弐
「アイラ」
「ちゃん」
「呼ばない」
「何でしょう?」
少女、茎怒 アイラのせいで屋根から落ちた孫々は、再びその場所に戻ると、アイラと向かい合った。
なんだか、とても奇妙で奇抜な少女だった。
年齢は龍炎や孫々と同じくらい。10代半ばといったところだろう。
今は座っているが、立てばひざ裏くらいまでありそうな長いストレートの黒髪。
その顔はとても可愛らしく、それも
服装は……何という服なのか分からないが、上下が統一されていて、下は
色は真紅。所々に装飾が施され、高価なものなのだろうと思われた。
孫々はアイラへの警戒心を強く持つ。
しかしそれは強く持とうと思わないと、すぐに崩れてしまいそうだった。
この少女の前には、感情を待たないこの少年ですらそう思わされてしまうのだ。
それほどまでにアイラの笑顔はまぶしく輝く。まるで太陽のように。
「いったい何の用なんだ?」
「わたしはあなたに用はありませんよ。あなたがわたしに用があるんです」
「オレがお前に?」
孫々は、この少女はどこか精神異常があるのではないのかと思った。
だとすれば、自分の手には負えない。
頼りなかった警戒心は、多少強度を強める。
しかしアイラは、そんな警戒などお構いなしに、孫々の心に踏み込む。
「はい。あなたたちの体内に入った球について、知りたいと思っているでしょう?」
孫々の警戒心の強度は、はるかにその強さを増した。
なぜそのことをを知っているのか?
そして、あの球についてもこの少女は知っているのか?
それらの疑問は心に留めるにはあまりに大きく、孫々は口に出す。
「なんでそのことを知っているんだ?」
「見ていたからですよ。あなたたちが同族になるところを」
「見ていた? 同族?」
「ええ。なんでもお見通し、千里眼のアイラちゃんです。あなたがわたしに用があるのも、だからお見通しなんです」
ぶいっとピースサインを決めるアイラ。
孫々がアイラを見る目は、完全に不審者を見るそれとなっていた。
この子はあの様子をどこかで見ていて、口から出まかせを言っているのだろうと思った。
これは孫々のように感情に乏しくなくても、誰でもそう考えることだろう。
まさか目の前のこの少女が本当に千里眼の持ち主で、人間でなく、まして
孫々が呆然としている間に、アイラは聞かれてもいないことを得意げに話し出した。
例の球と自分自身の話を。
「あなた――孫々さんの体に入った球は神が創ったものなんですよ。
「何で名前を知っているのかって? そりゃあ知ってますよ。
「わたしはあなたが生まれたころから見てたんですから。
「本当ですって。とぅるーですって。
「雲の上から見てたんですよ。千里眼でずっと。
「だからもちろん、あなただけじゃなくて龍炎さんや万象さんのことも知っています。
「わたしが何者かというのも後で話しますよ。まずは球の話です。
「その球には、昔世界を創った5体の神の力が込められていまして……ああ、ここで誤解しちゃ駄目ですよ。
「神はあくまで1体なんですよ。でも同時に5体なんです。
「1体であり、5体でもある。800万体でもあり、無限大でもある。
「そのすべてが矛盾なく成立するのが、神という存在なんです。
「それでも何体かと聞かれれば、1体なんですけど。
「よく分からない? ええ。実はわたしにもよく分かりません。
「ともかくここでは5体の神、名前はそれぞれ
「火の神
「水の神
「土の神
「木の神
「金の神
「というんですが、それらの神が世界をもう一度創り変えてもらうために、その球を創ったんですよ。
「誰に? 人間にです。
「ここではあなたたちに、ということになります。
「球が体内に入った人間を同族と呼ぶんですが、同族には特殊な力が備わります。
「一、球に応じた自然物を操れる力。
「二、5人の同族が集まれば、望み通りの世界が創れる力。
「どの球でどの自然物が操れるのかは、人間には区別がつかないんですよ。
「同族と普通の人間の区別もつきません。
「それでも、わたしたちは見ればその球、あるいはその同族がどの神の力を持っているのかが分かります。
「そして、その人が同族かどうかも知ることができます。
「死神の目みたいにくっきり分かるわけじゃありませんよ。なんとなく分かるんです。
「わたしたちというのはわたしたちですよ。わたしと
「もっとも唯さんはもうリタイアですけどね……。きっと代わりの監督者が遣わされるはずです。
「そう。わたしたちは自分たちのことを監督者、あるいは『神の申し子』と呼んでいます。
「下界での役割を強調する上では監督者、人間でも神でもないものということを強調するときは『神の申し子』って使い分けてますね。
「そんなわたしたちの役目は、同族のみなさんを導いて、よりよい世界が創られるようにすることです。
「そのために、わたしたちも特殊な力を持っているんですよ。
「一、決して死なない不死身の体で、人間でいう20歳前後までしか体が成長しない。
「二、
「三、ぷらす あるふぁ。
「三つ目は個人によって違うんです。それぞれに同族を導く上での意味があるんですが。
「ちなみに、さっきから言っている千里眼が、わたしの力の一部です」
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