2-4.
二人を見送った後。
アルゴの村の村長、テオドア=アルゴスは苦悩していた。
彼の村長としての任は、あとわずかで終りを向かえる。目下の悩みの種は、次期の村長であった。直接の任命権は現村長である彼にある。次の村長の座につく人物に関して、喧々囂々の村の重鎮達の議論を聞きながら、この場から逃げ出したい気分であった。とはいえ、逃げ出したところで事態が好転するわけではない。自分の権利であると同時に最後の義務であるこの仕事を、軽んじるつもりは毛頭なかった。
「結局、諸氏の意見を聞くに、ケイグラン=ヤーゲントとフェイブル=ビストノートの二名のうちのいずれかという点については反論の余地はないと思われるが、その点はよろしいか?」
反論はない。
「結構。両名ともいくぶんまだ若い点は否めないが、他に適任の候補もない。いまさら老人を担ぎ出すべきでないことは、既に老いたる我々自身が最も承知しているところである。いずれの者に決まろうとも、我々が背後より支援する努力を惜しむものではない。さて、では論点を絞ろうではないか。両者の内のどちらが適任かという点だ」
とたんにあちこちから声があがった。ケイグランを推す声とフェイブルを推す声、ともに半数程度のように思える。このような調子で、すでに二時間を越える時が過ぎていたのだ。
騒動の背景は簡単で、ケイグランがよそ者であるからである。
順当に、村長の血統での若者を選ぶのであれば、フェイブルが第一候補となる。
フェイブルは現村長テオドアの従姉妹にあたる女性の息子になる。フェイブルの祖父、すなわちテオドアの叔父は、事故で他界したテオドアの父の後、村長の任を全うした。フェイブルは冷静な判断力と優れた洞察力において、一目置かれる存在だった。だが、それらは一部の田舎の人間にとってみれば特異な能力であり、必ずしも愛敬があるとは言えないその態度とあいまって、彼を少し敬遠する人達もいた。
一方で、ケイグランのことを、素性の知れない若者だと考える老人はいまだに多い。しかし、伽藍把の力は圧倒的にケイグランが強いし、その強さはハイアのお墨付きでもある。この世界で伽藍把の力は大きな意味を持つ。とくに革新を望む派閥からは、ケイグランを推す声が強かった。
現村長であるテオドア=アルゴスは、堂々巡りの議論を打開すべく、一つの提案を行ってみることにした。
「我々だけでの議論では、こうして時間がたっていくだけだ。結局二人の間に優劣はつけにくいことは承知のことと思う。それぞれが、優れている点と劣っている点を持っている。これはいたしかたがない事だ。そこでどうだろう。客観的に村の利益を判断できる人物の意見を仰いでみては」
彼はここで一旦話すのをやめ、人々の顔を見渡した。
「そんな人物がいるのか?」
「誰だ?」
そんな声があちこちでささやかれた。テオドアは一瞬下を向いて息を吸い込んだ後に、視線を上げて再度口を開いた。
「ハイア殿だ。彼であれば村の中の子細な利害関係を考えずに、公平な判断ができるだろう。皆の中には彼とケイグランが親しいことを危惧する者もいるかもしれないが、ハイア殿がその点で私情に流されるとは思えない。二人の姿を見てもらい、事情を話した上で意見を仰ぐのが良いと思う。これは決してすべての判断を委ねるということではない。最終判断は改めて皆の意見を束ねて導き出したい。この意見に反対の者はいるか?」
つまるところ、現村長である彼に摘男がいればこんな問題は生じないのだが、それを指摘するほど不粋な者はいなかった。利害関係からそれぞれの思惑はあったものの、多くの人はこの議論にいい加減辟易しており、彼の提案を受け入れることになった。フェイブルが呼ばれ、ケイグランを連れて来るよう命じられたのは、その三十分後のことである。
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