「アイラ」

「ちゃん」

「呼ばない」

「何でしょう?」


 少女、茎怒 アイラのせいで屋根から落ちた孫々は、再びその場所に戻ると、アイラと向かい合った。

 なんだか、とても奇妙で奇抜な少女だった。

 年齢は龍炎や孫々と同じくらい。10代半ばといったところだろう。

 今は座っているが、立てばひざ裏くらいまでありそうな長いストレートの黒髪。

 その顔はとても可愛らしく、それもほがらかに笑っていて、誰が見ても好感が持てる外見だった。

 服装は……何という服なのか分からないが、上下が統一されていて、下ははかまのようになっている。

 色は真紅。所々に装飾が施され、高価なものなのだろうと思われた。


 孫々はアイラへの警戒心を強く持つ。

 しかしそれは強く持とうと思わないと、すぐに崩れてしまいそうだった。

 この少女の前には、感情を待たないこの少年ですらそう思わされてしまうのだ。

 それほどまでにアイラの笑顔はまぶしく輝く。まるで太陽のように。


「いったい何の用なんだ?」

「わたしはあなたに用はありませんよ。あなたがわたしに用があるんです」

「オレがお前に?」


 孫々は、この少女はどこか精神異常があるのではないのかと思った。

 だとすれば、自分の手には負えない。

 頼りなかった警戒心は、多少強度を強める。

 しかしアイラは、そんな警戒などお構いなしに、孫々の心に踏み込む。


「はい。あなたたちの体内に入った球について、知りたいと思っているでしょう?」


 孫々の警戒心の強度は、はるかにその強さを増した。

 なぜそのことをを知っているのか? 

 そして、あの球についてもこの少女は知っているのか?

 それらの疑問は心に留めるにはあまりに大きく、孫々は口に出す。


「なんでそのことを知っているんだ?」

「見ていたからですよ。あなたたちが同族になるところを」

「見ていた? 同族?」

「ええ。なんでもお見通し、千里眼のアイラちゃんです。あなたがわたしに用があるのも、だからお見通しなんです」


 ぶいっとピースサインを決めるアイラ。

 孫々がアイラを見る目は、完全に不審者を見るそれとなっていた。

 この子はあの様子をどこかで見ていて、口から出まかせを言っているのだろうと思った。

 これは孫々のように感情に乏しくなくても、誰でもそう考えることだろう。

 まさか目の前のこの少女が本当に千里眼の持ち主で、人間でなく、ましてよわい500歳などと誰が信じよう。

 孫々が呆然としている間に、アイラは聞かれてもいないことを得意げに話し出した。

 例の球と自分自身の話を。


「あなた――孫々さんの体に入った球は神が創ったものなんですよ。

「何で名前を知っているのかって? そりゃあ知ってますよ。

「わたしはあなたが生まれたころから見てたんですから。

「本当ですって。とぅるーですって。

「雲の上から見てたんですよ。千里眼でずっと。

「だからもちろん、あなただけじゃなくて龍炎さんや万象さんのことも知っています。

「わたしが何者かというのも後で話しますよ。まずは球の話です。

「その球には、昔世界を創った5体の神の力が込められていまして……ああ、ここで誤解しちゃ駄目ですよ。

「神はあくまで1体なんですよ。でも同時に5体なんです。

「1体であり、5体でもある。800万体でもあり、無限大でもある。

「そのすべてが矛盾なく成立するのが、神という存在なんです。

「それでも何体かと聞かれれば、1体なんですけど。

「よく分からない? ええ。実はわたしにもよく分かりません。

「ともかくここでは5体の神、名前はそれぞれ

「火の神 天照アマテラス

「水の神 天降アマフラス

「土の神 天裂アマサケル

「木の神 天茂アマシゲル

「金の神 天断アマネダツ

「というんですが、それらの神が世界をもう一度創り変えてもらうために、その球を創ったんですよ。

「誰に? 人間にです。

「ここではあなたたちに、ということになります。

「球が体内に入った人間を同族と呼ぶんですが、同族には特殊な力が備わります。

「一、球に応じた自然物を操れる力。

「二、5人の同族が集まれば、望み通りの世界が創れる力。

「どの球でどの自然物が操れるのかは、人間には区別がつかないんですよ。

「同族と普通の人間の区別もつきません。

「それでも、わたしたちは見ればその球、あるいはその同族がどの神の力を持っているのかが分かります。

「そして、その人が同族かどうかも知ることができます。

「死神の目みたいにくっきり分かるわけじゃありませんよ。なんとなく分かるんです。

「わたしたちというのはわたしたちですよ。わたしと風月かぜつきさんとゆいさん。

「もっとも唯さんはもうリタイアですけどね……。きっと代わりの監督者が遣わされるはずです。

「そう。わたしたちは自分たちのことを監督者、あるいは『神の申し子』と呼んでいます。

「下界での役割を強調する上では監督者、人間でも神でもないものということを強調するときは『神の申し子』って使い分けてますね。

「そんなわたしたちの役目は、同族のみなさんを導いて、よりよい世界が創られるようにすることです。

「そのために、わたしたちも特殊な力を持っているんですよ。

「一、決して死なない不死身の体で、人間でいう20歳前後までしか体が成長しない。

「二、陽刀ようとう太天たいてん』、陰刀いんとう月地つきち』の力を使える。

「三、ぷらす あるふぁ。

「三つ目は個人によって違うんです。それぞれに同族を導く上での意味があるんですが。

「ちなみに、さっきから言っている千里眼が、わたしの力の一部です」

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