2-2.
惑星グラウンドには、いくつもの大陸が並び、大陸に寄り添うように無数の小さな島が浮かんでいる。
ケイグランたちが暮らすアルゴの村は、そういった島のひとつにある。
アルゴの村は島の中ではもっとも大きな集落だ。島といってもたいして大きな島ではなかったが、それでも周囲を海岸沿いに歩けば丸一日かかる。やじりの形をした島で、短いほうでも対角線をつっきれば山を越える必要もあって半日かかる。アルゴの村の他は集落が二つ、それぞれ数十人程度の人が住んでいた。アルゴの村の人口は百五十人程度。いずれにせよ、都会というには程遠い。島にはさしたる産業もなく、住民達はほとんど農業を営み自給自足の生活を送っていた。
島にはひとつだけ港があり、最も近い西側大陸とは船で行き来していた。一番近い大陸の港へは、船で丸二日かかる。大陸には、いくつかの自治領が点在しており、自治領はそれぞれを治める豪族がいた。そのうち四つの自治領に隣接する北側地区には、王制をしく国家がある。また、東へ向かって遠い海を渡った先には、強大な国家が存在しているが、この島とはほとんど関わりがなかった。島とは最も近いカース自治領のみが、かろうじて通商関係を持つくらいだった。
この島には古代の遺跡が点在しており、そこからの出土品が骨董品収集家たちの格好の興味の対象になっていた。住民達は遺跡を自らの管理下におき、出土品を収集家達に売り渡すことで、それなりの現金収入を得ていた。これは乱掘を避け、貴重な出土品の流出量を適度に抑えられる点で、必ずしも悪いことではない。いつの場所、時代でもおよそ収集家と呼ばれる人種の欲望には限りがないのだ。彼らの好きに任せておいたら、古代遺産は根こそぎ持って行かれてしまうに違いない。
ケイグラン達の話題にのぼったハイアという老人は、この島の遺跡のうちもっとも大きな窟の番人のような役割をしている人物だった。村から離れた窟に一人暮らしている。もっとも、あまり人づきあいが好きなわけではなく、自らかって出た役割という部分もあったので、ハイアにしてみれば孤独な生活も望んだものであった。半ば変人扱い、半ば畏敬の念をもって、村人達はそうそうはハイアの住いには近付かなかった。
一年前に村に運ばれて、民家でしばらく療養した後、村長の指示でケイグランはハイアのもとに連れていかれた。
「お前はどこからきた」
「アースのアンダーグランドから」
ハイアは怪訝な顔をした。そして言った。
「この者は、強い伽藍把を持っている。村の役にたつであろう」
村長はその言葉に納得し、ケイグランに家と仕事を与えた。ハイアはケイグランにとって恩人のようなものだ。
そしてハイアは伽藍把の優れた使い手であり、ケイグランは彼を師匠として敬った。
村民から距離のあるハイアではあったが、ケイグランだけはハイアになつき、彼のものの考え方は、ハイアの影響を受けていったた。その最たるものが、『我らはグランドの大地とともにある』という教えである。
我々人間は、この地上に育まれ生まれてきた。足もとの大地は我々をしっかりと支えてくれている。大気の循環は、新たな伊吹を運んでくれる。めぐみの雨は、喉をうるわせる泉となる。
ハイアはケイグランに説いた。
はるか古代、人類が自分たちの社会の利益のみを追求し、自然の価値をないがしろにしたことがあった。人類はごう慢になり、自然を手中に収め制御しようとした。自然の脈動を征服しようとした。しかし、そのような暴挙が許されるはずなく、自然の反撃を受けた異端の者たちは排除された。残った人類は心を入れ替え、自然とともに生きることにした。この星が与えてくれる自然を支えに生きている限り、人類は安泰なのだ。
先にフェイブルはケイグランをからかうような物言いをしてはいたが、実は多くの人々の基本的な心のよりどころは同じであった。揺るぐことのない自然が、人々の生活を支えていた。もっともケイグランほど妄信している者は、さすがにこの時代では少なくなっていたが。
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