参
夜になり、龍炎と孫々は約束通りに、例の桐の箱が置かれている
時間は0時を過ぎ、すでに日付は変わっている。
「夜とは言ったが、こんな暗い中を歩くとはな。これじゃあ何も見えん」
「誰かさんが起こしても起こしてもぐうすか寝てるからだろ。昼から数えてどれだけ寝てたんだよ」
孫々が闇に対しぼやき、龍炎が孫々に対しぼやく。
「なあ、龍炎。オレ帰っていいか?」
「駄目に決まってんだろ。約束しただろうが」
「そんなこと言っても、オレは『あれ』に何の興味もないしな。1人で行けばいいだろ」
「1人だと、ばれたときに俺だけ万象に怒られるだろうが」
「最低だなお前。そのためにオレを連れてきたのか?」
「ああ、そうだ。それがどうした?」
「開き直るな!」
昼間の仕返しをする龍炎。
やがて2人は祠の前までやって来た。
そこで一気に2人は緊張感を高め、全神経を集中させる。
2人は何の示し合わせもなく、祠の左右に回り込む。
左に孫々、右に龍炎。
「そっちはどうだ、孫々?」
龍炎は声を潜めて孫々に声をかける。
「大丈夫そうだ。そっちは?」
「こっちも大丈夫だ。だが、油断するなよ」
「ああ。そっちもな」
2人は声を潜めたまま、慎重に祠へと近づいていく。
1歩、2歩、3歩。祠まで、残り3歩。
1歩、2歩、3……。
「龍炎、上だ!!」
孫々の叫び声と同時に、龍炎の頭上から無数の岩が降りかかる。
「くそっ! やっぱり仕掛けられていたか!!」
龍炎はかろうじてその岩を回避するが、続いて竹槍、落とし穴など、第2第3のトラップがその身を襲う。
一方、孫々の方もトラップに襲われていた。
「おかしいぞ、龍炎!」
トラップを回避しながら、孫々は叫ぶ。
「は? 何がだよ!?」
「トラップの数だ。見ろ、オレたちから大分距離のあるトラップも作動している」
「確かに。基本、トラップは連動で起こるものなのに、今回のは一斉に……」
「そうだ。おそらく今回はあまり時間がなかったんだ。だからどこかのトラップが作動すると、すべてが作動するようにした。それでオレたちの混乱を狙ったんだ」
「そうか! つまり今トラップが作動していない場所には、トラップはない!!」
「そして、その場所は……」
「「ここだ!!」」
2人は同時に跳躍し、安全地帯に到着する。
それは祠の真正面の道だった。
「まさか真正面にだけトラップがないとはな」
龍炎は一本取られたといった風に言う。
「オレたちの盲点をうまくついたようだが、甘かったな」
孫々もトラップを攻略したことにより、すっかりその気になっていた。
説明するまでもないことだが、これらのトラップの仕掛け主は神羅万象である。
例の箱に近づく2人(主に龍炎)を撃退するために仕掛けられたものだ。
「さてと、じゃあいよいよ。お宝拝見と行くか」
龍炎は意気揚々と祠に近づく。
孫々も肩をすくめながらも、それに続く。
桐箱に張られていたお札をぞんざいに外し、龍炎はふたを開けた。
突如、箱の中からまばゆい光が放たれた!
「うわっ!」「何だ、いったい!?」
突然の光に目がくらむ2人。
光が消え、目が慣れた後、2人は同時に箱の中を覗き込んだ。
そこにあったのは
「球? 球が5つ?」
「ああ。水晶玉みたいだな」
箱の中には、無造作に5つの水晶玉が収まってるだけだった。
孫々はそれ見たことかと言わんばかりである。
「気が済んだか、龍炎。こんなものの中に、大層なものなんか入ってなかっただろ?」
龍炎は箱を手にしたまま、未だ納得し切れていない顔で応じる。
「まだ分からないだろ? お前もさっきの光を見たはずだ。この球はきっと何か特別な……」
龍炎が言い終わらないうちに、孫々はその球の1つを手に取り言う。
「この何の変哲もない球がか? そりゃあ、オレもあの光には驚いたが……」
と、孫々もそこから言葉を続けることができなかった。
それもそのはずである。つかんでいた球が、するりと、溶け込むように孫々の体の中に吸い込まれていったのだ。
その光景に愕然とし、2人とも何も言えない。
しばらく、夜の森に沈黙が訪れた。
やがて、意を決したように龍炎が口を開く。
「い、今、その球がお前の体の中に」
龍炎は孫々の手を指差す。
孫々も自分の手から龍炎へ視線を移す。
「お、お前もそう見えたか?」
「あ、ああ」
「目の錯覚じゃあ……」「……ない」
再び沈黙が訪れた――そのとき。
「てめえら!!」
「「う、うわあー!!」」
突然の怒号に2人は驚き、孫々は転倒し、龍炎は4つの球が入った桐箱を宙に放り投げる。
それから、ボトボト、トサと球と桐箱が落ちる音がした後、森の奥から1人の男が現れた。
暗闇の中、真っ暗な法衣に身を包んだ男の姿を捉えることは、難しかったが、2人はすでにそれが誰か十分に把握していた。
「万象、これには深い事情が……」
「オレは関係ないんだ。龍炎に連れられて無理やり」
「何だ孫々! 俺を売る気か? なんて奴だ」
「お前が言うな!!」
2人の
ジャラン!!
と、手に持っていた錫杖を鳴らした。
「龍炎、俺は何度も言ったよな? ここには近づくなと」
「いや、だから、それは……」
「孫々、『もう2度としない』と言ったはずだ。そうだよなあ?」
「オ、オレは龍炎に……」
万象は何年か後、一人称を余、二人称を手前とするような、非常に古臭いしゃべり方をするようになるのだが、このころにはその片鱗もなかった。
2人は万象の剣幕に押され何も言えなくなる。
しかし、龍炎は直後にハッと思いつき、万象に向かって言う。
「聞いてくれ、万象! 実は……」
「おうおう、言い訳か? 言ってみな。言えば言うほど後の神罰は重くなると思え。だがまずは、俺に言い訳する前に親父さんに謝れ! てめえは親父さんの信頼を裏切ったんだぞ!!」
「そうじゃなくて、この桐箱の中身が球で、それから体の中に、孫々が手で……えっ~と」
龍炎は混乱して、うまく説明ができなかった。
その様子に並々ならぬものを感じ取ったのか、万象は話を聞くことにした。
ようやく落ち着きを取り戻した龍炎は、万象に事の次第を説明する。
聞き終えると、万象は目を閉じて考え込んだ。
「ふ~ん。球が体内にねえ。にわかには信じられねえ話だが」
「それが本当なんだよ。万象は何か知っているのか? このことについて」
「いーや、何も。俺はただお前の親父さんの言いつけを守っていただけだからな。で? 問題の球ってのがそこに転がっているやつか」
「ああ、そうだ。5つの内1つが孫々の中に入って、残り4つ」
「つーか、見たところ2つしかねえぞ。後の2つはどこにあんだよ?」
「え? あれ?」
龍炎は周りを見る。
いくら暗いとはいえ、さすがにもう順応している。
しかしいくら見ても(そう簡単には触れない)落ちている球は2つだけだった。
龍炎は首をかしげる。
「おかしいな? おい孫々、どこに飛んで行ったか見て……って孫々?」
さっきからずっと黙っていた孫々。
それは球が体内に入ったショックによるものだと思っていたが、龍炎からの質問を聞き、その顔が一気に青ざめ始めた。
この時点ですでに龍炎は、最悪のシナリオは思い描けていたが、それでも
「孫々、まさか……」
「ああ。オレは見た。球が龍炎と万象、2人の体に入っていくところを」
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