第27話 俺だよ、俺

アルフィン内政状況

人口: 413 人

帝国歴1293年

6月

 領主代行リリアーナ一行が赴任する(+5人)

 黒きエルフ族が移住(+197人)

7月

 コボルト族が移住(+48人)

 バノジェや小集落から移住(+123人)

 ミュルミドン誕生(+10人)

 ミュルミドン補充(+30人)

   

人口構成種族

 人間族、エルフ族、獣人族(影牙族、影爪族)、コボルト族

 雑用ゴーレム、建築ゴーレム、ミュルミドン


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 リリアーナらが戦闘に突入したのとほぼ同刻―

 正面通路を進んでいたハルトマンとアイポラスもリリアーナらと同じく、地下の住人の手荒い歓迎を受けていた。


「ハズレルートの割に歓迎されまくりだな。もてる者は辛いな」

「冗談は顔だけにしておくっす」


 減らず口を叩きながら、ハルトマンは左手の盾を勢いよく、振り抜き接近していたグレイヴンを一匹、跳ね飛ばす。ギャッという断末魔の悲鳴とともに吹き飛ばされたグレイヴンは既に絶命している。


「お嬢もえらく面倒なものを渡してくれたもんだ」


 穂先が三つ又という特殊な形状の槍を目前に迫ったグレイヴンの胴に突き刺すと力任せにそのまま、壁に放り投げる。

 「ハルトには騎馬隊を率いてもらうの。今のうちに慣れておいた方がいいと思うわ」と渡された武器が今、右手に収まっている三叉戟トリシュラだった。

 槍でありながら、刺突だけではなく切断も可能であり、なおかつ持ち手部分が強化されていて打撃も見込める一見、理想的な武器のように見えてしまうトリシュラだが実際には扱うのに相当な技量が必要だ。

 つまり、それだけお嬢に信頼されているってことだなとちょっとばかり、誇らしく思っているハルトマンはもはや手の施しようのない病気に罹っているのだろう。


「これでも少ない方っすよ。姫とアンのルートの方が…うん、大変っすねー」


 軽口を叩きつつも曲刀で斬りかかってくるグレイヴンを軽やかなステップで避けていく。回避しつつすれ違いざまにその首に向けて、強烈な蹴りの一撃を叩き込んでいく。首の骨が折れる嫌な音とともに数匹のグレイヴンが床に倒れ伏していた。




 同じ頃、右通路を進んでいたフュルフールとアモンもまた、グレイヴンとの戦闘に突入していた。

 フュルフールが軽く人間の成人男性くらいはありそうな大きな盾を振り回せば、グレイヴンは単なる肉塊となって、吹き飛んでいった。

 アモンが両の腕を軽く、薙ぎ払っているだけでグレイヴンは三枚におろされたかのように裁断されていった。

 戦闘というよりも一方的な虐殺と言うべき様相を呈している。


「鹿…お前、鹿ちゃんだろ?俺には分かるぜ」


 前を歩いていたアモンが踵を返し、純白の竜人ドラゴニュートの瞳を射抜くかのように鋭い視線を投げかける。


「何のことでござる?某には分からぬな」


 対するフュルフールの顔に浮かぶものは何の感情も読み取れない無心。


「俺だよ、俺。狼だよ。おめえしか、いないんだよな。月に願うマゾ野郎とか、いる訳がねえ」

「な…んだと…?」

「知らなかったのか?この世界にはねえんだぜ?」


 それまで無心だったフュルフールの顔に薄っすらと浮かぶのは若干の焦りか。


「だとすれば、どうするでござる?ここでまた、勝負を所望か?」

「そんな面倒なことしねえよ。てことはお前、やっぱりそうか。妙な縁だな。殺した奴と殺された奴が訳分からない世界で一緒にいるとかな。おっと、お喋りするのはここまでのようだ」

「そのようでござるな。彼奴等きゃつらもそろそろ本気のようでござる。某も、本気を出すとしよう」


 フュルフールはそう言うと巨大な盾の裏に取り付けられている物を右手で取った。それは剣というより刀の柄。

 刀身のない柄を手にしたフュルフールは体内の魔力をその柄に向け、流し込む。ブォンという不思議な音とともに柄から、黄金色の光が放たれ、それはやがて弓なりに沿った眩い刀身を形成していた。


「へえ、面白えことするな、鹿ちゃんよお。大太刀とはなあ」

「お主が得物を使わぬのが不思議でござるよ」

「どっちが多く、潰せるか、勝負だぜ」

「下らぬ。だが乗ってやるでござるよ」


 それまでセーブしていた力を開放した二人の魔人のせいでさらなる虐殺ショーが繰り広げられることになる。



 その頃、主が離れたアルフィンでは紅いドレスの幼女エキドナが癇癪を起しかけていた。


「ええい、面倒じゃ。わらわもお主と治療院とやらに行こう。城におるとほんに面倒なのじゃ」

「えー、エキドナさまも来るんですかぁ。それはわたしが面倒じゃないですかぁ」


 エキドナに絡まれているエレオノーラは既に普段着ではなく、治療院で働くのにふさわしい真っ白な神官服に身を包んでいる。ただ、彼女の場合、出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいるが度を過ぎているので逆にいかがわしく、見えてしまう。


「ならば、お主はわらわがあの妙な奴のせいで過労死してもよいのかえ?なんとも薄情な女子よのう」


 およよとわざとらしく床に蹲り、床にのの字を書くエキドナに「うわ、超面倒」と思いつつも外面は良く見せたいエレオノーラは自分が折れざるを得ないことを認める。


「分かりましたよぉ。エキドナさまがいらしたいなら、どうぞ」

「うむ、話せば分かるではないか。よいぞよいぞ」


 さっきまで泣いていた(振り)くせに満面の笑顔で答えるエキドナ。この後、トラブルメーカー二人が訪れた治療院がてんやわんやになるのはまた、別の話である。

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