第3話 初夜
押し入れにしまって置いた布団をきれいに整えまた押し入れに戻す。なんだか意味がないことをやっているようで馬鹿らしく思えた。
「ふー、気持ちよかった」
同じ服を着た彼女が部屋に戻ってくる。
「あれ着替えは?」
「あるわけないじゃん、一文無しでここに送られてきたんだよ」
「明日土曜だし買いに行かなきゃな」
「やった!」
ぴょんと嬉しそうにジャンプするが、服を買ってもらえることがそんなに嬉しいものなのだろうか。
「随分嬉しそうだな」
「そりゃね、てっきり浩平のおさがりを着せられると思っていたから」
俺のおさがりはそんなに嫌なのだろうか。もしかして俺不潔に見えるのか!?
「ちょ、冗談だから真に受けないでよ」
彼女はにしししと笑いながらこちらを見ている。
「冗談きついぞまったく」
「ごめんごめん」
手を重ね合わせ謝る仕草を取っているが、まったく反省しているように見えないの。
「もう遅いからあんたもシャワー入ってきなさい」
婆ちゃんがシャワーの方向を指さし、早く入れとせかしてくる。
「わかったよ」
ゆっくりと腰を上げシャワーへと向かう。
シャワーヘッドをこちらに向け、ハンドルを強く回す。
彼女との会話を思い返す、10年先から来たと言うがタイムマシンを作ったのは誰なのだろうか。そういえば博士が設定をミスったとか言っていた気がする。こんな大事な実験でミスをするなんてどんな間抜けなんだろうか、想像すると笑いが込み上げてくる。
シャワーを浴び終え、部屋に戻ると彼女は俺の布団で寝そべり漫画を読んでいる。
「お前は押し入れって言っただろ!」
「あ、ごめんついつい」
またもや謝る仕草を取るが、反省の色が全く見えない。
「電気消すよ」
眠そうにしている婆ちゃんが電気のひもに手をかける。
「はい」
電気が消え布団に入る、彼女もおとなしく渋々押し入れに入る。
「ねぇ、ここあけておいていい?」
「いいけど」
「よかった、だめって言われるかと思ったよ」
やっぱりだめと言おうか迷ったが、さすがにボケを挟むことに無駄に体力を消費したくないから無視を決め込む。
「浩平ってなんだか博士に似てる」
さっきまで心で馬鹿にしていた人に似ているといわれるのは何とも不思議な気持ちになる。怒りと恥が同時に襲ってくるような気持ちだろうか、例えるのがとても難しい。
「それ、ほめ言葉?」
「どうかな」
彼女の顔は暗闇で見えなかったが、たぶん笑っている。
「おやすみ」
「おやすみ」
彼女のおやすみに反応した後、俺はすぐに眠りにつく。
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