参
剛覇と12代目は北側のすべての土地を回るのが、始めから無理だと分かっていた。
南側、北側と言っても、それは封凛華山を境に分けているだけで、その領土は等しくはない。
北側は、南側の4倍、つまり、国土全体の5分の4を占めていた。
南側(因果応峰を除く)を回り終えるのに、12代目は5年かかっている。
単純計算で、北側を回り終えるには、その4倍の20年はかかる。
さらに北側は、南側に比べて山が多いため、移動にはさらに時間を要した。
だから12代目の残りの命、半年ですべてを回るのは、どう考えても不可能なことだった。
でも、剛覇も12代目もそれを口には出さず、2人ですべての土地を見て回ろうと、そう約束していた。
それから1年後、12代目は医者から宣告されていた倍の時間を生きると、息を引き取った。
旅先で看てもらった医者は、北側の気候が12代目の体に合っていたからという判断を下していた。
しかしそれよりも、剛覇の笑顔が12代目にとって何よりの薬で、唯一の特効薬だったから――という理由にしておく方が、ずっとロマンチックだろう。
死の間際、12代目は言った。
「剛覇。君に教えた『
君が初めて会ったとき、僕にそうしてくれたように――人を救う技だ。
君がこの1年の旅の間、僕にそうしてくれたように――人を癒す術だ。
でも……それを生かすも殺すも、生かすに使うも殺すに使うも剛覇次第。
忘れないで。僕のことは忘れてくれたって構わないから、この言葉だけは忘れないで……」
「12代目……わたしは……」
「駄目だよ。そんな顔しちゃ。剛覇は笑ってた方がずっと可愛いんだから……」
剛覇は涙をぬぐうが、いくらぬぐってもそれは止まらなかった。
それでも、剛覇はなんとか笑った。
「12代目こそ、何よその涙? わたしは知ってるから。12代目も、笑顔が一番素敵だってこと」
2人は互いの笑顔を確認し合って、
「可愛いよ」「素敵よ」
と言った。
最後に、剛覇は自分の唇を、12代目の唇にそっと重ねた……。
12代目が死んではもう旅をする意味もなく、剛覇は城へと戻った。
そして……城へ戻った剛覇の中には、1つの命が宿っていた。
◆
「やれやれじゃ」
依然、雨は強く降りしきっているが、生い茂る木々のためにそれはほとんど気にならなかった。
「やっぱり6年前とは変わっておるか。そもそも、どのあたりにあるか正確に覚えてもないからのう」
封凛華山に入った剛覇は、12代目と初めて会った場所を探していたが、見つけることはできなかった。
同族になったからというのは名目で、城を出たかったというのも名目で、本当は剛覇はもう1度あの場所に来たかっただけなのかもしれない。
あの場所が剛覇の居たい場所で、行きたい場所で、生きたい場所だった。
北側へ行くのも、12代目との約束を果たすため。まだ回っていない土地を回りたかったから……。
「やれやれじゃ」
と、剛覇はもう1度言った。
――こんなに公私混同するなんて、儂は姫としては最悪じゃな。
もっとも……女としても最悪かもしれんが。
あのとき言えなかった言葉を、そっと口にする。
「12代目……儂は……」
そのとき、鳴り響く轟音と叫び声が剛覇の言葉をかき消した!!
「た、助けてくれえ――――!!」
それを聞き、剛覇は音のした方へと駆け出した!
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