第4話 玉藻の呪い

 その昔、玉藻前たまものまえと呼ばれていた妖狐ようこという狐の妖怪が、大陸からこの地に渡ってきた。

 玉藻はとても悪い妖怪で、美しい女の姿に化けては、時の権力者をたぶらかし、悪行繰り返していたが、その妖力はあまりに強く、どんな陰陽師も、僧侶でも完全に倒すことはできなかった。

 玉藻は陰陽師達に正体を見破られ、命の危険を感じても、その体を分裂させては逃げ、分裂した体を集めては復活を繰り返していたのだ。


 そんな当時、帝から命を受け、玉藻退治に向かう我々の一族の中に、とても強い力をもった巫女がいた。

 その巫女は、玉藻にかつてないほどの傷を負わせ、これでようやく平安の時が来たと思われていたのだが、玉藻は、その巫女に呪いをかけていたのだ。



「この身滅びようと、我はお前達一族を末代まで祟る呪いをかけようぞ。巫女よ、これはお前のように特に強いものだけにかかる呪いである。己の行いを悔やむがいい」



 巫女は何が起きていたのかわらなかった。

 死に際の戯言だと思っていた。


 その言葉にこそ、呪いが掛けられていたことに気がつかず、玉藻を封じ、もう二度と復活することのないように殺生石として、封印の地に封じ込めた。



 しかし、それから三月みつきほど経った頃、巫女は子を宿していたことを知った。


 あの呪いを掛けられた時、すでに腹に子を宿していたのだ。



 そうして、生まれて来た子は、右目の瞳が赤みを帯びた赤子だった。


 赤子は巫女と同じくとても強い力を持った男児だったが、その珍しい瞳には、玉藻の力が宿っており、他の妖怪どもはその目と、その目を持った能力者の体を欲していた。

 

 その目を食べれば、玉藻と同等の力を。

 その体を食べれば、それ相応の力を得ることになるらしい。


 一族は総力をあげて、その男児を妖怪から守った。

 そして、その男児は絶大な力を持っていたため、元服後、頭首となり、頭首には息子が3人と娘が4人生まれた。

 その子供達の中に、赤い瞳を持った赤子は生まれなかった。


 一族は、玉藻が末代まで呪うと言った言葉は、嘘なのだと思った。

 だが、その頭首の末の娘が産んだ、頭首にとっては孫にあたり、巫女からすればひ孫に当たるその子がまた、赤い瞳を持った赤子だった。


 赤い瞳の赤子が生まれてくるのは、いつも決まってひと世代後か、または、赤い瞳の者が死んだ後に生まれた一族の者へと……代々その呪いは受け継がれ、妖怪たちはその者のことを呪受者じゅじゅしゃと呼び、一族は妖怪どもから追われる身となった。


 一族もただ逃げているだけではない。

 妖怪達から逃れるために色々と策を練って来きていた。

 そして、60年前、一族にまた赤い瞳の赤子が産まれた。







「————それが、私の姉様で、お前の祖母さね」




春日様の話は、普通なら信じられる話ではない。

玉藻だの妖怪だの、呪いだなんて……そんなのフィクションの世界の話だと思っていた。

現実にはない話だと思っていた。



でも、俺は今日確かに見た。


空から落ちて来たソレを。



俺の目を喰らおうとしていた、妖怪ソレを。







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