参
万象と別れた花鳥は、命からがら、いや、もう何度も死んでいる以上、命ボロボロと言うべきか?
ともかく、何とか因果応峰を越えて、こちらの国へと入る。
南狼たちから解放された花鳥は、万象と話していたときの笑顔など
そして口汚く、万象を
「くそがっ!! 何で俺がこんな目に遭わねえといけねえんだよ!? ったく、全部万象の馬鹿のせえだ!!」
花鳥は戻る途中、とうとう両足も南狼に喰われてしまった。
そうなると、もう
それでも、体幹はほとんど原型を保っていないため、丸1日使って山を下りた。
そうして山から出たときに、ようやく手足の再生は終わっていた。
『神の申し子』は不死身で、同時に体に傷を残すことはない。
全てが再生するが、その再生力は傷の程度に応じて変化する。
先程のように、頭や首が千切れたり、あるいは心臓を貫かれた場合、その傷は一瞬で回復する。
しかし、手足の切断となると、24時間程度。さらに、もっと軽傷なら人よりは多少早いくらいである。
花鳥は、再生したばかりの手足を使って立ち上がりつつ、今度は神へ対して
「神の野郎も馬鹿だ! こんな中途半端に人間なんぞに近付けやがって!! せめて、俺にアイラくれえの力があれば、あの狼共はそもそも襲っても来ねえんだろうがな」
アイラの力への憧れをつい口に出してしまったことに気付いて、花鳥は
その場には誰もいないというのに……。
しかしもし、アイラが千里眼でここを見ていることを考えると、花鳥は言わずにはいられない。
「そうだ。所詮はこの世界では力が全て。生まれながらに才のある奴らに、俺みてえな凡人は敵わねえ。アイラや、あるいは羅殺みてえな奴らは、俺なんかとは格が違え。だったら奪うまでだ! 奴らの持っている才を!! 力を!! 俺がすべて……すべて奪いつくしてやる!!」
花鳥は1人、言いながら思いが募っていく。あのときの思いが……。
そのまま誰もいないのに、いつまでも呟き続ける。
「まず差し当たって万象。あいつはもう放っとくしかねえか。できれば何とか利用したいが、羅殺とは間接的にも接触すべきじゃねえ。万が一にも、死んだらシャレにならねえしな」
1つ1つ整理し、これからの計画を練る花鳥。
「万象はあの国じゃ力は使えねえし、死なねえにしても、これで盤の外だ。同族共に俺好みの世界を創らせて、神とアイラの悔しむ顔を見る気だったが、これでもまあ、悪かねえ」
万象がこちらの国に入れない以上、同族がそろうことはない。
奇しくも、神は自ら創った因果応峰によって、自らの願いを絶たれていた。
花鳥は次に、残された同族とアイラ、そして唯の代理監督者について考える。
――となると、残りの同族と監督者か。
同族は万象と羅殺以外はまだ分からねえ。
万象のセリフによれば、残り3人のうち2人は、行雲 龍炎と師々 孫々か?
もう1人については名前……どころか、すでに同族なのか、まだ球のままなのかも分からないときてる。
ったく! アイラの奴は、千里眼ですでに全員把握してるはずだってのに。
どうあっても、あいつには一歩先に行かれちまう。
アイラに先に接触されちまえば、同族はアイラの側に付くだろう。
あの人たらし女の手にかかれば、そんなのは簡単のはずだ。
それから、唯もまだ目覚めねえままだろうしな。
1000年分の記憶と年齢を奪ったんだから、間違いねえ。最低でも10年以上は気絶してるはずだ。
そうなると、代理監督者が遣わされるはずだが……。しかし代理監督者についちゃあ、さらに謎だ。
どんな存在なのか、『神の申し子』なのかどうかも。まさかアイラ以上ってことはねえだろうが……。
しかしそれに関しちゃ、遣わされるときに神の啓示があるはず。神の奴は人の願いなど聞かねえくせに、命令ばかりしやがるからな。
唯の代理? ふざけんじゃねえ、認めるかよそんなもん!!
唯の代わりなんてどこにもいねえ! どんな奴だったところで、たとえ人間でも、どんな手を使ってもぶち殺してやる!!
「何にしろ俺の使える駒を増やさねえとな。フフフフ。いいこと思い付いたぜ。こいつらの出番だ」
花鳥は因果応峰に入る前に、入り口に残してきていた武器を手に取る。
2つの武器。太陽と月。
アイラから奪った
「ここは神の愛する国だ。さぞかし宗教も広まるだろう。馬鹿な信者共を増やせば、それで一軍が出来上がる」
それから振り返って、花鳥は因果応峰を見る。
山が透けて見えるはずも、一山向こうの万象に声が聞こえるはずもないだろうに。
花鳥は万象に対して告げる。
「お前の名前を利用させてもらうことにするぜ。初めて因果応峰を越えた世紀の英雄、神羅 万象さんよお。それにこの名前を使ってれば、龍炎とか孫々とかいう奴らも接触してくるかもしれねえからな」
それから、当たり前だが何の未練もなく因果応峰を後にする花鳥。
「こっから俺……おっと、いけないけない。フフフフフ。ここから、私のターンの始まりです」
向かうは北。
そこから一番近くの村、どころか、最も近い建物に、師々 孫々がいることなど
不敵な笑みを携えて……。
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