第26話 爺さん、攻略対象の一人なんですっ

アルフィン内政状況

人口: 413 人

帝国歴1293年

6月

 領主代行リリアーナ一行が赴任する(+5人)

 黒きエルフ族が移住(+197人)

7月

 コボルト族が移住(+48人)

 バノジェや小集落から移住(+123人)

 ミュルミドン誕生(+10人)

 ミュルミドン補充(+30人)

   

人口構成種族

 人間族、エルフ族、獣人族(影牙族、影爪族)、コボルト族

 雑用ゴーレム、建築ゴーレム、ミュルミドン


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「手応えがなくて、つまらないでしょう?」

「そうですね。探ってきてるだけって感じですし」


 アンが何匹目か分からない鼠の首をいとも簡単に捩じ切り、放り投げました。人狼ルガルーの血が半分、入っているだけでこれですもの。恐るべき戦闘民族ですわね。


「この先に爺やがいるのは間違いないと思うの。魔力を感じるもの」

「ベル爺さんがこの先に?あっ、お嬢さま。前に話したゲームの話なんですけど思い出したことがあって…」

「ゲームの話?ええ、悪役令嬢の話かしら?」

「そうです。それで忘れてたんですけど…ベル爺さん、攻略対象の一人なんですっ」

「ええ?爺やがコウリャクタイショウですの?齢の差はどうなりますの?アリーゼが主人公なのでしょう?祖父と孫くらいの差がありますわ」

「そこが変なんですよ。ゲームでのベル爺さん、いえ、ベルンハルトさんなんですがあたしたちと同い年なんです。だから、おかしいんですよ」

「それは確かに解せないわね」


 通路の影から、攻撃を仕掛けてくる鼠を撃退し、雑談を交わしながら歩みを進めていると不意に風を切り裂く音がした。しかし、その風を切り裂いてきた物自体は目的を遂げる前に力を失い、床に転がっています。氷漬けでね。


「あら?弓で撃ってきたのね。やはり飛び道具を使われると厄介ですわね。面倒ですけど氷の魔法は常時展開しておくわ」


 まだまだ改良の余地があるけど、七つの門セブンスゲートより消費魔力も少ないし、何よりも常時展開が可能という点が大きいかしら。


「お嬢さま、それがあれば、弓でやられるのがなくなるんですね」

「理論上はないはずなの。身体に到達する前に凍らせて無効化する魔法ですもの。ただ、例外はないとは言えないわ。魔力で強化されたり、魔法の矢だったりするとどうかしらね」

「なるほど、でも鼠相手なら平気そうですねっ」

「そろそろ、本気で来るようですわね」


 腰に佩いているオートクレールを抜き、魔力を込めていくと水晶の刀身が血を吸い上げたかのように深紅に染まっていきます。これで準備は万端ですわ。

 残念なのはこの狭い通路では本来の使い方が出来ないことかしら?刺突剣として扱わないと自分たちが怪我しかねないものね。


「思ってた以上にいそうですね」


 通路の先の暗闇に浮かび上がるのは真っ赤に燃え上がり、こちらを睨みつける憎悪に満ちた瞳。それも一つや二つではありません。

 飛び道具は効果なしと判断したのでしょう。弓を持っているグレイヴンが下がり、代わりに現れたのは長槍を構えた一団でした。


「リーチが長い槍部隊なんて、面倒ですね。当たらなければ、どうってことないんですけど」


 アンは短めのスカートが翻るのも気にせず、勢い良く駆け出すとあっという間に槍持ちグレイヴンの目の前まで接近しています。


「遅いっ!」


 左手の手刀で槍を真っ二つに叩き折ると右手に構えていたショートソードを一閃し、驚いた表情のグレイヴンの首を刎ねました。その首は驚いた表情のまま、地面にゴトリと落ちます。

 本当に一瞬のことでした。あまりに手際がよすぎるアンの腕の良さに見惚れていたわたくしが無防備に見えたのでしょうか。曲刀を振りかざして、斬りかかってきたのです。


「確かに遅いですわね」


 あまりに大振りで隙だらけに迫ってきた曲刀を腰を屈めて避け、からがら空きになっている鳩尾に向けて、膝蹴りをプレゼントしてあげます。急拵えなのにこれほど、動きやすいドレスに仕上げてくれたベラ様には感謝してもしきれないですわね。


 不意打ちのつもりが自分が不意打ちを喰らったせいでしょうか。状態がぐらついたグレイヴンの首筋に目がけ、思い切りオートクレールを刺し込みます。刺さった瞬間に毒を注ぎ込むことを忘れてはいません。掠り傷でも猛毒が注がれれば、致命傷になりますもの。

 引き抜く時にドレインでエネルギーを吸い取ることも忘れてはいけませんわね。




「お嬢さま、あらかた片付きましたね」

「そのようね。動ける者はいないようですわね」


 これでまだ、動けるものがいたら、部下としてスカウトするのも悪くないかしら?ううん、それはないわね。お魚と鼠だけはそれはないのよね。

 彼らはわたしを敵と認識しているでしょうし、それはわたくしにしても同じこと。彼らとの戦いはわたくしがアスタルテであった時から、延々と続いているんですもの。分かりあえる存在ではないのよ。

 善や悪?そのような観念の話ではないのよね。彼らはこの世界を腐らせ、食べ尽くそうとする者。強いて言うのであれば、許してはいけない存在というところなのかしら。


「それにしても…しつこいですね」

「敵も馬鹿ではないのでしょう。こちらの疲れを待っているのではなくって?」

「無駄ですけどねっ」


 こちらの戦力が少数と既にばれているのでしょう。それは当たっていますし、戦術としても間違ってはいません。狭い通路で幾度にも分けて戦力を何度か、ぶつけることにより、疲労を蓄積させ、開けた場所に出たところで大軍で包囲する。間違ってはいませんわね。

 相手の戦力を見誤ってなければ、という前提が付きますけども。この場合、わたくしとアンの見た目で戦力を過小評価したのかしらね。


 単純な数の勝負であれば、理想的な戦術でしたのに。凶暴にして狡猾と言われるグレイヴンの真骨頂ともいえる嫌らしいやり方ではありますわ。

 ただ、さすがに波状攻撃が十回ほど続いてますから、疲れよりも飽きてきたのよね。


「近いですわ。よく知る魔力…爺やのですわね。それと未知の大きな魔力も感じますわ」

「やっとこのループする鼠攻撃から、解放されるんですねっ」


 待ち受けているだろうものに備え、オートクレールを鞘に戻し、アンとともに通路の先に見える光へと歩みを進める。

 この先に待ち受けるものが何であろうとわたくしには先に進む道しか残されていないのだから。

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