第34話 死の荒地の戦い・前夜

 ごきげんよう、皆様。

 遺跡での鼠との戦いから、我が城へと戻ってきたら、さらなる戦いへの招待状が舞い込んできたリリアーナです。


「姫、当初の想定通り、敵兵は本城の南西を進んでおります」


 着いた途端、目前でヴァルが膝をつき、物騒な報告をしてくるものですから、さすがにちょっとだけ、驚きました。


「敵の総数はやはり、千を超えているのかしら?」

「はい、歩兵だけで千を超えていると思われます。ただ、弓兵はほぼ、存在しておらず、騎兵も少数です」

「そこは予想通りなのね。すぐに緊急の軍議を始めます」


 想定内の動き。こうなることは分かっていたのですけど贅沢を言うのなら、もう少し戦力が整ってから、迎撃したかったですわね



 軍議の場に招くのはいつもの面々ですわ。まだ、帰還していない爺やがいないことが少々、気掛かりではありますけど。


「お嬢、籠城ではないんだな?」

「ええ、わたくし防衛戦は苦手ですもの」

「戦力比はおよそ三倍ですな。シュタインベルガー卿が死者の軍勢を召喚しても二倍にまで縮まるか怪しいところですな」


 内政を一手に託したネスは苦い顔でそう言うのも無理はないでしょう。単純に兵数では負けてますもの。そう、兵数ではね。


「単純に戦力だけで見れば、ですわね。ですが戦場を南部に広がるこの平原地帯とし、戦術を成功へと導きさえすれば、わたくしたちの勝ちですわ」


 そう、大事なのは戦術。わたくしが前世で学んだことがここで活かせるのです。

 理由は分かりませんけど、この世界にまともな戦術が存在するのか、怪しいのです。

 馬鹿正直に正面からぶつかりあうだけの戦場。そこに戦術などあろうはずもなく、戦場を支配するのは力のみ。だからこそ、付け入る隙があるのですわ。

 敵兵を中央部に引き付け、罠にかかるのを待ち、騎兵を使った機動戦を仕掛けつつ、包囲殲滅する。問題点としては練度が足りていないから、いざ実戦で上手くいくかどうか分からないという点が不安要素かしらね。


「中央の重装歩兵はわたくしが自ら、率いましょう。敵も餌が豪華な方が食いつきやすいですもの。最右翼の騎兵隊はハルトにお願いしてもいいかしら?」

「まだまだ、練度足りてませんがやってみせますよ。出来りゃ、もうちょい騎兵を揃えたかったですがね」

「左翼の軽装歩兵はイポスとパトラ様。右翼の軽装歩兵はキャシー。それぞれの武装はあなたたちの好きな物でよろしくてよ」

「各自武器の供給もイシドール様のご協力により、滞りなく行われる予定です」

「ありがとう、ネス。以上で軍議を終わりますわ」


 軍議を終えた途端、疲れが急に襲い掛かってきました。今日はそれほど、魔力を使っていませんし、あの程度の近接戦でここまでの疲れがくるとは思えませんから、必要以上に気を張っていたということなのでしょう。


「お嬢さま、大丈夫ですか?顔色がよろしくないようです」

「大丈夫よ、ありがとう、アン。あなたこそ、無理をしているのではなくて?」

「そうだよー、ママ」


 軍議が終わるまで部屋の外で待っていたニールがパタパタと翼を羽ばたかせ、わたくしの左肩に乗り、甘えるように頬ずりしてきました。


「戦なんてー、ドカーンで終わりなのにしないの?」

「ニール、それは駄目なの。なぜか、分かるかしら?あなたが力を使えば、すぐに終わる。でも、それでは駄目。わたくしも攻撃魔法は使わないのよ?それでも分からない?」

「なんでー?」

「お嬢さまたちが力を貸すと人はそれに甘えてしまうから、ですか?」

「アンは分かってますのね。でも、半分正解で半分不正解かしら。わたくしは人は思った以上に強く、自分たちの力で運命を切り開けると知って欲しいのです。それは叶わない願いなのかしら」

「お嬢さま…」

「難しいーね。よく分からなーいけどやっちゃ、ダメ分かた」


 しかし、いよいよ明日なのです。

 明日、運命が変わる。いえ、変えなければならない。

 わたくしの運命。あなたの運命。全てを変える為に。

 だから、今日はもう休みましょう。全てを忘れて。

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