第5話 隠しの術と絶対の結界
「お前が呪受者であることを隠す為に、姉様はこの家に絶対の結界を張って、さらに、お前の右目にも隠しの術を掛けたのだろうさね。代々の研究で、呪受者はそうやって自分の孫がその力を使えるほどの年齢になるまでは封印してきた。しかし————」
春日様は、俺の右目を目を細めてじっと見つめた。
右側だけ長い俺の前髪を搔きわけて、右の頬に手を添えた。
(ああ、ばあちゃんもよく、こんな風に俺の目を見ていたな————)
春日様とばあちゃんは、本当によく似ている。
外見だけじゃなくて、仕草も、口調も声も似ている。
だけど、別の人なんだ。
俺のばあちゃんじゃない。
「————姉様が死んで49日が過ぎた。もうその瞳に掛けられた隠しの術の効力は切れた。この家の結界も、いずれ破れるだろうさね。その前に行こう。我が一族の家へ」
そうして、俺は14年間、生まれ育った家を出た。
俺の両親は、妖怪の話を全く信じてはいなかったが、俺の右目が見えるようになったことで、納得したようだった。
完全な結界は、呪受者にしか作ることはできないのだと、春日様は言った。
妖力の強い妖怪がもし現れたら、呪受者以外の者が張った結界はすぐに破られてしまうらしい。
一族の家に行けば、あの俺を助けてくれた刹那のように妖怪を払うことができる者がたくさんいるから、俺を守ることができると、春日様は言っていた。
「お前が自分で、自分の結界を張れるようになるまでの辛抱さね。親との別れは辛いだろうが、これは、お前とお前の両親を守る為に必要なことなのさね」
自分で力を操れるようになるまでは、決してここへは戻れない。
ばあちゃんとの思い出もたくさん詰まったこの場所と両親に被害が及ばないように、俺が力を操れるようになる為に。
「ところで、春日様…………一つ疑問があるですが」
「何さね、颯真」
「俺の母さん……つまりは、ばあちゃんの娘の母さんは、どうして何も知らなかったんですか?」
一族が住む隠し里へ向かう車の中で、俺は春日様に思ったことを聞いてみた。
おかしいじゃないか。
そんな危険な一族の娘なのに、どうして妖怪のことも、呪いのことも知らないで育ったなんて。
それに、母さんは春日様の……ばあちゃんに双子の妹がいたことも知らなかったんだ。
「そうさね……それは——……」
春日様は少し困った顔して、一つ咳払いをすると、俺にだけ聞こえるように小さい声で言った。
「お前のおじいさんと、駆け落ちしたのさ。許嫁の約束をすっぽかしてね」
「え?」
「呪受者は代々、頭首となり、一族の選んだ者と婚姻をして、家を守ってきたのさね。姉様は、それをみんな私に押し付けて、いなくなった……姉様は自分が頭首になるのが嫌だったのさね」
(そういえば、ばあちゃんとじいちゃんは大恋愛の末に結婚したんだって、前に聞いたことがあったな……)
俺が生まれる前に、じいちゃんは死んでしまったから、会ったことはないけど、とてもいい男だったんだって、ばあちゃんが自慢げに言っていたのを思い出した。
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