第四十話 実力差
ライルの言葉に僕ら直ぐに戦闘態勢に入った。でも…このままだと…
「今ここで戦う気ですか?街にはあなた方が救った人がいる、騎士団の方がたもです。それでもいいんですか!」
ライルは剣を地面に差しその柄の先をを両手で覆う。
「事を構える気はない。貴様が言う街にいる人間がどうなろうと知ったことではないが、今はまだその時ではない」
では本当に勧誘をする為だけに呼び出しのか?一体何を考えてるんだ。
「貴様らもいずれ判る時がくる。そうなってからでは遅いので、こうやって来たまでの事。その気が無いのであればこれ以上は時間の無駄だ」
彼は剣を抜き肩に担ぐと、僕らに背を向ける。その時アオイの剣が抜かれるのが目に入った。
「ライル!このまま帰れると思っているの?お前は必ず…」
アオイがライルに斬りかかろうとするのを必死に止める。
「ダメだ!今戦ったらきっと街にも被害が出る!辛いだろうけど今は堪えて!今この時だけは…彼が正しい!」
「⁉︎マコト…貴方…」
「エレノア!マコトの言う通りだ、今は堪えてくれ…街には…リウス達もいるんだ…」
彼女の口からギリッと言う音が聞こえた。悔しいんだろう…その気持ちは痛いほどに理解できるが街の近くで戦闘になればきっと大きな被害が出る。火災で焼け落ちた家屋も多いんだ、今以上に生活に困る人も出てきてしまう。なんとかアオイには耐えてもらわないと…
「貴様は変わっていないな、エレノア。だが全て遅いのだ…なにもかも…な」
背を向けたままライルは一度立ち止まり、そう言うと再度歩き出した。
「うーん。ライル、それは少し可愛そうじゃないか?この子らは君に復讐しようとここまで来たのだろう?」
突然頭上から声が聞こえ、一人の男性が飛び降りてきた。短い金髪はサラサラと風に靡き人懐っこそうな笑顔を僕らに向け、軽くて手を振る。緊張感漂う中、異様な雰囲気を持つ男性はゆっくりと僕らに近づいて来る。
「先ずは初めまして。僕はレイ。レイ・ハーバーだ。よろしくね?」
レイと名乗った人がそう言うと、物凄い
「
魔法で皆の
「聞いていた時より随分と成長したようだね。それにその魔法…ライル、黒髪の子がエレノア?でいいんだよね?」
「はい。その通りでございます」
「器には少し足りないけど…ちょっと試してみようか」
レイが一歩、また一歩と近づくたびに重圧が大きくなる。にこやかな笑顔を変えずにアオイの目の前に来ると肩に手を置く。魔法で軽減はしたがこれだけ近いと、効果も薄くまるで動けない。
「あんまり女の子には酷いことはしたくないんだけど…ゴメンね」
ドンッ
「ああ…きゃあああああ!」
何が起きたのかさえ分からなかった。衝撃音と共にアオイが悲鳴を上げ地面に倒されていた。
「あれ?この程度の殺気で?ちょっとライル…ホントにこの子なの?信じられないんだけど…」
「少なからず勇者と呼ばれていたことは事実です。ですが…」
「成程ね、まぁ仕方ないか。ゴメンよエレノアちゃん。ほら、もう立てるだろ?」
レイはアオイに手を差し出し、彼女の手を掴むとあっさりと立ち上がらせる。あの細腕にどれだけの力があるのだろう。土がついた場所を丁寧に払い、にっこりとほほ笑む。
「さて…と、君たちは今のままだと僕らと敵対することになる。ああ、勘違いしないで欲しいんだけど、別に人間を殺す事に
誰からも好かれるであろう笑顔を浮かべならレイは手を振り、魔法陣の中へ消えて行った。その途端僕らに、のしかかっていた重圧も感じなくなった。誰も声を出せなかった。レイがいた時と今では空気が違う、圧倒的な存在感、重くのしかかる
「これで理解できたか?我々と敵対するという事がどれ程、愚かな選択なのかを。戦うというなら慈悲は無い。それだけは覚えておけ」
ライルはそう言い残し去っていったが、僕らは誰一人その場から動くことが出来なかった。一言も話さず、ただレイが立っていた場所をただ眺めているだけだった。
「一度戻りましょうか…」
アオイの言葉で全員がヘンゼの街へと戻る、途中も口を開く余裕すらなかった。
「ちょっとカイン!どこへ行っていたの?探したのよ?…ってどうしたの貴方達…そんな生気のない顔しちゃって…」
ヘンゼの街に戻るとギルドマスターであるリウスさんがカインに声を掛けてきた。
「おう…少し…な」
「まあ…何があったかは聞かないでおいてあげる。ギルド本部へ来てもらって事情を聴きたかったんだけど、その様子じゃ無理そうね。暫く休むといいわ、宿には話がついているから…早く良くなってね」
そう言って僕らに宿の場所を教えてくれ、彼女は事後処理へと戻っていった。宿ではそれぞれに部屋が割り当てられており、僕は部屋に入るとベットに倒れこむ。眠い訳じゃない。ただあの圧倒的な実力の前に次の行動が出来ないでいた。
ゴロゴロと寝返りをしても、何もする気が起きない。そんな時棚に一冊の本が置いてあるのに気付いた。なんの気なしに本を手に取るとそこには
「勇者伝説:最終章」
と書かれていた。ページをめくっていくと、どうやら何度か聞いたことのある勇者の物語であった。読み進めていくと、勇者たちを幾度となく襲う魔王の攻撃に仲間の魔法使いが唱えた魔法が…
「
⁉僕が使った魔法と同じ…何度か前後の文を読んでみるが、僕らとは状況が違い過ぎる。ぼくはこの本を読んだことがない、知っているはずがない、ならどうして…一瞬だけど僕が使った魔法でレイは驚いたようだった…まさか…そう考えると今までの無気力さが嘘のように、力が入る。急ぎ部屋を飛び出しアオイの部屋をノックする。
「アオイ!アオイ!いるなら出て来てくれないか?」
中からの返事は無かったが、ゆっくりと戸が開いた。
「マコト?他の方に迷惑よ?もう少しノックは…」
顔色が酷く悪い。きっと僕だって数分前は同じだったのだ、だけど今は…
「アオイ、君が知っている勇者の伝説を教えてくれないか?御伽話でも何でもいいんだ、とにかく頼めるかい?」
「どうしたの?急に、伝説なんて今は…」
確かにその通りなんだけど、何とか彼女に正気に戻ってもらわないと話が進まない…だけどどうやって…何か別の…一瞬頭をよぎる方法があった。こんな時に…とも思ったが、彼女の肩を掴みそのまま抱き寄せると、唇を奪った。
「⁉な…な…なにするのよ!」
パンッ
甲高い音と共に頬が痛む。…というか僕らは恋人同士なんだし、いいじゃないか…だがお陰で少しはアオイの顔色が変わったように思えた。
「いたた…いきなりゴメン…だけどどうしても聞きたい事があるんだ。アオイ、勇者の伝説でも御伽話でもいい、知っていることがあれば教えてくれないか」
「勇者の…伝説?貴方の事だから何かあるんでしょうけど…取り敢えず入って」
痛む頬を押さえながら彼女の部屋へと入る。というか、いつ以来かな彼女とこうして二人で話すのは…
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