第33話 寿限無
修学旅行初日。
現地に到着し、記念館等の施設を見学した後、この日初めての自由時間……要するに遊びの時間となった。
「集合時間に遅れるなよ! 置いていくからな!」
「はーい!」
生徒たちのほとんどが、
江戸の町なのに、なぜかジェットコースターやお化け屋敷もある。
なんでもありなこの場所は、修学旅行の定番コースの一つだ。
「颯真、気を緩めないようにね……あんた、最近自分がおかしいってこと、自覚したほうがいいわ」
「ああ、大丈夫だって……」
そう刹那に言ってはいるが、俺は全然そんな自覚がない。
七瀬葵が転校して来て、5日経ったが、刹那が言っていた普通の人間じゃないという言葉が理解できない。
どういうことなのか理解しようと、もう一度彼女をよく観察しようと試みたが、席が俺の真後ろということもあり、授業中は振り返ることができない。
それどころか、授業で教科書の朗読をした時の彼女の声が、あまりに綺麗で、その息遣いやページをめくる音一つ一つに、今まで感じたことのない程、心臓が高鳴ってしまって、それどころじゃない。
こんな状態で、本来なら修学旅行に参加している場合ではない。
では、なぜ、参加しているのかというと、偶然にも修学旅行先が殺生石の封印されている
そして、数日前に玉藻が現れた玉女の峡谷の近くでもある。
俺と刹那は、この修学旅行の裏で、殺生石の封印の強化と玉藻の次の動向を調査するために動くことになっていた。
ユウヤは里の者たちと先に現地に入り、玄武の湖畔近くの寺院にいる。
玄武の湖畔がある地域は、この時期修学旅行先として人気で、多くの人が集まる。
もしも、その中で玉藻が現れれば、何かしら被害を及ぼす可能性がある。
後で知ったのだが、人間の……特に、若い人間の体は、妖力は無くても妖怪にとって力になるのだという。
もともと一族最強の力を持っている上に、呪受者というレアケースな俺よりは狙われる可能性は低いが、塵も積もればなんとやらだ。
生徒たちに害が及ばないように、護衛ということも含めての、修学旅行への参加だった。
「わたし、転校してくる前、ここの近くに住んでいたんですよ」
「そうなの? じゃあ、修学旅行先がここで残念じゃない?」
修学旅行はグループ行動が鉄則。
刹那は七瀬葵を自分のグループに入れて、監視しつつも、それを本人に悟られないように、あえて普通に接している。
二人が並んで歩いている姿をみて、他の男子は涙を流しながら喜んでいる奴もいた。
「いえ、そんなことはないですよ。近くに住んでいたから逆にあまり知らないんです。そんなに多く来たこともないので」
楽しそうにしている横顔を、少し離れたところから見ていた俺に、俺と同じグループだったクラスメイトの山田がいきなり肩を組んで、小声で話してくる。
「なぁ、颯真、お前さ……七瀬のこと好きだろ?」
「は!? なんだよ突然!?」
「そんなに焦るなって。協力してやるから、お前も俺に協力してくれないか?」
「何を?」
「刹那ちゃんと、二人きりになりたいんだよ。俺があの二人誘うから、一緒にそこのお化け屋敷入ろうぜ?」
山田が指差したその場所には、魔鏡の館と書かれた看板があった。
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