閑話 お嬢さまの性教育 Side アンヌマリー

 お嬢さまが最近、おかしい。

 ん?違った。

 前からおかしいんだけど、おかしいの様子がおかしい。

 おかしいと言ってるあたしがおかしい気がするのはお嬢さまの側に長く仕えてるせいだろう。


「はぁ…」


 窓から、外を見て溜息をつくなんて、お嬢さまはしなかった。

 氷のように心が動かなかったお嬢さまに人らしい感情が戻って、嬉しいのに何だか、嬉しいような悲しいようなごっちゃな気分。

 お嬢さまはレオンハルト様が戻ってからは無邪気に笑うようにもなってる。

 しかも今の溜息。

 まるで恋する乙女みたいでかわいい。

 そうじゃなくてもお嬢さまはあたしにとって、かわいいの極みなんだが。


「ねぇ、アン。男の人って…どうしてあんなグロテスクなアレがついてるの」

「ふぁ?」


 思わず、変な声が出てしまった。

 お嬢さまが変なことを言うからだ。

 恐らく、アレを見てしまったからに違いない。

 お嬢さまがえらくはりきって、レオンハルト様とお風呂に入ると言い出した時にはびっくりしたけど、その恋する乙女暴走気味なお嬢さまがかわいすぎて、送り出してしまったのが失敗だったんだね。

 お嬢さまは見ちゃった訳だよ、男の人のアレを。


「あのお嬢さま、一つ聞いてもいいですか?確か、愛の女神ではありませんでしたっけ?」

「そうだけども、それがどうかしましたの?」

「愛の女神が愛し合う方法、忘れてるって、やばくない?」

「…やばい。超やばいですわ」


 いくら神様だった時代が忘れるくらい昔って言っても色々、忘れすぎなんですよ、うちのお嬢様。

 さて、どうやってお嬢さまに性教育をすべきか。

 あたしが教えられるかっていうと教えられない。

 むしろ、前世も今世も彼氏いたことないし、恋愛経験がないあたしに出来る性教育なんて、あるかって話なんだよね。

 あっ、いいこと思いついた。


「お嬢さま、本で学んでみるのはいかがです?今まで恋愛小説やその…そういう小説をお読みになったことは?」

「そういえば、そういうジャンルの小説を読んだことないわ。そうね、それはいい考えですわね」


 バノジェから来る隊商にそういうジャンルの本を買いたい旨を伝え、手に入れることが出来たあたしは実にいいアイデアを思い付いたものだと自画自賛してた。

 そう後悔してる今に至るまではね!


「彼は私の敏感な場所をまるで知っているかのように指で執拗にいじめてくる。私は快感に流されそうになりながらもどうにか、彼を悦ばせようと…」

「ふぅん、それで続きは?」


 あたしが何で朗読させられてるんだいっ!

 いじめか?お嬢さま、ドSだった?

 微妙に蔑んだような目で見られると新しい世界が開けそうですよ、お嬢さま。


「つまり、分かったわ。男の人のアレを舐めたりしてあげると悦んでもらえるのね」


 違う。お嬢さまのこれは純粋な学者目線のやーつー。

 ちょいドS入ってる気がするけど、それはそれで気持ちよくなってきたから、いいやっ。


 あれから、お嬢さまは凄いペースで恋愛小説とアレな小説を読んでいる。

 元々、本の虫なお嬢さまにしても異常なレベルだと思う。

 しかもどんどん、いらない知識を身に付けちゃってるんじゃないかな。

 お嬢さまは見た目がちょっと幼い感じでかわいかったのに変な知識のせいか、妙な色気が出てきちゃったんじゃ。

 艶めかしくなってきたのは本のせいなの?ねえ、そうなの?

 それ、あたしも朗読させられてたから、あたしもなのか!?


「ねぇ、アン。わたくし、いつ食べればいいと思う?」

「は、はい…お好きな時でいいと思います、ええ」

「でも、まだ、通じていなかったら、駄目なのかしら」

「そ、そうですね」


 拷問ですかねぇ、あたしには拷問なんですけど。

 惚気話聞かされるのって、拷問なんだから。

 白目になっちゃうよ、あたし。

 はぁ、それにしても大丈夫かなぁ。

 レオンハルト様がちょっと心配になってきた。

 お嬢さまはアレ、きっとい…おや、誰か、来たみたい?

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