第2話:弱虫勇者

「勇者カーツ何をしているの、さっさと魔人を斃しなさい」


 最前線で魔人に襲われているにもかかわらず、一切反撃せず、ただ逃げ回っているカーツに、リュシータは厳しい言葉をかける。


「だが、彼らにだって生きる権利がある

 単に魔人だという事だけで問答無用で殺す事などできない。

 まずは話し合って、戦いを止めるように説得しなければ……」


「アンタどこの反日左翼よ、よく聞きなさい、カーツ。

 他の国は知らないけれど、ディトン王国は魔人を差別した事もなければ、魔人の国を攻撃した事もないのよ。

 なのにこうして侵攻され、多くの国民を殺されているの。

 貴男が自分の主義主張を言い張って、魔人を野放しにするという事は、人殺しを見て見ぬフリしているという事よ。

 いいえ、人殺しの味方をして、殺される人間を見殺しにしているのよ!

 それのどこが平和主義者よ、貴男は自分の欲望を満たすために平和主義者のフリをした、単なる卑劣漢よ」


 カーツは胸をえぐられるような痛みを感じた。

 敗戦による戦後教育、特に日教組と左翼マス塵の洗脳で、日本からきた勇者は平和ボケした者ばかりだった。

 中にはこれを好機と自分の欲望を満たす者もいたが、多くの日本人勇者は戦う覚悟を決める前に殺されていた。

 そんな弱腰日本人のカーツが今日まで生き延びているのは、勇者の中でも突出した逃げ足を、スピードを持っていたからだ。


「どうするの、カーツ。

 私は下劣な勇者神殿が攻撃してきた時に備えて、今直ぐ王都に戻るわよ。

 貴男がここで逃げだしたり躊躇ったりしたら、あの村の人達は皆殺しにされるわ。

 私は多くの国民を護るために、少数の国民を見殺しにする覚悟がある。

 貴男に、自分の偏った主義主張を貫くために、村人を見殺しにして、平然と平和のためだったと言い切れる狂気があるかしら?

 それとも、私が見殺しにした所為だと、責任を転嫁するのかしら?」


「うううううう」


 カーツは絶望の呻き声を口から漏らした。

 確かに全ての責任を、ここで魔人を斃さなかったリュシータ王女に転嫁する事は可能だが、困った事にカーツは馬鹿でも狂信者でもなかった。

 リュシータ王女が王都に戻らなければ、身勝手なレンドル達がディトン王国を襲うだろうことは、簡単に予測できた。


 異世界に転移して力を得た事で、平気で我欲獣欲を満たすようになった連中だ。

 元日本人のカーツを、同じ勇者なのに差別し奴隷のように扱おうとした連中だ。

 今後この世界で君臨するために、邪魔者なるリュシータ王女を屈服させようと、ありとあらゆる手段を使ってくるだろうことは、簡単に想像できた。

 自分が日本での主義主張を押し通す事は、人々を殺す手助けをする事になる。


「ウォオオオオオおおお」


 カーツは絶叫した。

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