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皇紀八百三十五年終月二十日
シスルの働きっぷりは文字通り獅子奮迅って奴だった。
朝は開店前の
頭が下がるね。イヤホント。
なんか何もしない俺がヒモみたいに思えて来て、居たたまれなく成っちまって夜遊びに出かける時間が増えちまったぜ。
この日も紅楼街のお気に入りを呼び出して華隆街で飲み明かし、また紅楼街に戻ってお気に入りとイチャイチャして月桃館に帰ったのは夜中の二時。
一応玄関のカギを預かってるので門限過ぎても
怖い顔して仁王立ち、俺を待ち構えている。
「
兵営で門限破りをする不埒者をいたぶる担当教官を思い出したぜ。
その頃の習性が身についているせいか思わず「申し訳ございません」が出る。
たしか俺はコイツの上官だったよな?な?
「お
と、再度のお叱り、上官としての威厳がボロボロと崩れていくが、ここで「うるせぇ!バカヤロー!」となると娘を働かせ自分は遊び惚けるくず親父の図になるので止めておく。
ま、迷惑かけてんのは事実だし。ネ。
怒鳴る代わりに「冷たい水を一杯、ちょうだい」と言うと、喫茶の方から並々注いだ冷水が入った
長椅子に腰かけ一気に飲み干すと「おかわりは要るか?」と気が利いたことを言うので「いや、結構、ごちそうさん」
それにしても、客室係の制服を着てお盆を抱えて立ってる姿は普通の女の子だよなとしみじみ思う。
クッラを手に取れば、バッタバッタと死体の山を拵える剣客に早変わりするなんてちょっと信じられない。
「なぁ、ここで働くのはしんどくないか?」と聞くと、不意に俺に隣に座り。
「しんどく無い。と、言うか楽しいな。布団の交換も敷布掛布の洗濯も、部屋の掃除も食事の支度も、今までやってことが無い事を覚えるのは本当に、本当に楽しい。こんどドルジンに
お前、どこを目指してるんだ?
本当に月桃館での日々を楽しそうに話すので、ふと、俺はつまらぬことを考え、それから口にした。
「なぁ、お前さんさぁ、軍属なんて止めて、ここでずっと働くなんて、アリと思うか?普通にその辺歩いてる同い年の女の子みたいな暮しがしたいと思うか?」
瞳を大きく見開いて俺の目を覗き込んでくる。
本当にきれいな目をした奴だ。白目は白瑪瑙、瞳は黒曜石、職人に作らせたらとんでもない値段を吹っ掛けられそうだ。
「それは無い。
と、いう事をあの瞳を輝かせ言って来るもんだから俺も。
「邪魔なんて思ってないぜ、それどころかこれから下命があれば、色々手伝ってもらう。色々ヤバイ橋も一緒に渡ってもらうからな。覚悟しとけよ」
頬を緩ませ「承知した」とシスル。
安心していいのかどうか解らない気持ちで俺は長椅子から立ち上がり五〇三号室に向かった。
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