第四十二話 王都へ

翌日、少し早めに目が覚めた僕は準備を整え、受付前に行ってみた。すると既にカインが来ており右手を挙げて挨拶をする。


「おう、早いな。ところで昨夜はお楽しみだったようだな」


ニヤニヤと変な笑いを浮かべながら肘で突いてくる。昨夜?何かあったかな?


「別に何もないけど?カインどうしたの?」


「はぁ?いや、良いんだ。良いんだけどよ、マコトくらいの年はお盛んだからな?でもよ、一人にしぼった方が良いぞ?」


全く理解が出来ないが、良いというなら放って置こう。


「それより、アオイとエルザは見てない?」


「嬢ちゃ…いや、エルザならほれ、そっちのカウンターだ」


カインの後方にあるカウンターには確かに銀髪の女性…ってエルザ!?一瞬見間違えたけど間違いなくエルザだ。何だか昨日より少し大きくなっていないか?…そうか、それでカインが変なことを言っていたのか。


「エルザおはよう。一瞬見間違えたよ」


こちらを向きニコッと微笑むエルザはまた一段と綺麗になっていて、少しだが全体がふっくらしたように思える。今までがどちらかと言うと細すぎるくらいだったので、所謂いわゆる健康美の様なものを感じた。


遅れてきたアオイも彼女の変化に驚いていて、カインの言うお楽しみという言葉に僕を引っ張り、カインたちの死角まで連れてくる。


「ちょっと!どういう事?お楽しみって…エルザはまだ…いえ、だいぶ大人だけれども!どうなの?ちゃんと答えて」


物凄い剣幕に若干言葉を失ってしまったが、最初から説明をすれば納得をしてくれた。


「二人っきりで?おかしいわ、マコトには恋人がいたはずよね?それなのに?エルザと?ま、マコトが選ぶんだから文句はないけどね!」


機嫌を損ねてしまったアオイに謝罪や言い訳を散々行い、何とか許してもらうことは出来たのは、出発の直前だった。


何かとお世話になったリウスさんにお礼を言い、街の外へ向かう途中ライルと遭遇そうぐうしてしまった。一瞬戦闘態勢に入るが街中だと気づき最大限の警戒をするにとどまる事が出来た。だが…


「ライル!よくも再度姿を見せたわね!いいわ、そんなに戦いたいのなら今ここで!」


アオイが剣を抜こうとするのを僕が必死に止める。


「アオイ!街中だって!ほかの人にも被害が出る、一旦落ち着いて!」


「離しなさい!コイツは必ず…!」


「今は騎士団をひきいている。街に駐留ちゅうりゅうするのは至極当然、貴様らと鉢合わせる事もあるだろう。だが…周り被害を考えずに挑むというのなら…相手になろう」


剣を向けるライル、僕は今にも攻撃しそうなアオイを止めるのに必死だ。するとエルザがライルとアオイの間に入っていく。


「お前は姉さまのかたき…間違いないな?」


「そうだな。その通りだ」


「でも私やマコトを助けてもくれた。白狼族は恩には恩を、仇には仇で返す」


「お前は白狼か…それで?何が言いたい」


「剣を…貸してくれ」


ライルは幅広の剣をいとも簡単にエルザに渡す。


「白狼族の髪は白く雪の様に美しく人間の間では高値が付くと聞いた。私は混ざり者だが…これで一旦は引いてもらえないだろうか」


そう言うとライルの剣で自らの髪を短く斬り落とし、ライルにそれを渡す。あれほど長く美しい髪だったのに…


「成程。貴様…名は?」


「エルザだ」


「エルザ…覚えておこう。勇ましい戦士の目を持つ者よ。貴様の覚悟しかと受け取った。エレノア、この場はオレが引こう。して、エルザ。貴様らこれからどうするのだ?」


「王都へ行く」


ライルは少し考えて、「ついて来い」とだけ言い残し僕らに背を向けて歩き出した。


「エルザ…ごめんなさい。貴女の髪を…私は…」


「いいの。姉さま。髪は動くのに邪魔だったし、また伸びるから」


「どうする?ライルについて行くか?」


カインの言葉で僕らはすぐに決断しなければならない事に気付く。行く先を聞いてどうするんだ?レイに報告し僕たちを罠に嵌めるつもりだろうか?…いやあれだけの実力差があったんだ、罠なんて張らなくてもその気になればきっと…


「大丈夫。あの人は卑怯ひきょうな真似をする人じゃない」


エルザは何かを感じ取ったのだろうか、自信がありそうだ。エルザの後に続き僕らもライルを追うと、街の入り口に綺麗に隊列された騎士団がライルを待っていて、姿が見えると一斉に敬礼を行う。その動きは一糸乱れぬものであった。


「騎士団の面々よ、我らはこれより王都へ帰還する。期間後は速やかに所定の任務に就くこと…と言いたいところだが、其方そなたらの働きで街の被害も最小限に食い止める事が出来た。よって!王国騎士団総隊長の権限により…2日ばかりの休みを与える」


ライルの言葉が発せられ一瞬の静寂せいじゃくの後に、大きな歓声が上がった。


「「「「「オオオオオオッ!!!」」」」」


「ライル様!」「総隊長様!最高!」「一生付いて行きますよ!」


驚いた…てっきり悪人とばかり思っていたが、こんなにも人望がある人だったんだ…益々ライルという人物が判らなくなる。アオイの敵であって、騎士団の隊長で、僕らを助けてくれた…一体どれが本当のライルなんだろう。


ライルは僕らに向かうと


「騎士団は転送魔法で王都へ直接移送する。貴様らも王都へ来るのなら一緒に来るといい」


「へっ…そんなこと言って騎士団の命と引き換えにオレらをだます気なんだろ?」


カインの言う事も最もだ。もし騎士団の人たちを人質として利用されたら…


「貴様ら如きに人質など必要ない。言うなればエルザの覚悟に対する礼と思え、必要ないのならそこにいれば良い。ではな」


「皆、きっと大丈夫だよ。だから…行こう」


エルザは騎士団の最前列に並ぶ。僕らも顔を見合わせるがエルザが言うのであればと、その列に並ぶ。ライルが大きな水晶を掲げると淡い色をした魔法陣が足元に現れたかと思うと、次に瞬間には全く別の場所にいた。そこはどこかのホールのよう場所で、騎士団たちは一か所の扉に向けて出て行く。


「すっげ…これが転送魔法か…」


カインの言う通り、これだけの人数を一瞬で移動させる事が出来るなんて凄いとしか言いようがなく、これが出来るからこそヘンゼの街の異変にも対処できたのだろう。


「ここは王都にある転送魔法を行うホールだ。何をする気か知らないがせいぜい足掻くといい」


ライルはそれだけ言うと騎士団の仲間たちと共にホールを出て行った。


「取り敢えず出ようぜ。ここに居たって仕方がない、まずはマグナの家を見つけないとな」


カインを先頭に部屋を出ようとすると、何故かアオイが動こうとしない。彼女の側へ行き声を掛けた。


「どうしたの?どこか具合が悪いの?」


「いいえ。少し反省してただけ。軽率な行動でエルザの髪を失わせてしまったから…皆をどうこう言う前に私がしっかりしないと…」


「僕も反省する毎日だよ。一緒に頑張ろう…足りないところを補えるのが仲間だろ?それに…」


ここでスムーズに言えないあたり僕も成長してないな…


「ぼ…僕が側にいるから…」


彼女はプッと吹き出し、僕の背中を叩くと先に走り出した。

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