第四十四話 試験

あれから一晩経ち、僕らはフローラさんの記した場所へと向かう。貴族区にあるという事で街中を歩いていると向かう途中でカインがドヤ顔をする。


「な?オレが言った通りシラフじゃマグナ家とも知り合えなかった訳だ。これからも情報収集は酒場に決まりで文句ないだろ?」


文句がある訳じゃないけど…酒場に行きたいだけの気もするがカインの言う事も事実なので何も言えない。それにしても有名という割には随分と奥まった場所にある事が不思議だった。


「悪くいう訳じゃないけど、魔法使いって少し変わった方が多いのも事実だからね」


それだと僕も変わり者みたいに聞こえるんだけど…


そうこうしている内にマグナ家へ着いたみたいで、門にはフローラさんが待っていてくれた。


「皆さん、おはようございます。早速ですが中へどうぞ」


屋敷とはいえ、至る所に雑草が伸びておりまるで手が行き届いていない事がうかがえる。貴族って見栄えを大事にするんじゃなかったっけ?そんな僕らの様子を察したのかフローラさんは現状を話してくれた。


「マグナ家は高名な魔法使いを輩出はいしゅつする名門と言われたのは10年程前迄です。この屋敷を見てもご理解頂けると思います。父である現当主が王城にてある魔法実験を行いました、理論上は可能な筈だったのですが…実験は失敗。今まで培ってきたものが全てなくなりました。王城内での地位、財、そして…人も。母も使用人達も父から離れて行きました。私は…それでも父を助けたかった、ですから酒場での給仕きゅうじをしながら給金きゅうきんを稼いでいるのです…」


それだけの想いがあるから、僕がおいそれと精霊魔法が使えるなんて言った事が気に入らなかったのだろう。


「失礼だけど、その実験ってどういうものだったの?」


アオイの質問には別の場所から答えが帰ってきた。


「実験は降臨実験という。精霊魔法の究極系とされ四大元素を司る精霊を具現化し使役しえきするというものだ。フローラ、その方かね?精霊魔法と全属性適正の持ち主というのは」


「お父様…昨日話した通りマコトさんとお仲間の方々です。ですが、どうして…昨日は戯言ざれごとおっしゃられたではありませんか」


「そうだね…確かにそう言った。だがね私も魔法使いの端くれ、興味がある事には追求したくなってしまったのだよ。彼がただのホラ吹きなのかどうか…申し遅れました私はマグナ家現当主ロイク・マグナと申します」


年齢は50代くらいだろうか、非常に柔和にゅうわな表情をしている。長い白髪を後ろで束ね黒いローブをまとっている。丁寧に頭を下げてくれたが、ほうけていた僕の脇をアオイが突き、こちらも挨拶をする。


「はじめまして。僕は…いえ、私はマコトと言います。確かに突拍子もない事でしょうがご覧下さい。ご期待に添える魔法をご覧に入れます」


こちらも頭を下げ、真っ直ぐにロイクさんをみると、穏やかに笑ってくれた。


「なるほど。曇りなき視線の奥に絶対の自信がおありのようだ。フローラ、私も同席させて貰おう」


再度フローラさんの後に続き、屋敷の地下へと進んでいくとエルフに里で見た部屋に似ている場所へと案内された。


「先ずは簡単なところから始めましょうか。マコトさんは私の適正を知る事ができますか?」


フローラさんと対峙する。他の皆は僕の後ろで様子を見ている、アオイやカイン、エルザに言われた事を再度思い出す。


「わかりました。では失礼します」


手を彼女に向け集中すると、水の精霊が彼女の周りにいる。そのほかの精霊は反応がない…という事は…


「フローラさんは水属性の適正があるようですね」


「このくらいは当然…と言った感じですね。確かにその通りです…が事前に調べれば分かる事ですし…では全属性適正なら、これと同じ魔法を使って頂きます」


そういうと人型の人形を出し、詠唱えいしょうを始める。改めて見るとフィアリスが言っていた事がよく理解できる。精霊は力を貸したいが、詠唱などで協力を阻害そがいされているように見えた。


「水よ集い、まとえ、水のウォーターウィップ


右手には淡い青色の鞭が出現し、人形を切断する。凄い威力だけど…


「この魔法は中位の魔法です。貴方にはこれができますか?」


変わりの人形を用意してもらう。ここはフローラさんに気を使う場面じゃない。僕の力を見せる場面だ、遠慮はするな。一度見ればイメージがつきやすい、詠唱も言葉もいらない。目を閉じて呼吸と整え、手のひらに右拳を横にしてつけ、剣を抜くように右手を振るう。


「…っは」


ドガーーン


しまった…力を入れ過ぎたか…人形を切断した勢いは剣圧のように飛んで行き、壁に大きな斬れ跡を残す。


「す、すいません…勢いが強過ぎました」


「…マコトさん…詠唱は…」


フローラさんの声は若干震えていた。


「先に見せて頂いたので、詠唱などは必要ありません」


だが疑問が残る。確かに威力や数段上だし詠唱もいらないのであれば信用に足ると思うが、これが精霊魔法と証明できるものは何もないのだ。詠唱破棄はアオイも出来るし、となると…


「マコトさん…今の魔法ですが、精霊魔法なのですか?」


ロイクさんからの質問には明確な答えを持ち合わせていないので、返答に困ってしまう。


「そうですね…証明できるものがないのでそこは信用して頂くしかありません。アオイ…彼女も詠唱無しで魔法を放つことが出来ますし…逆に伺いますけど、これが出来たら精霊魔法と証明できるものはあるのですか?」


「確かに詠唱無しでの魔法は実例がありますし、それだけで精霊魔法とは…ですが威力を見れば格段にフローラよりも上ですから…今の段階では有能な魔法使い…と言ったところでしょうか。一つ提案があります。これが出来ればというのは私にもわかり兼ねますが…先程申し上げた降臨実験にご協力願えませんか?」


そうか、もしそれが出来れば精霊魔法と証明できるのかもしれない。


「お父様!あの実験はマグナ家が何代もの時間をかけて研究を重ねてきたものです。それを…確かに魔法の才は格段に上かと思いますが、そうだ、本…その本に書かれている魔法を使う事が出来れば…」


フローラさんからすれば、僕みたいな得体の知れない人間が関わることに抵抗を覚えるのも無理はない。だが彼女の言う様に本に載っている魔法を使えれば、それでも証明になるのなら僕に異論はない。


「ですが、本に載っている魔法の大部分は攻撃魔法です。失礼ですがこの部屋が耐えられるとは思えません。もし行うのならそれ相応の場所でお願いします」


「ちょっといいかしら、私はアオイ。彼の…パートナーです。彼の魔法には加護というものがあります。私たちの適正に合わせた加護であれば、信じられない威力や効果があります。それをって精霊魔法と認めて下さるというのは如何いかがでしょうか」


パートナー…何となく納得は行かないけどアオイの言う様に加護という手もあったか。そうしてアオイの剣、カインの槍、エルザの体に加護を付与して人形に攻撃してもらうと、やはり以前の様にそれぞれの属性に合わせた攻撃が出来た。だがそれでもマグナ家の人を納得させる結果は得られなかった。



「マコト…別にマコトが使うのが精霊魔法って認めさせる必要はないんじゃない?私たちは…なんだっけ?なんとかマグナについて聞きたいだけでしょ?」


しばらくの休憩の時エルザは若干飽き気味であるように見えた。ロイクさんとフローラさんはいったん外へ出て、この部屋には僕らだけとなっていた。


「それはそうなんだけど…」


「まぁこんだけの魔法や加護を見せたんだ。オレらの質問にも答えてくれるんじゃねぇのか?」


「アオイはどう思う?」


「え?私?そうね…エルザの言う通り精霊魔法を認めさせるのが目的じゃないし、カインの言う様にこちらの質問に答えるだけの実力は証明できたと思う。ただ…あの二人途中から、あれもこれもとやたらと注文が多くなってきたのが気になるわね、まさかとは思うけど実験に付き合わせされているだけなんじゃ…フィアリスの話しも何だか有耶無耶うやむやになった気がするわね」


そう言えば魔法使いはちょっと変わってる人がいるって聞いたけど…


「お待たせしました。次はこの魔法道具に加護と、通常の武器でもそのような効果あるのかを…」


「お父様、それよりも騎士を連れてきて、仲間以外に加護の効果があるのかを…」


アオイの予想は当たったようだ…ロイクさんは何だか嬉しそうだし、フローラさんは今朝の冷たさが嘘のように、にこやかに微笑んでいた。二人は両手に抱えきれない程の道具を持ってやって来た。

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