第32話 絶世の美女


 なにをどう表現したらいいのかわからない。

 そんなものはいるわけがないと、否定していたものが、今、目の前にいる。


 担任教師に促されて、教室に入って来た彼女は、立ち姿も振る舞いも、もちろん顔も、そして声も美しいの一言では片付けられないほどの絶世の美女だった。



七瀬ななせあおいです。よろしくお願いします」



 色白の肌と対比して、目の下のほくろはより黒く見える。

 少し髪色が明るいのは、おそらく彼女の瞳の色が青いから地毛だろう。

 ユウヤと同じで、どこか外国の血が混ざっているに違いない。


 席替えをしたばかりで、不幸にも一番前になってしまった俺は、今、幸運にもこの絶世の美女を一番近くで正面から眺めていることになった。


 あまりの美しさに、じっと見つめてしまった俺の視線に気づいたのか、彼女はにっこりと微笑み返してくれる。



(か……かわいい)



「席は……そこの空いている席に座って」

「はい、わかりました」


 担任が指定したのは、俺の後ろの席。

 俺の横を通る時、彼女は小声で言った。


「よろしくね」


 と、俺にだけ聞こえるように。



 * * *




 休憩中の話題は、もちろん転校生、七瀬葵の話題で持ちきりだった。


「かわいすぎだろう!!なんだあの転校生は!!」

「芸能人とかか!? こんな田舎にあんな美女くるとか奇跡か!?」

「顔も可愛いし、しかも、頭もいいみたいだぞ!?」

「それにあれだよ、あのおっぱい!!! でかくね!?」

「これは、校内の美女ランキング1位確実じゃねーか!! 現女王の刹那ちゃんもかなわねーレベルだよ!!」


 と、男子たちは興奮気味。


 しかし、女子たちはというと、その様子が面白くないようで、誰も彼女に話しかけることはなかった。


「何よあれ、男子たちあんなに騒いで……たかが転校生じゃない」

「ハーフってだけでしょ?」

「そうよ、ちょっと可愛いからって……」

「ていうか、校内美女ランキングって何? いつ集計したのよ……男子キモいんだけど」



 七瀬葵のおかげで、男子と女子の間に溝が生まれ始めていた。



「ちょっと……やばいわね」

「何が……?」


 刹那はそんな様子を遠巻きに見ながら、不安そうな顔をしていた。


「校内の雰囲気よ。あの転校生……七瀬さんが来てから、嫉妬と憎悪の感情が高まって来てる…………颯真、あんたも知ってるでしょ? そういう強すぎる負の感情は、ほかの霊や雑鬼たちに影響してくるって」


 確かに、負の感情は強すぎると、生き霊になったり、その辺に浮遊してる霊たちを悪霊へ変えてしまう場合がある。

 悪口や暴言は、言葉にすることで、言霊となり呪いとなるケースもある。

 現に、俺のこの右目の呪いも、玉藻の言霊によるもらしい。


「そうだけど、そんなに心配するほどのことか? 転校生が珍しいってだけだろ?」


 時間が経てば、珍しさなんて薄れる。

 それが当たり前になるのだから。


 俺はそう思っていた。


 しかし、刹那は俺の顔を見て、眉間にしわを寄せる。


「何言ってるの……? 颯真、あんた、もしかして見えてないの?」


「何を?」



「七瀬さん、多分普通の人間じゃないわよ」


「は……!?」



 俺は刹那の言っていることが、全然理解できなかった。







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