さあ……。まあいいよ、その作品が凄いのはわかった。で、ちゃんとSFなのか? 問題はそこだぞ」


 そういえばそんな話でしたね。


「では聞きますが、部長の考える『SFの定義』ってなんですか?」

「あっ、くそ、お前がそれを聞くのかよ。そうだな、俺にとってのSFは……『科学が見せる世界』だな」

「なるほど、なんか部長らしからぬすげー無難な答えで来ましたね。でもそれなら大丈夫! 先程まで話からもわかるように、この『ギャラクシースター丸忍法帖』は圧倒的に科学を描くのが上手いんですよ。たぶんモンド先生の知識でしょうね。特にサイバネティクスの可能性については、普通にこの作品より鋭い小説って早々ないと思いますよ。まさに最先端!」

「まあそれはわからんでもない。ないんだが、なんというか他の要素が強すぎてな。なんかラーメン頼んだらチャーハンとカレーライスとステーキとハンバーガーと寿司と天ぷらまで出てきた感じなんだよな……。もうラーメンがテーブルの隅っこに置かれてるぞこれ」

「じゃあ『スチームスチールSスティグメントS』か『神に至る病』でも読んでりゃいいんじゃないですか。面白いですよ。かくラノでもランクインしてるし」


 面白いですよね、これらの作品。


「拗ねるな。拗ねて有名どころを投げてオチにするな。それにそれらはもう読んでるよ。ふん、まあいい。せっかくだし、そのギャラクシースター丸とやらを読んでみることにするか」

「ああ、ちなみに略称は『銀丸』です」

「そこは星丸じゃないのかよ!」



――――――どうでしたか。今回の架空ラノベのお話は。

 SFの定義というのはいつの時代も難しいものですが、ライトノベルはそこに挑戦している作品も少なくないんですよね。

 最近ではポストアポカリプスものが密かなブームになっていたりもするみたいですし。

 私ですか?

 私はまだまだSFを語れるほど読んではいませんよ。

 なんせ1000冊読んでスタートラインですからね。

 他にも色々と読みたい本もありますので。


 ではまた、ここでお会いしましょう。

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