第三十八話 フィアリス・マグナ
ゆっくりと目を開けると、そこは真っ白い空間で何もなかった。上下左右も判らず僕は前に歩いているのかさえ不明な空間。それでも足を進めると、突然目の前にオリジンが姿を現した。その姿を見て僕はどうしようもない程怒りが込み上げてきた。
「オリジン!どうして!魔法が使えなかった!精霊も応えてくれなかった!どうしてなんだ!」
オリジンの目は優しくそれでいて
「どうして…何も言ってくれないんだ…」
「ん…おかしいな…ちょっと待ってくれ。こうかな?」
男性とも女性とも取れない声が聞こえるとオリジンの体が崩れ、姿は
「うーん…これが限界かな?まぁいいか。初めまして、僕の名前は…フィアリス・マグナ。長いからアリスって呼んでくれいいよ」
「は…はぁ…では…アリスさんあなたは一体…」
「なんていえば伝わるかな?君の先祖?じゃないし…まぁそれは大した問題じゃないよ」
そうかな?十分問題だと思うけど…
「早速だけど君は魔法を使えなかった、精霊にも応えて貰えなかった…違うかい?」
「そうです!そのおかげで僕は、もう少しで大切な人を…」
「君は大きな勘違いをしている。いいかい?精霊は君の道具じゃない、オリジンには会っただろ?その時に言われなかった?精霊は君の想いに応えると、君の想いは何処にある?怒りに任せた行動に想いは通じるのか?まぁ言ってしまえば怒りも純粋な想いであることは間違いないけどね」
「ならなんで!」
「僕がそうしたのさ。君はまだ未完成なんだよ、怒りにませて力を使えば後悔しか残らない。君にはそうなってほくないんだよ、僕はそれを痛いほど理解しているからね」
そんな…もしライルが助けてくれなかったら僕らは…いやエルザがどうなっていたか。アオイの
「もし彼が助けに入らなかったら、僕が出るつもりでは居たんだけど…君が納得しようがしまいが、これだけは覚えていてくれ。精霊魔法は世界を変える事すらできてしまう、言っていたろ?オリジンは精霊の王にして世界の創造主と。なら僕が言いたい事はわかるよね?」
「怒りに任せて精霊魔法を使えば…世界すら破壊してしまう…」
ノイズだらけで表情はわからないけど、笑ってくれた気がした。
「さっすが!やっぱり君でよかったよ。ならご
アリスは軽く咳払いをし話し始めた。
「…と言っても、そこまで気づいた君なら判るとは思うんだけどね、まぁいいか。精霊魔法は
なら僕がやっていた事は無駄な手順を踏んでいたって事?いや、これはアオイが教えてくれた事だし…
「なるほど、君がこだわる理由はそこか。なんというか…オリジンが言ってた事が理解できるよ」
この人、僕の考えが…
「当たり前だろ?ここは君の精神世界、思ってる事は丸わかりだよ。どこまでも
聞きたい事は沢山あるが、いきなりとなると言葉が出てこない。
「アリスさんは一体誰なんですか?どうして僕の精神世界に?」
「うーん。これは少し難しいな。さっきも言ったけど余り重要じゃない事だしね。しいて言うなら…愛する人を守れなかっ
「お詫び?僕はあなたと会った事がありません、それなのにお詫びは変じゃないですか?」
「はっはっはっは、君は細かいね。確かに会った事はないけど…君が持ってる力の…元の持ち主さ。それじゃ本当にそろそろ消えるとするかな。何度も言うけど、君はまだまだ発展途上だ。もっと強くなれる。技術だけじゃなく心もね。願わくば君の行く道が僕と同じにならない事を願うよ、さあ目を開けて。君を心配する仲間のところに帰りなさい」
アリスさんが徐々に遠くなってゆく。一瞬だけノイズがなくなりその姿がハッキリとし小柄な女性の姿が見えたかと思うと、僕は目を覚ます。ここは…見慣れない部屋…そして両脇には寝息を立てているアオイとエルザがいた。二人とも怪我をしているようで巻かれた包帯が痛々しい。…それもこれも全て僕のせいだ。
「ごめんね。頼りなくて、弱くて、僕は…うっうっ…」
涙が出てくる、アオイに言われたことも守れずに、エルザの疲労度も考えないで…目が覚めたら皆にキチンと謝ろう。そして…出来る事なら…
カチャリと音がしてドアが開くと、カインさんが飲み物をもってやってきた。
「マコトは目を覚ましたか…ってマコト!良かった…心配させやがって…なかなか目を覚まさねぇから…クソッ泣いて…ねぇぞ?おら!起きろ!王子様のお目覚めだぞ!」
その言葉に二人が勢いよく起き上がり、僕を見るなり涙を浮かべながら抱きしめてくれた。
「マコト!良かった。もう…心配ばっかりさせて…でも、本当に良かった」
「マコト!私のせいで怪我をさせてゴメンね。もっと私が強かったらゴメンね、ゴメンね…」
皆からあの後の事について聞くと、騎士団の
「ご心配をおかけしましたが、もう…大丈夫…痛ッ」
起き上がろうとすると腕や足に力が入らず代わりに激痛が襲ってくる。
「無理しないで…私たちは治癒の魔法である程度は治ったけど…マコトには…その…」
「アオイ、大丈夫だよ。多分だけど魔法の効果が出なかったんじゃない?」
「おま…知ってたのか?」
再度横になると皆が心配そうに覗き込んでくる。
「知ってはいないですけど…そんな気がしただけです」
「ゴメンね、マコト…私がもっと…」
エルザは涙を
「違うよエルザ。君の事を考えられなかった僕がいけないんだ。君が謝る必要なんてどこにもない。そしてアオイ、カインさん、僕は…」
続きはカインさんによって
「待て、それ以上言うならオレをカインと呼べ。お前は仲間だ。年齢なんて関係ねぇ、オレが許す。いいか?オレが許したんだ、普通に話せ、いいな?」
「わかった。改めて、アオイ、エルザ…カイン。僕はきっとこれからもみんなに迷惑をかけると思う。だけど…僕は…うっうう…」
涙が止まらない。だけど言わなければ、皆も僕の言葉を待つように何も言わずこちらを見ている。
「僕は…皆の仲間でいたい…だから…もう一度…僕にチャンスをください!お願いします!」
暫くの沈黙の後、皆が一斉に笑い出す。
「おう!何度でも助けてやる、何度でも叱ってやる、仲間だからな!」
「もちろんだよ。私ももっと強くなる。マコトの為に…私の大切なご主人様」
「そう、そうやって心を開いて。マコトの心を聞かせて?最初にも言ったけど私は決して貴方を離さない。私たちは恋人同士なんだから遠慮はいらないわよ」
ただの偶然かもしれない、それでもいい。気まぐれだったのかもしれない、それでも構わない。少しだけなのかもしれないけれど、僕らは
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