4-4
「……あいつらさえ、いなければ」口が自然と動く。
場の視線が一斉に集まるのがわかる。だが、続く言葉を止めることができない。
「あいつらさえいなくなれば、いいんだろ?」
「お前、何言ってんだ?」
組合長の問いを振り切るように、俺は立ち上がる。
「全部守ってやる。村も、カナリアも、全員を」
踵を返し、居間を出る。組合長の声が背中にぶつかったが、構わず玄関へ向かう。
ユニットを停めた空き地への途中で、追い掛けてきた村の連中に取り押さえられる。三人掛かりで取り押さえられ、ようやく進むのを断念する。
目の前に、組合長が立ちはだかる。
「馬鹿な真似するんじゃねえよ。あそこに浮かんでる一隻落としたところで何が変わるってんだ。下手すりゃ報復で、今度こそ地上は滅ぼされかねないんだぜ?」
「俺は人間だ。だから、同じ人間をモノとして扱うことはできない。喋ってる人間を、笑ってる人間を、一緒に飯を食った人間を、どうなるかもわからないような所へ連れて行くことはできない」
背中には三人乗っているはずだったが、力を込めれば身体は動く。這ってでもユニットに辿り着いてやろうと思う。
「俺はクーリーだ」
自分の呻きに、アオジの声が重なる。あの雨の中――初めて彼と会った廃墟での光景が、脳裏に広がる。
「だけど、その前に、人間なんだ」
アオジが一番初めに、俺に教えたこと。
彼が俺を拾った理由。
俺の中心を形作るもの。
人間としての本質。
ふと、背中が軽くなる。
乗っていた男たちが憑かれたように、あるいは憑きものでも落ちたように離れたのだ。俺は立ち上がり、月明かりに照らされた組合長と対峙する。
「皆に迷惑は掛けない。約束する」
「……考えがあるのか」
「要は、俺たちの仕業だってばれなきゃいいんだ」
組合長が、頭の奥まで見定めるような眼を向けてくる。
俺はその眼差しを見つめ返す。
長い時間が経ったようにも思うし、あっという間だった気もする。やがて組合長は観念したように身を引き、道を空ける。
歩き出すと、後ろから組合長の声が掛かる。
「命を捨てるな」
俺は振り向かずに頷き、再び歩き出す。
空のコンテナを積み、ユニットを起動させる。
エンジンが温まるのを待つ間、コンコン、とハッチを叩く音がする。モニタを暗視モードで点けると、ツバメとカナリアの姿が映る。俺はハッチを開ける。
ツバメは握り飯を作って持ってきたのだ。その包みを見て初めて、俺は昼から何も食べていないことに気付く。包みを解き、丸い握り飯を頬張ると、強めの塩気と米の甘みが口いっぱいに広がる。
「どうせ止めたって無駄なんだよね?」ツバメは言う。
「そうだな」俺は食いながら答える。「たぶん、遅かれ早かれ同じことにはなってたと思う」
「ハチ……」カナリアが碧色の眼を細める。
「そんな顔するな。お前のせいじゃない」俺は、彼女の柔らかな金髪頭に手を置く。「いつか誰かがやらなければならなかったんだ。人が、人として生きていくことを取り戻すためには。それがたまたま今だったってだけの話さ」
カナリアは納得しなかったようだ。彼女は何かを言おうとして、口を噤む。それでいい。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃい」ツバメが微笑む。
「家のこと、よろしくな」俺はカナリアに言う。
彼女は小さく頷く。
ハッチを閉め、ユニットを立たせる。緑がかった画面に佇む白い人影を振り切るように方向転換し、俺はレバーを前に倒す。ユニットが、闇の中を進み出す。
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