第41話 元冥府の女王はドS
オートクレールの刃は
つまり、理論上はわたくしの魔力が供給される限り、無限に伸ばすことが可能なのです。あくまで理論上ですから、実際にはある程度の制限が加わるのですけれど。
「ただ、キリがないですわね」
ハイドラの身体から生えている無数の頭にオートクレールを巻き付けては切断するを繰り返す作業にも飽きてきましたわ。
切断された部分をニールとキリムがブレスで仕上げを行っているようですけれど、効果があるとは言い難いですわね。
ハイドラと言えば、どこかの国のおとぎ話に英雄が潰しても潰しても生えてくる頭という手の付けようがない再生能力に倒すのを諦め、封印したなどとありましたわ。
その話の元になったのがわたくしたちの前でずっと呪いの言葉を囁き続けてくる鬱陶しい灰色の蛇なのですよね。
「本当、キリがないみたいだね。どうしよっか?再生するよりも早く、壊せばいいとは思うんだけどさ。あれだよ、あれ。右足沈む前に左足出したら、水の上歩けるのと同じ理論だよ」
「え?それ、本当に出来ますの?」
「さあ?分かんないね」
右手に握っている不思議な形の剣―レーヴァティンというらしいのですけど、から雷撃を放ち、次々生えてくる頭を潰しながら、レオが少々、困り顔になっているようです。
「動くのが面倒なのでしょう?わたくしにいいアイデアがございますの。オートクレールの構造から、思いつきましたのよ」
オートクレールの刃を手元に戻したわたくしが左の掌をハイドラに翳すと虚空から、淡く紫色に発光する鎖が何百本も出現し、ハイドラの身体を拘束しました。
動けば動く程、どんどんと締まっていき、徐々に内臓を蝕む毒を穿ちながら締まっていくので弱らせながら、息の根も止められるという拷問に向いた魔法なのです。
もっとも内臓があるかどうかすら怪しく、毒も効きにくいハイドラには拘束するくらいの効果しか望めないでしょうけど。
「リーナって、そういう趣味あったの?」
「御冗談を。レオは縛られたい趣味でもあるのかしら?今度、試してあげましょうか?
わたくしの言葉に肩をビクッとさせるレオって、ちょっとかわいくて、ゾクゾクしてきますわ。
そういう嗜虐的な趣味があるのではなくて、本当はレオが笑っている姿の方が好きなのですけど、調子が狂ってしまいますわね。
「レオ、アルフィンは光の防御結界を張ってあるので心配はいりませんわ」
「そっか、じゃあ、遠慮なく、いくとするか」
「ええ、わたくしも日中は魔法を使わず、セーブしてましたから。ちょっと楽しみですのよ。遠慮なく、魔法を撃てる相手がいるんですもの」
そう言って、薄っすらと微笑んでいるわたくしとレオを見たら、普通の人は倒れているかもしれませんわね。
相手が何の感情も心の動きすらもない神を自称する化け物ですもの。
「レオのは雷でしょう?雷は打ち砕く力。わたくしが先に仕掛けた方がいいと思いますわ」
「凍らせる気なの?」
「暗黒よりも冷たく、凍えなさい。永久にね。
オートクレールを鞘に戻し、レライエを両手で構え直すとハイドラの接している大地に向けて、氷の極大魔法を発動させました。
動きを事前に察知していたニールとキリムは既にハイドラから離れているので巻き添えになりません。遠慮なく、凍らせて構わないということです。
ハイドラの身体は大地と接触している部分から、氷で覆われていき、ものの数秒でその全身が完全に凍り付きました。
それでも呪詛の声をやめないのですから、異界の邪神を処理するのは本当に面倒ですわね。
ハイドラの敗因はわたくしたちが幼くて、心が育っていない時だから、その精神攻撃に翻弄されただけだったのを今のわたくしたちも同じと甘く見てかかったことですわ。
「レオ、終わりましたわ」
「よーしっ、僕の準備も終わってるから」
上空を覆う黒雲の層はどんどん厚くなっていき、雷鳴と稲光がまるで交響曲でも奏でているように世界を彩っていました。
雷の音は怖くて嫌いですけど稲光がきれいで見惚れているうちにレーヴァティンに魔力が満ちたようです。
「唸れ、疾風!轟け、雷光!
レオが中段の構えから放ったジャッジメント・プラズマの凄まじい雷エネルギーはハイドラの凍り付いた身体に炸裂し、穿いていきます。
アブソリュートゼロで簡単な衝撃でも粉微塵になるのです。
それが雷の極大魔法などというこの世界屈指の衝撃力をもろに当てられれば、どうなるのかは想像に難くありません。
自らが喰らった死者の身体を使い、死者を冒涜する異界の邪神は復活し、一夜にして消えたのです。
問題は勢い余った雷の力がそのまま、遠くの山に当たり、崩れたようにも見えましたけどきっと気のせいですわね。
「ねえ、レオ。風が吹いていないのに疾風はおかしくありません?」
「え?そこ、ツッコんじゃ駄目なとこだよ。こういうのはノリが大事なんだって」
「そうでしたのね。わたくしったら、知らないとはいえ、失礼なことを?」
「あ、うん。別にいいけど」
頭をポリポリと掻くその姿があまりにかわいくて、頭を撫でたくて仕方がない衝動に駆られるのですけど。
撫でたら、怒ってしまうかしら?
そう思いながらも無意識のうちによしよしと頭を撫でている自分がいました。
この髪のわしゃわしゃとした感じも堪らないのですわ。
全てが愛おしいんですもの。
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