第四十八話 再戦

 「随分ずいぶんと疲れていたのね。全然起きて来ないから心配したわよ」


アオイに言われるが、体に力が入らないのだから起きるに起きられない。


「ごめん…少し気怠けだるくて起きられなかったんだけど…」


そう言って力を入れてみると何とか起き上がることが出来た。少しフラフラするが歩けない程じゃない。彼女に支えられ、階段を降りるとエルザとカインが待っていてくれた。


「おう、朝っぱらから見せつけるなよ」


「マコト…体調悪いの?」


「体調は問題ないけど、少しだるくてね。それは後で話すよ。ところでロイクさんかフローラさんを知らない?」


カインいわく、フローラさんは用事があるらしく出かけており、ロイクさんは書斎にいるらしい。フィアリスの事もあるし書斎へ向かう。その頃には自分でも歩けるくらいには体力も戻っていた。扉をノックするとロイクさんが出迎えてくれ、中に入ると途端に数ある本棚の中の1冊が光出した。


「こ…これは…」


ロイクさんや皆にフィアリスの事を説明すると、僕がその本に触れる事となった。指先が触れた程度だが本棚が上に移動し隠し扉が現れた。


「おお…こんな所に…今の今まで気がつきませんでした。さあ行きましょう」


扉の先には小さなテーブルが置かれていてその上に綺麗に並んだ本が2冊置いてあった。そして不自然に空いたスペースには、恐らく僕らが持っている本を置くのだろう。


「マコトさん」


「ええ」


本を置くと3冊全てが一瞬で1冊の本となった。その中にはマグナ家が行った精霊の降臨方法についての記載があった。ロイクさんに渡すとゆっくりと読み始め、ため息と共に僕に返してくれた。


「精霊の具現化には魔力ではなくマナと呼ばれるモノが必要なようです。以前はあったようですが今の世にはマナと呼ばれるモノが存在しないか、未発見なのでしょう。それにしてもマナについての記載がありませんね、フィアリス様の時代には当たり前にあったものなのでしょうか…」


僕もそれについてはフィアリスからは聞いていないが、具現化出来ないと言い切るのは躊躇ためらわれた。もし僕が出来るのなら、少しは役に立てるのだろうが…


一度隠し部屋を出て、アオイに聞いてみるが彼女も聞いたことがないと言う。その時、来客があったようでロイクさんは書斎を出て行った。


「マコトはフィアリスからは聞いていないの?」


「うん。ただ…今の人には出来ないと断言してたよ。僕には可能性があるようだけどマナっていうものについては何も聞いてないな」


「なら次はマナについて探すか?」



どうするかな…フィアリスの言うように共通の目的を決めた方がいいのか?それとも戦う力をつけて行ったほうがいいのか、皆に相談しようと口を開きかけたときにロイクさんが慌てて戻ってきた。



「…み…皆さんにご面会です、そ、その聖神王庁せいしんおうちょうの方々です」



その言葉に瞬時に蘇る記憶。まさか…ロイクさんを残して玄関に向かうと、やはり…



「ご無沙汰しております。エレノアと…おや?見慣れない方も。それよりも少しお話しをしても?」


「ええ。構わないわよフィア」


「ここでは…そうですね、王都内にある教会までご足労を。それと…もし来ないと判断すればこの王都が、火の海に飲み込まれると思って下さい。おどしではなく確実に実践じっせんできますので、お忘れなく」


フィアとアーシャは頭を下げ、その場を後にした。



「行くしかないようね、マコトもつらいでしょうが頼むわよ」


「うん。大丈夫、ロイクさんにも挨拶をして行こう」


本当の事を話す訳にも行かず、精霊魔法についてと言い訳をしてマグナ家を後にする。騙す様で気がひけるが…。



「罠…だと思うか?」


「どうかな?ライルの言っていたこちら側に来いって言う答えを聞く為だとも思えるけど…」


「どちらにしろ、戦闘は避けられないでしょうね」


結局共通の目的は見つけられない。でも…あちら側はどうなんだろう、世界を支配すると言う目的があるのかな?それとも別の目的があるのか、そう考えている内に約束の場所についた。教会には2人以外はおらず荘厳そうげんな雰囲気にピッタリな白いローブをまとっていて、アーシャも同様だが、武器を持っているようにも見えない。


「さて、来てやったわ。それで?ご用は?」


「少しは成長したようですね。以前のように問答無用で突っ込んでくるかと思っていましたが…あなた方には我々の拠点へ同行をお願いします。拒否をしてもいいですが、王都に住む人間が全て人質と考えていただければ、答えは決まっていますわね?勇者様」


行く以外に方法がない訳だ。だから武器も必要ないと…フィアは僕らが拒否をしないとわかるとニコリと微笑みふところから水晶を出した。


「それではご招待します。エレノア、貴女が目指した場所へ」


ライルがおこなったように、魔法陣が現れ景色が途端に変わる。辺りは薄暗く今にも雨が降りそうな空だ。目の前にあるのは巨大な城。2、3歩下がっただけでは全体感を把握出来ないほどの巨大城。



「ここは世界の西の果て。魔王城でございます、皆さま中へどうぞ」



シンッと静まり返った城内は足音だけが響いている。コソッと話そうモノなら、まる聞こえしそうだ。等間隔に灯っている光のお陰で意外と明るい。通路や扉、階段、その全てが規格外に大きく巨人でも住んでいそうな雰囲気を思わせる。飾りっ気がないがそれが逆に美術品のようにも感じた。



「お待たせしました。さあ、中へ」



しばらく歩き一際大きな扉の前に立つと、音もなく扉が開かれた。奥に見えるのは玉座だろうか、レイの姿だけでなく、ソウタやライルもひかえている。そして玉座の脇に立つローブを着た女性の赤い唇は薄暗いこの部屋で一際目立つ。フィア、アーシャの両名は玉座の一段下に立ちこちらを振り返る。



「ようこそ、魔王城へ。知っているとは思うけど僕はレイ・ハーバー。僕の配下達は知っているだろう?あ、リノは面識がないのか…リノ、ご挨拶」



「はい。主人あるじ様の元で魔法を研究しているリノ、と申します。エレノアと共に旅をした仲ではありますが、運命が全てを変えてしまいました。でも…そう…エレノアのあの…絶望に満ちた顔をもう一度見れるかと思うとゾクゾクしますね」



彼女が以前のアオイのもう1人の仲間、いまのかたき、そして復讐相手。いつ飛び出すかと心配だったが、アオイはグッと前を向き落ち着いて見える。



「これで全員紹介が終わったかな?それじゃ早速…君達にはここで死んでもらう。でもさ、それじゃ納得できないよね?だからここに居る僕の配下と戦って貰おうかな、君らが勝てば後は好きにすればいい。けど僕らが勝ったら君ら全員に僕の所有物となってもらう。生殺与奪は僕が決める。それでどうだい?」



何とも無茶苦茶な言い分だ。これが本当に勇者なのか?勇者は世界を救うんじゃないのか?これじゃまるで魔王じゃないか。



「あ、断るなら全人類を滅亡させるよ。とはいっても君らには関わりのない人が殆どだから見殺ししても誰も文句は言わないさ。死んだら文句も何もないんだけどね…あはははっ」



「「「「ふざけるな!」」」」



僕らは同時に叫んだ。一瞬お互いの顔を見合わせると全員がうなずく、短期的ではあるが僕らの目的は一つとなった。必ず勇者たちを止めて見せる、それぞれが武器を構え戦闘態勢に入る。相手が誰であろうと精一杯戦うだけだ、カイン、エルザが前で出てアオイがその後ろ、そして最後尾が僕となる。全員にそれぞれの属性の加護を付与を行う。



玉座の横に気だるそうに座っていたソウタの姿が一瞬、らめくと、途端に僕のすぐ近くまで移動し、剣を振るう。大丈夫だ、僕の加護はそう簡単に破れない…がソウタの不敵な笑いが嫌な予感を走らせる。


「マコト!避けて!その剣はダメ!」


アオイの言葉に身をかがめるが、ソウタの剣は僕の加護を易々やすやすと切り裂き、ひたいに傷を残す…


「おっと…ついつい力が入りすぎた。エレノアが言ってくれなきゃ、てめぇの脳みそをおがめたんだがな!」


どうしたんだ…精霊も感じられるし体力だって問題ない。なのに…どうして…


「マコト!その剣は反魔法剣アンチ・マジックソード…魔法の効果を打ち消す剣よ!」


「流石エレノアだ。さあ、次は外さねぇぞオサベ君よぉ!」


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