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 港へ向けて進路を取る。もちろん最短ルートだ。周囲の地形は、アオジから頭に叩き込まれている。

 それにしても運がない。身内を埋葬したその日の仕事が〈かれら〉への届け物とは。

 シェルターから〈かれら〉に送られるものといえば、一つしかない。

 人間だ。

〈かれら〉がやって来た時、人類はあらん限りの力を尽くして撃滅しようと対抗した。だが、そのどれもが無力に等しく、〈かれら〉に文字通り傷一つ付けることができなかった。一方的に戦いを始めた人類が一方的に降伏を申し入れた時、地上に残っていたのは廃墟と、兵器によって汚染された空気だけだった。

 皆殺しにされるものだと誰もが震えたが、〈かれら〉はそのような行動には出なかった。人類の代表者を呼び出した〈かれら〉は、崩壊した都市に変わる住処の用意を申し出、そこに入る者を選別するよう人間たちに求めた。

 ここで〈かれら〉から提供されたのがシェルターだ。中には、それまで人類が暮らしていた都市を凌駕するほどの技術を使った街が作られていた。そこでは万民に等しく衣食住が保証され、清浄な空気が満ちているとのことだった。避難用シェルターどころか、人類の歴史上類を見ないような楽園である。わざわざ募らずとも、入居希望者は殺到した。そのせいで人間同士の殺し合いが起きたほどだ。

 他人を蹴落としてまで身をねじ込んだそこが楽園などではないと人々が気付くまでには長い年月が掛かった。ある程度の世代交代が済んだ頃、〈かれら〉はシェルターに人間の供出を要求した。

〈かれら〉は健康な人体を必要としていた。恐らく、それこそが〈かれら〉がこの星へ来た目的なのだろう。そうして手に入れた人体をどうするつもりなのかは誰も知らないが、ただ少なくとも、一度〈かれら〉の元へ行けば二度と地上へ帰ってこられないことだけは確かだった。こうしてシェルターの住人たちも、自分らが置かれた状況を理解した。

 絶望はあったに違いない。だが、それも長くは続かなかった。彼らは楽園での暮らしに慣れすぎていた。そこでの〈幸福〉が、やがて待ち受ける〈不幸〉と釣り合いの取れたものだと判断した。労働もなく、日がな一日歌をうたったり絵を描いたりして過ごせるのなら、土に還ることができないぐらい何でもないと思ったようだ。そうして〈かれら〉とシェルターの利害は一致して、今の世界の構造はできている――もちろんこれもアオジから聞いた話だ。

「彼らは納得した上で、コンテナの中に入ってるんだ」初めて〈生もの〉を運んだ時、中身を知ってショックを覚えた俺に、アオジは言った。「それを不幸とか哀れに思う筋合いは、俺たちにはねえんだ」

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