第四十六話 フィアリス再び②

「早速だけど、フィアリスの生まれ変わりが僕なの?」


「そうだね…その質問は当然か、ハッキリ言えば違う。確かに僕の力の大部分は君が受け継いでいるけれど、君は君の意思の元に行動している。若干じゃっかん僕の希望も入っているけどね。僕が行った転生の魔法というのは、当時確立されたものじゃなかった。言ってしまえば行き当たりばったりの勝負だった訳さ」


何だかホッとした。もしこれで違うと言われなかったら、きっと僕は耐えきれなかった。


「だけど、成功したとも言える。君が受け継いでいるのは事実なのだからね。こうして君と会っている僕だって本来のフィアリスじゃない。力の中にあったわずかな思念しねんそのものだから、表に出るにはそれ相応そうおうの力を使うんだ。先日の戦いで騎士君の介入かいにゅうが無かったら、こうして会える機会も無かったかもね。君には悪いけど僕としては助かったよ」


ライルが助けてくれた事か…あの時は本当にダメかと思ったけど…そう考えると不思議なものだ。アオイのかたきに助けられた事が今の僕の状況を作っているのだから。



「マグナ家が失敗したという降臨実験の事なんだけど…」



「君は自分の事より他人を気遣きづかう事が当たり前になっているんだね。僕は君の意識のはしにいるだけだから断片的な情報しかないけど、精霊の具現化は可能だよ。ただ…今の人間たちには一生掛かっても出来ないね。それが出来るのは、この世界でただ一人…精霊に認められた君だけだよ。君の恋人に言われた事をよく思い出してみると良い」



ロイクさんやフローラさんはマグナ家である事に誇りを持っていた。手助けが出来れば思っていたけど、全く関係のない僕が具現化してしまう事で…そうか、これが他人を気遣う事が当たり前って事なのか。



「よく言えば無垢むく、悪く言えば欲がなさ過ぎる。まあ、だからこそ精霊魔法が使えると言っても良いんだけどね。以前も言ったけど精霊は道具じゃないからね?忘れないでくれよ」


「そうだね。気をつけるよ。フィアリスが御伽話おとぎばなしに出てくる魔法使いなら…勇者というのは…」


フィアリスは僕の言葉を待つようにジッとこちらを見ている。


「レイなんだろ?」


「そう…もう伝承でんしょうになるくらいの長い年月が経ったけど、レイはあの時の姿のまま更に強くなっていた。一目見てわかったよ。あの時は一瞬だけだったけど表に出て魔法を使ったからね、レイも気づいたんじゃないかな?だからこそ、君は本の1いっせつからマグナ家を知り、こうなっている訳だから、本当に縁というのは不思議なものだね」


「僕らはレイに勝てるのかな?」


フィアリスは不思議そうな顔で僕を見ると、少し困った顔で笑った。


「フフッ…君は本当に面白いね。戦いというのは決まり事の応酬おうしゅうじゃない、必ずという事はあり得ないさ。僕らがレイと共に戦っていた時だって何度も危機があった。何度も死を覚悟した。でも乗り越えられた。それはどうしてだと思う?」


「フィアリス達が強かったから…」


「違うよ。僕らと君たちを比べると、強さだけなら君らの方が上だ。だけど僕らが決して君らに負けないものがある。それは何だかわかるかい?」



強さでないのなら?連携れんけい?これだって幾度いくどとなく試してきたし…


「君も薄々は勘付いているんじゃないかな?僕らにあって君らに無いもの。言ってしまえば単なる言葉なんだろうけど、これがあるのと無いのでは大きく違う」


連携や強さが足りないのであれば鍛えればいい。だけど…誰もが持っている当たり前のことが僕らには足りていなかった。


「共通の目的…だ」


「そう、その通り。僕らは魔王を倒して平和な世界を目的としていて、誰もがそう思っていた。それを信じていた。結果がどうであれ…ね。レイがどうして魔王側についたのか、他の仲間はどうしたのか、色々と疑問は尽きないけど、君たちにはそれが足りない。君は明確な目的があるのかい?彼女の役に立ちたい?復讐を止める?連れの戦士はどうだろう?幼い頃からの夢を叶えつつある彼は?亜人の子は?」



バラバラな目的では、結局は以前の繰り返しになるということか…アオイに復讐をやめさせる?そんな事僕に言える権利なんてない。なら皆で魔王を倒す?でも…



「君らに僕らの想いを受け継いでほしいとは思わない。君らには君らの道があるんだ。少なからず影響は与えてしまっているけどね?先の事は君らで決めるべきだろうし。だが少なからずレイは君達にちょっかいを出してくるだろう、だから…もし、レイと戦う道を選ぶのなら、そろそろ彼を休ませてやって欲しい。僕の願いはそれだけだ」



「レイの事…好きだった?」



「ああ、それはもう…彼を愛しているし、その気持ちはいつまでも変わらないな…」



「もし、僕らが勝ってしまったら…」



「…そうだね。レイは消えるだろうね。だがそれが救いになる事もある、気にしなくて良い…と言っても君はそう思わないだろうね。なら僕と彼の墓を作ってくれないか?気が向いた時に遊びに来てくれたら嬉しいよ」


そうだ、僕らが勝ったらレイは死んでしまう…だけど、随分と前の事に思えるが、とても衝撃を受けた事は覚えている…死者の蘇生。


「蘇生の魔法があるって聞いたけど、本当なの?」


「そこに関しては僕もうまく説明できないな。実際に体験した訳じゃないけど、蘇生の魔法を受けるには神が与えた試練って言うのに耐えなきゃならない…と聞いたことがある。その試練は常人じょうじんでは耐えきれない程の苦痛が待っているらしいよ、だから誰も受けないし、受けた事すら公表されないからね。当時はそれを管理していたのは神の信徒である教会、勇者であるレイですら受けなかったからね」


蘇生にはそれなりの苦痛が待っているという事か。それもそうか…しかしなら何故という疑問が残る。


「君が思っているように、何故だろうね。そんな苦痛を受けてまで蘇生に意義いぎがあるのかって事だろ?僕もそこが不思議なんだよね。試練で命を落とすかもしれないし、乗り越えた人に超人的な力が宿るのかといえば、レイの時代もそんな人は現れなかった。だから僕もわからないという答えしか持っていない」



フィアリスの言う通りだ。でも…アオイはその試練を受けたんじゃないのか?だからこの世界で一度死んでも蘇る事が出来た…なら試練の意味は…勇者の条件?だがレイは受けていないという。わからない事を考えても先に進まないので、僕は最後の質問をする。



「繋ぐ者(リンカー)って以前からいたの?」



驚くことにフィアリスはそれを知らなかった。



「何だい?そのリンカーというのは。聞いたことがないな」



僕はアオイから聞いた全てを話すと、フィアリスは何やら考え込んでいる様子だった。


「君の様に異世界から来る人間は、君以外には知らないな。だが実際に僕の力は異世界の君に宿っている、こうして会話することが出来ているのが何よりの証拠だ。そして君の愛する人も不思議だね、こっちで死んで異世界へ転生して、君と一緒にこっちに戻って来るなんて…待てよ、転生…蘇生…試練…神…魔法…時間…そうか、だから繋ぐ者か。上手いこと考えたじゃないか…」



何かを閃いたように、その顔は満面の笑みという言葉が正しい程だった。



「やっぱり君に僕の力が宿ったのは偶然じゃない。必然だ、そうかそうか、だから…マコト!」


いきなり呼ばれビクッと体が揺れる。


「もう少しだけ僕に時間をくれ。本当はこれで消えるつもりだったが、こんな面白い事を解決できずに消えるなんてもったいない。少しだけ君の力をもらうよ?なに少しばかり気怠けだるくなるくらいさ。いいかい?起きたら直ぐにマグナ家の書斎しょさいへ行くんだ。そうすればわかる、それじゃ」



「ちょ、アリス!…待ってよ…」



そこで目の前の風景が一気に変わった。僕はベットに仰向あおむけになっており右手を伸ばす形で目が覚めた。フィアリスの言う様に目は覚めているのだが、体中に力が入らない…結局アオイが起こしに来てくれるまで、身動き一つ出来ないままだった。

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