第42話 取り戻した平穏
わたくしはレオを伴い、城へ何食わぬ顔で戻ることにしました。
レオも転移を使えるのですが色々とバレにくいのはわたくしの部屋への転移ですから、ゲートを開いて、彼を部屋に招き入れることにしました。
本当は結婚前ですし、レオはまだ12歳ですもの。
彼が大人になるまではそういうエッチなのはいけないと思います。
ですが今回は特別。今回だけは仕方がありませんもの。
「レオ、あれでラスボスとやらなの?」
「違うんじゃないかな。ハイドラは先兵くらいのランクだと思うんだよね。たまたま、僕たちとの相性が悪かっただけかもしれないけどさ」
レオがちらちらと部屋のあちこちに視線を泳がせているのが妙に恥ずかしい。
部屋に男性を入れること自体がありえないのにその相手が婚約者だったら、余計に恥ずかしさが増すというものです。
「あの…あまり、凝視されると困るのですけど」
「困るものとかないよね。花の香りみたいないい匂いがするし、どこも汚くないよ」
「そういう問題ではないと思うの。乙女には秘密が星の数ほどあるものよ」
「それは言い過ぎ!」
「えっと、それで…わたくし、着替えたいのですけど。よろしいかしら?」
「あっ、ご、ごめん」
目を瞑るのではなくて、壁か窓のお友達になるという選択肢はないのね。
見られても減る物ではない、と言うもののそこには羞恥心という目に見えないけれど、大事な物がある訳だから、やはり見られたらいけないものですわね。
などとわたくしは散々、迷ってケープを外してから、中々、ブラウスを脱ぎませんでした。
「リーナ、いつになったら、脱ぐの?さっきから待ってるのになかな…あっ」
振り返ったわたくしの瞳とレオの瞳が交錯します。
別にわたくしは怒ってなどいません、見たいのなら見たいと正直に言えば、見せてあげ…あげられるのかしら。
ちょっと自信がなくなってきました。
「見たいなら、正直に言えばいいのです。わたくしので良ければ、いくらでも…でも、他の子を見たいなんて、考えてますの?考えてませんよね。考えてたら、わたくし、どうしようかしら…うふふふっ」
「み、見たいけど怖いので遠慮しとく…うん、後ろ向いてるから、着替えて」
上手く、逃げやがりましたわね。
異世界にいたから、わたくしよりも精神的に大人に成長した?
さすがにバトル・ドレスで平時の城をうろつく訳にもいかないので一人でも着替えられる部屋着用のロングドレスに着替えてから、アンに来てもらって、レオも着替えさせます。
かなり服が汚くなっていたので彼にもベラのところで仕立ててもらうとしましょう。
当然、服だけではなく、中も汚れていますから、レオと連れ立ってというより、わたくしが彼の手を引いて、浴場に向かいました。
「ママ―、お風呂ー入るー」
途中でミニな蜥蜴状態になっているニールが肩に乗ってきたのでお風呂に入れなくてはいけないのが二匹…いえ、一人と一匹でしたわ。
「ここがアルフィンの誇る大浴場ですわ。先に入って待っていてくださいね」
「う、うん。分かった」
レオに先にお風呂に入るように促すと意外にも素直に言うことを聞くので逆に怪しいのですけど、この際深く考えるのはよしましょう。
ドレスを脱いで下着だけになって、はたと考えます。
水着なんてありませんし、下着のまま入るのも変ですものね。
下着も脱ぎ、バスタオルだけを身体に巻きつけると覚悟を決めて、レオの元に行くことにしました。
誰です?凹凸が少ないから、バスタオルが巻きやすいとか思っているのは!
「ふわぁ、こっちの世界でもこんなお風呂入れると思ってなかったなぁ」
軽く大人が百人は入れそうな程に広い浴場でレオは寛いでいました。
あまりに寛ぎ過ぎでそのまま、寝てしまうのではないかというくらいに。
「レオ、待たせてごめんなさい」
「ええ?リーナも入るって、聞いてないよ」
「先に入って、と申し上げたましたけど。わたくしが一緒に入ってはいけない理由がありますの?」
「そ、それは…ないけど
なぜか、少し焦って顔が赤くなっているレオがかわいいっと悶えつつも彼の隣に腰を下ろして、一緒にお湯に浸かります。
ニールは勝手に入っているというより、お湯をバチャバチャやりながら、泳いでいるという方が近いことをしています。
ハイドラとの戦いで汚れたから、きれいにはなるのでこういう時くらいは許してあげましょう。
それにしてもこんな立派なお風呂を作ってくれた爺やに専用の研究施設を提供したくらいで報いたことになるのか、心配ですわね。
「ねえ、レオ。これから、どうしますの?レオ?」
「集中集中色即是空…」
レオは何やら、何かに耐えるようにブツブツと小声で呟いているようです。
わたくしの声、聞こえてないのかしら?
心配になったのと悪戯心から、彼の耳にふっと息を吹きかけると思った以上の反応が返ってきました。
「うわぁ」
「きゃっ」
飛び上がらんくらいの勢いで驚いたレオの身体がわたくしの方に倒れ掛かってきたので耐えられなかったわたくしは彼に押し倒されたような状態になってしまって。
お湯で呼吸が苦しいなんて事態にはなっていないのですけど、押し倒されて見つめ合っている状態の恥ずかしさの方が心臓に悪いのです。
「ごめん…びっくりして、つい」
彼はそう言って、すぐに離れようとする。
突発的なアクシデントでこうなっただけだから、優しいレオとしては離れるのが定石でしょうから。
こんな状況で流されるように行為に及ぶなんて、彼は絶対にしないとわたくしは知っている。
「でも、今は少しくらい、ゆっくりしてもいいと思いますの」
わたくしは彼の背に手を回して、逃げられないようにそっと抱き付く。
抱き付かれても誇れるほどの女性的な体つきではないわたくしの身体では満足させられないと思ってしまうけど。
それでも今は…今くらいは二人でこの時を過ごしてもいいと思うの。
「リーナ…うん、そうだね」
「はい」
レオとわたくしは特に何をするのでもなく、お湯に浸かりながら、お互いを抱き締め合っているだけで幸せだった。
あまりに幸せ過ぎて、のぼせるということを忘れていたのは一生の不覚ですわね。
おまけに出る時にのぼせていたせいでレオの腰に巻いていたタオルが取れて、その下から…見えたものを見ちゃったせいで卒倒してしまうなんて、勉強が必要かもしれないわ。
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