参
「ふわあ~」
アイラの話が終わると、孫々は大きなあくびを1つした。
肘をついて寝転んだ状態で、孫々はアイラの話を聞いていたのだ。
まるっきり信じていない態度だった。
5日前にあの光景を見て、それから自分と龍炎と万象の名前を調べ、その上でここまでの作り話を作ったのだから、まあ大したものだと、そう思った。
しかしこんなくだらないことに力を使うなんて、なんとくだらない奴だろうとも、思うのだった。
話し終えたアイラは、しかし孫々の態度に気分を害した様子もなく
「むにゃむにゃですか?」
と聞いてきた。
『むにゃむにゃですか?』とは、おそらく『眠いんですか?』といった意味なのだろう。
別に返事も
――眠い。寝たい。早く帰れ。
気持ちよく寝ようと思っていたところに、いきなり変な少女が現れて、決して短くはない変な話を聞かされれば、不機嫌にもなるというものだ。
孫々は黙ったまま、アイラに背中を向ける形でごろりと寝転がった。
アイラはそれには多少腹を立てたのか、頬をぷうっと
「わたしの話、信じてませんねえ。じゃあ見せてあげますよ」
『見せてあげますよ』と言われ、アイラが何を見せるのかは別に興味もなかったが、なんとなく片目だけ開ける孫々。
その瞬間、彼の頭上から大量の水が降りかかり、全身がびしょ濡れになった。
いきなり冷水がかけられて、孫々は
――雨? スコールか?
しかし、空には太陽がサンサンと輝いている。太陽なだけに。
雲一つない青空だった。
自分の周り以外、アイラにも濡れた様子は全くない。
「何だ? 今のは……」
思わず孫々の口から洩れた言葉を聞いて、アイラは胸を張って答える。
「今のこそが神の力です! この道場の池の水をあなたにぶっかけたんですよ。物わかりが悪いおしおきです」
言われて、孫々は未だ混乱中の頭のまま、池の方を見る。
確かに池の水が明らかに減っていて、よく見ると池からここまでの間が所々濡れていた。
アイラは続ける。
「本当はこの力はあんまり使いたくないんですけど、戦闘じゃないしいいでしょう。わたしの力はあなたたち同族の超パワーアップバージョンなんですよ。あなたたちは目に見える範囲で一種類の自然物が操れるのに対し、わたしは五種類の自然物が操れます。同時に千里眼があるので、実質どこにいても操れるわけです」
明らかな証拠を見せつけられたことで、孫々は少なくともアイラが只者ではないことを理解する。
水をかけられたことへの怒りも忘れ、孫々は質問した。
「オレもその同族とやらなんだったな。オレには何が操れるんだ?」
ようやく自分の話に興味を持ってくれたことがうれしかったのか、さらにテンションを上げて答えるアイラ。
「水ですよ。わたしは同族に対しては同じ自然物しか操らないことがポリシーなんです。いいえ、たった今ポリシーにしました!」
「ふ~ん。水……か」
池へ視線を向けている孫々。
減っていた池の水はさらに減り、それはアイラに降りかかった。
「けほっ、けほっ」
むせるアイラ。孫々はそれを見ると、満足そうに笑った。
仕返しを忘れていたわけではなかったのだ。
しかしアイラはそれに対しては
「すごいですよ、孫々さん! 普通、初めての人は思い通りに操れないのに!! 狙い通りわたしに水をかけるなんて」
孫々はアイラの話はとりあえず本当なのだろうと、
同時に、こいつは馬鹿だと思った。
それ以上は何も思うことはない。孫々の中ではこれで話は終わった。
さすがに全身が濡れている状態で寝ることはできない。
風呂にでも入ろうか、その前にまずは体を
その一連の動きを見たアイラは、にわかに焦り出し、孫々に続く形で屋根から飛び降りる。
「どこ行くんですか、孫々さん?」
「自分の部屋。着替えて風呂入って寝る」
「ええっと……まだわたしの話が信じられないんですか?」
「信じるには信じたが、オレはそんなものに興味はない。そんなものよりは、お前の変な袴の方が気になる」
孫々はアイラの服に視線をやる。
「これは袴じゃなくてスカートですよ!」
「すかあと? それがその服の名前か?」
「この服の名前はドレスです。じゃなくて!!」
孫々はアイラの言うことがよく分からなかったので、服への興味も放棄した。
そのまま歩き出す。アイラはそれを追い抜き、孫々の進路を遮った。
「どけ」
「どきませんよ! こう言ってはなんですが、あなた少しおかしいですよ。普通、自分がいきなりそんな変な力を手にしたら、もっと驚くはずです。そうでなくとも、興味を持つはずですよ。元に戻りたいとか、龍炎さんたちにも伝えなきゃとか、いいえ、もう悪用したいでもいいです。そんな風に思わないんですか?」
「思わないな」
「おかしいです」
「オレはオレのおかしさなんかに興味はない」
孫々はアイラを避けて、先へ進もうとする。
アイラは肩を震わせ、とうとう怒り出した。
「ふざけんなあ――――!!」
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