第三章 力を継ぐもの

3-1.

 ケイグランとフェイブルは、徒歩でハイアの住む遺跡に向かった。遺跡は山の中にあり、自転車ではとても行けたものではない。丁度正午をまわったところで日差しは強く、彼らは汗のしずくをたらしながらハイアのもとに向かった。それでも山道に入り日が遮られると、わずかながらの風の動きも涼風となって彼らの汗を抑えるのに役立った。次第に道はけもの道に近付き、歩く速度は遅くなっていった。


「君には何度も連れて来てもらいましたけど、よくこんな道を歩いてまで遊びにいくもんですね」


 フェイブルが愚痴た。


「慣れれば大した道じゃないさ。なんだ、図体はでかいくせにだらしないな」


 フェイブルは予想外に疲れているのか、反論しなかった。黙々と山道を進んで行く。ふいにフェイブルが口を開いた。


「ケイグラン、この手紙の中身って…………わかっているんでしょう?」


 そのことか、とケイグランは思った。道すがら考えていたのだが、出がけのフェイブルの表情からおおよその見当はついていた。今、この二人に関して村長が話題にすることといえば、次の村長の事をおいて考えられない。


「推測でしかないけどな。大方、次の村長のことだろう」


「君はどうなんです? その……村長になることについては……」


「俺みたいなよそ者で、しかも大雑把な人間が村長に向いているとは思えないよ。お前がなればいい」


 実際ケイグランは、面倒に巻き込まれるのはごめんこうむりたいと思っていた。アンダーグラウンドのジャンク屋が、異世界に来て村長なんで、出世するにも話が出来すぎている。


「俺は…………分かりません。冷静に考えて、君と俺ならどちらがなっても能力としてはたいして違いないと思います。さほど長い付き合いではないですが、君の良いところも悪いところもそれなりに分かっているつもりでいます。仮に君が村長になったとしても、助けていく心の準備はできていますよ。ただ言えるのは……俺は、自分の人生を他人の話し合いや都合で決められるのは、嫌ですね」


「そうか……そうだな……」


 そのあとハイアのもとに到着するまで、二人は一言も言葉を交わさなかった。


 ただケイグランは、拘束されたくない気持ちが分かる反面、そこまで強気に反目するほどのものかという気持ちもあった。



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