弐
「アイラ」
「ちゃん」
「呼ばない」
「何でしょう?」
行雲 龍炎。14歳。
長身の少年。現時点で170cm後半。今尚成長中。
腰に刀を帯びる。父親の形見。
男としてはうっとうしくらいまでの黒髪。
首が隠れる長さ。毛先はボサボサ。
同族。火の神
一回り下の弟がいる。行雲 龍水、2歳。
茎怒 アイラ。500歳。(自己申告)
外見年齢は10代半ば。
小柄な少女。おそらく140cm後半から150cm前半。
ひざ裏まで伸びるストレートロングの黒髪。
真紅のドレス。太陽のような笑顔。
『神の申し子』、監督者。5つの自然物をどこにいても操れる。
500歳年上の兄が2人いる。花鳥 風月、1000歳。一無二 唯、1000歳。
あれから、龍炎は龍水を見て、その間にアイラが医者を呼んできた。
アイラに関しては、龍水や数人の村人の証言で信頼した。
孫々は一命を取り留めた。しかし現在昏倒中。
ここ数日が山場、とは医者の弁。
今は医者が帰って、道場とは別に無事だった離れに孫々は寝ている。
そしてその枕元で2人は話していた。
「お前が孫々を殺そうとしていたわけじゃないのは分かったが、じゃあさっきのは何をしていたんだ?」
「稽古です。体術の稽古」
「あれのどこが体術の稽古なんだ? さっぱり分からん」
「わたしに言われましても……。ただ孫々さんが言ったんですよ。『体術を極めんとすれば、飛んでくる矢を素手で受け止められるくらいにならないといけない!』と」
「飛んでくる矢を受け止めるって……そんなもんできるわけねえだろ」
「わたしも言ったんですが、やるって聞かなかったんですよ。どころかその稽古を門弟さんたちに強要しまして……。そのせいで門弟さんたちは1人残らず辞めちゃいました」
「そりゃあそうなるだろうな」
これまでサボりまくっていた師範代が、何を思ったか弓矢を受け止める稽古をさせてきたのだ。
そんなもの、矢を放つ方も受け止める方もごめんだろう。
人殺しにもなりたくないし、死にたくもなかった門弟たちの判断は至極当然である。
「それでわたしと孫々さんと龍水さんだけとなったので、孫々さんはわたしを相手に選んだわけです。わたしは断ったんですが、あまりにしつこかったので」
「でもまだ信じられないな。孫々がそんな稽古好きに変わるなんて。いや、実際は戻っただけなんだろうが」
しかし孫々の
アイラは申し訳なさそうにうなだれる。
「それについてはわたしにも少なからず原因があるんです。孫々さんをやる気にさせたのはわたしですから」
「それはアイラのせいじゃないと思うが。じゃあ道場が壊れていたのは?」
「あれはわたしが寝ぼけて寝返りを打ったら壊れたんです。ああ、怪我人はいないから大丈夫ですよ。孫々さんも龍水さんもそのとき離れで寝てましたから」
すべての驚きが消えたかと思ったら、新たな驚きが浮上する。
寝返りを打つだけで、いくらボロかったとはいえ、道場1つを崩壊させる少女。
少女が何者かということについて、すでに龍炎は説明を受けていて、さらにその証拠も見せられていた。
「アイラ、お前の千里眼ってどこでも見られるんだよな?」
「はい。なんでもお見通し、千里眼のアイラちゃんです」
「それなら、剛覇と……それから万象が今どうしているのか、見てくれないか?」
万象に関しては、最悪の結果を予想しての質問だった。
「剛覇さんは封凛華山を越えて、無事に北側へたどり着きましたよ。万象さんは……分かりません」
「分からない? どうして!?」
「実はわたしの千里眼って、この国の中しか見えないんですよ。因果応峰の山中が限界で、それより南は見えないんでう」
「でうって何だ? 誤魔化せてねえぞ」
なんでもお見通しのアイラちゃんは、なんでもお見通しではなかった。
アイラは説明、もとい釈明する。
「神の力はこの国の中でしか使えないんです。『神の申し子』も同族もそれは同じ」
「それなら万象は消息不明ってことか……」
「だけど因果応峰を越えたことは確かですよ」
「なら、『南の魔物』は?」
「はい。『南の魔物』は万象さんを見逃した後、北へ、つまりこちらの方へ向かったんです。もうここは通り過ぎてますけど」
「じゃ、じゃあ何か? 『南の魔物』っていうのは、ある個人のことなのか!?」
「ええ。悪鬼 羅殺さん。神にすら予想外の、まさに魔物です」
「悪鬼 羅殺? あからさまに危ない名前だが。神にすら予想外っていうのは?」
「ふむ。順番に説明しましょう」
アイラは話し出した。
「この国でしか神の力が使えないというのは、神がこの国を選んだからと思っていてください。
「とにかく、神はこの国を孤立した状態にしたかったんですよ。
「そのための因果応峰。そしてそこに住む南狼。
「狼ですよ。名付けたのは羅殺さんです。
「創るのは神の仕事ですが、名前を付けるのは人間の仕事ですからね。
「もっとも、羅殺さんを人間とすれば、ですが。
「神としては、誰もこの国に入れず、誰も出られないようにしたかったんです。
「だからどんな人間でも、
「ええ。ですから残念ながら、龍炎さんたちの両親も南狼に殺されちゃいましたよ。
「大丈夫ですか? 続けても? …………はい。
「しかしそんな南狼に殺されない人間が現れたんです。それが悪鬼 羅殺。
「彼のせいで決して越えられることのなかった因果応峰が越えられた。
「万象さんが行った国は、わたしでも全くの未知です。
「生まれるはずがない。どころか、生まれてはいけないんですよ。
「南狼に殺されない存在なんて。
「そう考えれば、羅殺さんは神が創った存在ではない。矛盾しますからね。
「それなら何か? それは魔としか呼べないような、神さえ越える力を持つ存在でしょう」
聞き終えると、龍炎はその名前をつぶやいた。
「悪鬼……羅殺」
「加えて羅殺さん。万象さんが持っていた球を体内に取り込み、同族になっています」
その程度、もはや龍炎にとって驚きではない。今日一日で驚きすぎた。
龍炎の
「万象のことが気になるな」
「万象さん? でも因果応峰は、羅殺さんがいなくなったとはいえ南狼がいます。確実に殺されますよ」
「分かっているよ。俺は怪々さんの話を聞きたい」
「怪々さん? 孫々さんの伯父さんですよね?」
アイラに説明は不要だ。千里眼であらゆることを見てきたし、その上500年前から今までのことをすべて記憶している。
忘れることはない。覚え違いもない。楽しい思い出も哀しい記憶も……。
龍炎は
「ああ。万象は旅立つ前に怪々さんに会いに行っている。もしかして、何か知っているかも」
「それで、今すぐ行くんですか?」
「いや、俺が行くよりも孫々が行った方がいいだろう。だから孫々が起きたら頼むさ。たまには孫々が旅に出て、俺が道場に残るのもいいからな」
2人はそれから、孫々の看病に明け暮れた。
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