閑話 金色の魔竜と気高き王の帰還
僕はここにきて、少々焦ってる。リーナがいるアルフィンへと近づいてるのに僕の力はまだまだ、物足りない。
この程度では彼女の運命も僕の運命も変えられるか、怪しいものだ。新しく覚えた
だけど、それだけじゃ、やはり足りない。と思っていたら、向こうから来てくれたようだね。
「やあ、君の力はまだまだ、だね。だから、手伝ってあげることにしたよ」
かかった!と僕は心の中でほくそ笑む。僕の目的は奴が手助けしようと現れてくれないと果たせないからね。
「誰だ?」
「誰だろうね。どうでもいいことだよ?僕が君を助けてあげるよ」
お前が誰だか、なんて知ってる。知っていて、来ることを待っていたと気付いたら、少しくらいは焦るのかな?まぁ、焦ろうが焦るまいがお前を消すのに躊躇ったりはしない。絶対に。
パチンと奴が指を鳴らすと周囲の風景が一変していた。今までいたところは亜熱帯や熱帯に属するジャングルのような木々が生い茂った場所だった。
今、僕の目に映る風景は一言で言うと荒涼とした大地。ところどころをマグマの川が流れていて、有毒ガスらしき蒸気が噴出していた。
「こ、ここは一体?」
「どこでもいいんじゃないかな。君がすることはほら、アレ」
ここがどこかは分からないけど奴は僕が力を増すことを目的としてるはずだ。だから、アレなのか。アレと奴が指差した先にいるのは何だ、アレ?
マグマの発する光にその金色の鱗を眩かせながら、ゆっくりと大地に舞い降りる巨体。翼は前腕と一体化したような形状になっていて、大きく広がっている。何よりも奇妙なのは胴体から伸びている首が七つあるところだ。
その先についている頭には一本の角が生えており、真っ赤に燃え上がった単眼が僕を射竦めるかのように睨んでいた。
「そいつを倒せば、君の望む物が手に入るよ」
悪魔っていうのは奴みたいなのを言うんだろうなぁ。目の前に豪華な食べ物を見せて、誘惑してくるとかさ。
「何だか、分からないけどやるしかない。アクセラレーション!」
金色のドラゴンとの間合いを一気に詰める。加速を利用してレーヴァティンを居合の要領で抜刀して剣を飛ばし、七つある首のうちの一つを斬り飛ばそうとするが自在に動くドラゴンの尾にそれを阻まれた。
尾の一撃は凄まじい威力で派手に吹き飛ばされ、大地に叩きつけられそうになる。
「させるかっての!」
身体強化の強度をさらに上げ、叩きつけられる力をそのまま利用し、一回転して、逆に大地を足で蹴ってそのまま勢いを付け、ドラゴンの前腕に向け、平突きを放つ。
コレットを助ける際に喰らった変わったゴブリンが使っていた技だが突進する攻撃という点では居合よりもこちらの方が効果的だろうと思ったからだ。
「くっ、全く効かないとか、何の冗談だよ」
ドラゴンは突きで狙った前腕の鉤爪を一閃するだけで僕の渾身の一撃を弾いた。いくら前腕と翼が一体化しているとはいえ、ありえない堅さじゃないか。
「あぁ、君の剣は炎だろう?あいつはこんな場所に住んでいるんだ、分かるよね」
奴が口角を上げ、ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべながら、言った。相変わらず、嫌なところは治るどころか、酷くなってるんじゃないか。
「そういうことか。なら、僕が出来ることは何だ?考えろ」
レーヴァティンは炎剣だ。ここの地形は火山地帯。相性が悪いってレベルじゃない。ダメージを与えても1ダメージ1ダメージと表示されるRPGの1シーンを頭に思い浮かべてしまい、慌てて頭を振ってそれを否定する。
「レーヴァティン!奴の力を超えてみろ!アクセラレーション!!」
身体の負荷とか、そんなこと考える余裕はない。今、この時に全ての力を。僕はレーヴァティンを天空に掲げ、ありったけの魔力を込める。
空を暗雲が覆っていき、遠くでゴロゴロゴロと雷鳴の音がする。天気が変わった?
「違う。僕が呼んだのか?レーヴァティンお前が?」
稲光とともに僕が掲げたレーヴァティンに雷撃が直撃した。普通だったら、感電して僕はゲームオーバーだろう。
ところが何も感じないし、衝撃も特に受けてない。しかし、雷撃を受けたレーヴァティンはその刀身が砕け散り、柄しか残っていない。
「これは!?雷剣レーヴァティンってことか」
レーヴァティンの柄から、強烈な光とともに刀身が再生されていく。その形状は以前のとまるで違う。直剣の形状なのに側面から、六本に枝分かれして、切っ先が七つあるように見えた。
「歴史の教科書に載ってたっけ。七支刀みたいだな」
生まれ変わったレーヴァティンを見つめ、感慨に耽ってる場合じゃない。あの金色を黙らされないとね。
「唸れ、疾風!轟け、雷光!
再び、レーヴァティンを天空に掲げると雷光がその刀身に集まり、強力な雷エネルギーが生み出される。それをドラゴンに向けて、解き放った。
ドラゴンの方も黙ってやられるつもりはないんだろう。七つの頭が金属音のような奇妙な咆哮を上げながら、その口を開き、カチリッという牙が噛み合う音とともにブレスを吐いてくる。
ぶつかり合う雷と炎の力のせめぎ合いはすぐに片が付いた。ドシーンという轟音とともに金色のドラゴンがその巨体を大地に横たえる。多分、死んではいないはずだ。十分、手加減はしておいたからね。
僕はレーヴァティンを手にドラゴンへと近づいていく。その首を十分に落とせるだけの距離に近付くが僕は振り上げた剣を振り下ろさない。
「僕はこいつを殺さない」
「何を言ってるんだい?君は力が欲しいんだろ、ならば、そいつを殺すんだ」
奴が苛立っているのが分かる。僕が思い通りに動かなかったからだ。ドラゴンを倒した僕がドラゴンを喰らうと思っていたんだろう。だけど、そうはしない。
このドラゴンはそもそも、僕に対して殺意を向けてなかった。僕じゃなくて、僕の後ろにいる奴に対して、殺意を向けていただけなんだ。
「僕は殺さないって、言ったんだ」
「ふざけたことを言うな!お前の力じゃ、足りないだろ。さっさとやれって」
「嫌だ。僕は殺さない」
「さっさとやれって言ってんだ。このクソガキが!」
かかった!奴は僕に殺意を向けた訳だ。僕はこの時を待っていた。ありったけの力でアクセラレーションを掛け、奴の背後を取ると背中からレーヴァティンを思い切り、突き刺す。貫通したレーヴァティンの切っ先が奴の腹から、顔を覗かせる。この形だから、抜いたらすごく痛いだろうな。まぁ、抜く必要もなく、お前は消えるんだけどね。
「ぐはっ、な、な、なんだと!?お、お前、まさか」
「ありがとう、サタン。そして、さよならだ」
「貴様、記憶がもど…」
その一撃で致命傷を負った奴―サタンを喰らう。それと同時に僕の身体に力が満ち溢れてくる。この力だ。僕がかつて、失った力をこの手に取り戻したんだ。
倒れていた金色のドラゴンがゆっくりと起き上がり、その巨体を揺らしながら、僕の前に跪くかのようにその巨体を屈めると言うのだった。
「我が主、ご帰還される時をずっと待っていました」
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