第66話 緋色の瞳に映るもの
整備された細い道を進むと、緑の中に朱色が現れる。
鳥居だ。
ここは人の手がきちんと行き渡っていたようで、鳥居の朱色は鮮やかで最近塗り替えが行われたようだ。
鳥居の前に狛犬や獅子は置かれていなかったが、俺が最初に玉藻の一部と遭遇した文王の丘とは違って、どこもかしこも綺麗に整えられている。
鳥居の下をくぐると、少し開けた場所があり、その真ん中に祠がポツンと立っていた。
その手前に、数名の死体。
おそらく、この祠を守っていた里の者たちの死体だ。
「そんな…………」
刹那は悲痛な表情で、倒れている遺体を確認する。
「この様子だと、もうここの殺生石の封印も解かれているだろう。あの女狐の力は、更に強くなったに違いない。いや、本来の力に近づいたと言うべきか……」
茜はそう言っていたが、俺は念のため、祠の中を確認するため、扉に触れた。
その時だった————
「颯真!!」
茜が叫んだが、もう遅い。
————7つの火の玉が出現して、俺の周りを取り囲んでいた。
( ——狐火!?)
狐火は瞬く間に高く、広く燃え広がり、まるで結界をはるかのように炎で壁を作る。
茜と刹那の姿が見えなくなり、俺は完全に孤立した。
周囲を火の壁で囲まれ、唯一空いている空を見上げると、緋色の瞳と目があった。
玉置と呼ばれていた、あの女の顔が、落ちてくる。
あの夏の日、紺碧の空から落ちてきた妖と、同じ緋色の瞳をしたそれは、同じように不敵な笑みを浮かべて、俺にぶつかる直前、空中でピタリと止まったまま、笑った。
「フフフ……呪受者よ、この右目に掛かりし我が力、返してもらおう」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、玉置の顔は徐々に玉藻へ————狐の顔に変わる。
「我を封じた殺生石は既に半数以上が我が手に戻った。あとは、この右目に掛けた力を我に戻せば、お前が封じた残りの殺生石も、簡単に解くことができる。最早、お前たちに勝ち目はない」
玉藻は冷たい左手で俺の右目のまぶたを上下に押し開くと、舐めずった舌を伸ばし、さらに近づいてくる。
「妖怪に命を狙われるのは、もうたくさんであろう? 我にその右目、差し出せば楽になれるぞ?」
気配でわかる。
殺生石の封印を解き、さらに力を取り戻した玉藻の力は、あの洞窟で対峙した時とは違う。
格段に、強くなっている。
だけど、怖いとは思わなかった。
これが、あの時初めて妖怪と対峙した俺であれば、恐怖に動けなかったままだろう。
今、緋色の瞳に反射している俺の顔は、あの日、あまりの恐怖にただ、目を大きく見開いていたものとは明らかに違う。
「まさか、逃げてばかりだったお前の方から、俺に近づいてくるとはな————」
俺は玉藻の手首を掴み、強く握りしめる。
「————捕まえた」
緋色の瞳に映る俺の顔は、笑っていた————
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