転生王女は弱虫勇者に恋をした。

克全

第1話:婚約破棄

「嫌よ、私は貴男のような傲慢な人間が大嫌いなの。

 貴男と結婚するくらいなら、王女の地位を捨てて平民になるわ。

 どうせ貴男は、王女の地位にあれば誰でもいいのでしょう。

 それなら貴男の愛人の誰かを陛下の養女にすれば済む事よ。

 だから貴男との婚約は破棄するわ、分かった、剛剣の勇者レンドル」


 ディトン王国のリュシータ王女は、とても勝ち気な少女達だった。

 幼い頃から国中にお転婆の噂が広がるほど活発な子供だった。

 だが、それも仕方がない事だった。

 前世の彼女は、難病に生まれてからずっとベットの上で生きていたのだ。

 彼女の世界は、病院の無菌室の中だけしかなかった。

 インターネットのお陰で、多くの情報や知識を得るこはできたが、自分で触る事も、その地に行く事もできなかった一生だった。


「それが、王女殿下の返事なのですね、よく分かりました。

 では今後一切、勇者神殿はディトン王家に力は貸しませんぞ。

 それでもいいのですね、リュシータ王女殿下!」


 とても勇者とは思えない脅しの言葉、脅迫だった。

 そんな剛剣の勇者レンドルの言葉に、謁見場にいた全員が息を飲んだ。

 魔王軍と戦っている現状では、勇者神殿に所属する勇者達の助力が、どうしても必要だった。

 例え醜聞の噂の絶えない勇者に、自国の王女を売春婦のように差し出すことになっても、勇者の助力が必要だったのだ。


「品性下劣な貴男の力など借りなくても、私の力だけで魔王軍なんて撃退してみせるし、それに、別に貴男だけが勇者ではないわ」


「はあ、俺だけが勇者じゃないだと、勇者は全員勇者神殿の所属している。

 そして勇者全員が、俺の言う事をきくと約束している。

 それでどこの勇者に助けてもらう心算だ?」


 剛剣の勇者レンドルの言う通りだった。

 各国が身勝手に勇者を召還し、劣悪な待遇で扱き使おうとした結果、勇者達の怒りを買い、勇者と人間が争うことになってしまい、魔王軍が一気に有利になっていた。

 大陸の半分が魔王軍に占領され、ようやく過ちを認めた各国の王が、唯一勇者なしで魔王軍と互角以上に戦いをしていた、ディトン王家の仲介で勇者達に有利な条件で、いや、圧倒的に王達が不利になる条件で契約したのだ。


「あ、まさか、あいつの事を言っているのか?

 あの泣いてばかりで何の役にも立たない、泣き虫カーツの事を。

 ウッワッハハハハ、こりゃ愉快だ、この世界に来て一番笑える。

 あいつの力を借りて戦うだと、そんな事は逆立ちしても無理だね」


 剛剣の勇者レンドルの言葉を、リュシータ王女は冷たい眼で見下げていた。

 彼女から見れば、レンドルのような品性下劣な人間こそ、笑い者にされるべき存在で、人を殺す事、いや、魔獣魔人を殺す事にすら涙を流して嫌がるカーツの方が、褒め称えるべき存在だった。

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