第6話 隠し里
俺の前を歩いていた刹那が何か呪文を唱えると、ふわりと風が俺の頬を撫でる。
「ここが、隠しの里さね」
一族が妖怪から身を守る為の隠し里は、深い霧で覆われた山の中に、確かにあった。
「ここは、地図には載っていない場所さね。里の者以外は、結界の中には入ることができないからただの山にしか見えない」
隠し里というから、小さな集落がある感じなのかと思っていたが、時代劇に出てくるような、城下町のようだった。
昔ながらの日本家屋が並び、建物も、日本式で作られているようで、しばらく歩いていると本当に時代劇のセットの中にいるのではないかと錯覚していしまう。
刹那が先頭を歩き、春日様、俺の順で、里のど真ん中にある広い道を歩いた。
車は結界のある手前に駐車スペースがあって、里の中までは入ることができないようになっていた。
そもそも、地図にも乗っていないのだから、電気が通っていないらしい。
文明が開化する前に、時間が止まっているかのようだった。
しばらく歩いていると、里の人たちは俺を見て何か言っっているようだった。
ヒソヒソと噂されているのは、はっきり言って気分が悪かったが、
歓迎されているのか、それとも、呪受者なんて迷惑だと思われているのか…………
どちらにせよ、俺は注目の的だった。
見られていることが恥ずかしくて、下を向いて歩いていると、春日様はピタリと止まって言った。
「さぁ、着いたよ。ここが、お前の新しい住処さね」
顔を上げると、そこには一際大きな門があり……————
「え、と……これは、城ですか?」
「城といえば確かに元は城であったが…………皆は大屋敷と呼んでいる」
————……その大屋敷は、屋敷というには大きすぎるほど立派だった。
「こんな大きなお屋敷に……一体何人暮らしているんですか?」
「そうさね……正確な数はわからないが………ここで暮らしているのは、頭首家の人間と、陰陽師見習たちさね。お前の住んでいたところでわかりやすく言うのであれば、全寮制の学校さ。頭首家の人間は教師だと思えばいい。だいたいそれくらいの人数だ」
「が、学校?」
「ああ、昼間は普通に里の外の一般の学校へ通って、帰ってきたらここで修行があるのさね。颯真、お前もだよ」
「え?外の学校?こんな山奥に一般の学校があるんですか?」
「ないさ。一番近い学校は、里から20km以上離れている」
「じゃあ、どうやって通うんですか?」
春日様は、それがどうしたと言わんばかりの顔をして言った。
「自分の足でさね。術が使えるようになれば、すぐに着く」
(いや、無理だろ、20kmなんて……俺まだ、何もできないんだけど……————)
俺の心の声が聞こえたのか、それまで大人しくしていた刹那は、ふっと俺を嘲笑う。
「呪受者ってだけで、無能ね……————」
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