第34話 合わせ鏡
魔鏡の館は、簡単に言うとミラーハウスのお化け屋敷だ。
中は薄暗く怪しい照明で、本物の鏡と、幽霊役が中に入り脅かす仕組みが巧妙に設計されている。
怖すぎて、出口まで行くと人が変わるなんて噂まであった。
入り口で必ずペアで入るように言われ、刹那はまだ七瀬葵が何者かはっきりとつかめていないため、女子二人で入ろうとしたが、そこは山田が邪魔をして、強引に刹那の手を引いて中へ入ってしまった。
「えっ……ちょっと!!」
「ほらほら、刹那ちゃん!ここはさ、ちょうど男子が2人いるんだから、俺と行こう。大丈夫!! お化けが出ても、俺が守ってあげるから!!」
「いや、そういう問題じゃなくて……!!」
(いや、どちらかと言うと、お化けがでたら守られるのはお前の方だぞ……山田)
さすがに一般人の山田にそんなツッコミを入れることはできなかった俺は、館の中へ消えて行った二人を青春だなぁ……なんて、のんきに見ていた。
七瀬葵と二人で。
「青春ですね」
「そ……そう、だね」
俺はこの日、初めて彼女と会話した。
左耳が異常に熱い。
俺の左側に、彼女がいるせいだ。
「わたし、お化け屋敷って苦手なんですけど…………
「いや、俺はその……別に平気かな。本物じゃないし」
「そうですね……でも、こう言う話聞いたことないですか?」
「本物の幽霊が紛れこみやすいって、話です」
彼女はその美しい顔で、その声で、お化け屋敷が苦手だと言いながらも、なぜかその手の話に詳しいようだった。
「本物の……幽霊?」
「はい、なんでももう閉園してしまいましたが、あの有名な遊園地があった場所が実は前は墓地だったとかで……」
ホラーが好きなのだろうか?
だったら、俺の経験を話したら、喜んでもらえるのだろうか?
いや、待て待て。
どうして俺はこんなにも、彼女を喜ばせたいと思うんだ?
そんな考えが頭をよぎった時、山田に言われた言葉を思い出す。
————『なぁ、颯真、お前さ……七瀬のこと好きだろ?』
まさか……これが、恋だというのか?
「あ、一くん、私たちの番ですよ!」
「あ……ああ」
初めてのことに戸惑いつつも、順番が来て俺たちは館の中へ入った。
彼女はそっと、俺の手を握る。
「怖いので……手を繋いでいてもいいですか?」
「あ……ああ」
中が薄暗いのが救いだった。
俺の顔は多分、赤い。
* * *
館の中は、確かに鏡が多く、ふとした瞬間に映し出される自分の姿に驚いて、悲鳴をあげそうになったり、脅かしてくる幽霊役に追われたりと……
驚くたびに、ビクッと震える彼女の手を、俺は強く握り返してしまう。
実のところ、俺も作り物だとわかっているのに、ここの演出がうますぎて、俺もビビっていた。
でも、それを悟られたくなくて、平気なふりをしていた。
「やっぱり怖いです……ごめんなさい、わたしのせいで進むのに時間かかって…………」
「だ、大丈夫。もう少しで出口って、書いてあるし……」
時折書かれている経路案内には、後半に差し掛かると、出口までの距離が書かれている。
案内通りに次の扉を開けると、そこは8角形になっている部屋で、壁一面の鏡が俺たちを取り囲んでいる。
緑色の怪しげな照明……
鏡の中にもう一人の自分、さらにその中にもう一人の自分と万華鏡のように、映し出される姿は、奥へ行くほどゆがんでゆく。
「これはどここが出口なんだ?」
経路を探すために、俺は一度ぐるりと回りを見回した————
そして、気がついた。
鏡の向こうに、俺と彼女以外に映るものがあることに。
それは、今、俺が手を繋いでいる七瀬葵と同じ顔で、ニヤリと不気味に笑い、こちらを見つめている。
「きゃああああああ」
それと目があった瞬間、繋いでいた手が離れ、反対側の鏡に本物の七瀬葵は吸い込まれていく。
「七瀬!!!」
引き戻そうと手を伸ばしても、もう遅い。
彼女は鏡の中から、俺に助けを求めて何度も鏡を叩いたが、鏡の向こうに、俺の手は届かなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます