第三十七話 燃える街

ヘンゼの街では消火活動、避難ひなん誘導、モンスター討伐とやるべき事が多すぎて非常に混乱している。僕たちはひとまず避難誘導をしている女性に声をかけた。


「おい!オレたちは旅のモンだが何が起きた?協力できる事があったら言ってくれ!」


「何が起きたかなんてこっちが聞きたい…わ…ってカイン?」


「お前…リウスか?っと再会を懐かしんでる場合じゃないな。オレたちにできる事があれば言ってくれ。色々聞きたい事もあるだろうが、後回しだ、いいな」


「そうね、なら街にはモンスターもいる。そっちの討伐とうばつをお願い。避難誘導は衛兵えいへいが、消火活動はギルドが請け負っているから」


「いいねえ…その人使いの荒さは昔と変わってねえな。依頼料は高いからな!覚悟しとけ」


僕らはそのまま街へ入り、至る所にいるモンスターを討伐して回る。僕を背負ったままだと動きも鈍くなるだろうからとエルザに下ろしてもらうと、疲労感は抜けないが立てないほどじゃない。


「マコト!魔法でなんとかならねえのかよ」


カインさんは言ってくるが、威力が強すぎるから魔法をはなてば倒壊とうかいする家屋かおくも出てくる。…どうする…考えろ、そうか、一箇所にまとめるからいけないんだ。分散させれば…


「精霊よ…頼む。スプラッシュ…レイン」


上空に向けて放つ水を四散しさんさせれば雨のように降り注がせる事ができたが、火の勢いが強すぎて消火にも役に立たない。一気に火を消すのなら、やはり…


「ダメです!火の勢いが強すぎて追いつきません」


「消火はギルドに任せて私たちはモンスターを倒して行こう。それが出来ればみんなで協力して消火ができる」


アオイの判断で再度モンスターを倒して回ると、広場に出た。そこには身長の高い男性が立っている。


「おい!アンタさっさと避難しろ。この道を行けば安全に外に出られる。外には避難した人が大勢いるからきっとアンタの家族も…」


近づいて声をかけると、様子がおかしい。カインさんも大柄な人だがそれ以上に大きい。


「クックック…何故避難を?この街を襲った本人が避難しては倒壊する芸術が見れないでは有りませんか」


男性は更に大声で笑うと、背中から羽を出し瞳は赤く、手や足からは鋭利えいりな爪が姿を表す。


吾輩わがはいはストフ、偉大なる魔王様に仕えし悪魔。御覧なさい。火の燃え上がる様子を。聞きなさい人々の悲鳴を。死の瞬間こそ人の命は輝くのです。さあ、もっともっと燃え上がれ!あーっはっはっはっは」


「ッチ…なら、てめぇをさっさと倒してやるよ!おりゃああああ!」


「カイン!マコト、お願い」


アオイの言葉にカインさんに加護かごを与える。


「エルザ、マコトをお願い。私も行くわ」


「姉さま、気をつけて」


アオイにも加護を与えて周囲の警戒を行うと、様々なモンスターが広場に集まってくる。魔王の配下と言っているならそう簡単に倒せない。ならば周囲のモンスターは僕とエルザでなんとかしないと。


「エルザ、僕が魔法で動きを止めるから、後は頼めるかい?」


「うん…大丈夫」


「アオイ!周囲は任せてもらうよ…落ちろ招雷しょうらい…散」


魔法と同時にエルザが群れに突っ込むと、アオイの言葉が遅れて届く


「マコト!待って!」


待てと言われてももう魔法は放たれ、数々のモンスターの動きは止まったが…何故?という疑問が消えない。


「マコト!エルザはあれだけの速度で走ったのよ!今動かしたら…きゃあっ」


「おやおや、そちらの魔法使い君は仲間の様子も見えていない様子…ああ、奴隷どれいですか。随分ずいぶん酷使こくしされる主人ですな」


そうか、僕はなんて事を…


「エルザ、戻ってくれ!」


戦闘中では僕の声は彼女に届かない。ならどうすればいいんだ…ここでさらに魔法を使えばエルザにも被害が出る、接近戦じゃ僕は役に立てない…あれ?こんな時はどうしたらいいんだっけ?…ダメだ上手く考えがまとまらない…


「マコト!一旦冷静になれ!嬢ちゃんはきっと…うおっと」


「お二人とも、よそ見をしていて吾輩に勝てますかな?しかし思いもよらない悲劇に出くわしましたな。体力の少ない奴隷を突撃させ、その対処も出来ない主人。さぁ哀れな奴隷の女性の生死は如何いかに!最悪ステキな結末を期待しておりますよ、魔法使い君」


「てめぇは黙ってろ!」


カインさんたちの戦いしか目に入ってこない、ダメだ…何を優先するんだ?敵を倒す事?エルザの安否?でも…


「きゃあっ!」


悪魔の攻撃でアオイがすぐ近くまで吹き飛ばされてくる。


「マコト!しっかりなさい!今はエルザの安否あんぴを最優先に考えなさい。こっちはカインと二人で何とかするから」


「でも…僕は…」


アオイはグッと唇をかむ



パンッ!



頬が異常に痛い…え?…アオイ…


「しっかりしなさい!こんなところで立ち止まってどうするの?今のあなたに出来る事はエルザを守る事でしょ!頑張りなさい全力で守ってきなさい!泣くのはそれが終わってからよ!」


モヤモヤしていた頭の中が少しづつスッキリしていく、そんな僕の顔をみてアオイは優しく微笑んでくれた。


「そう、その目よ。あなたを信じているからね」


僕は頷くと、アオイもまた頷き戦いへ戻っていく。そうだ、僕に出来る事をするんだ、エルザ待っていてくれ。未だ体力は戻らないがそれでも、風の加護を使い急ぎモンスターの群れへと向かっていく。



群れは円形となった中央を見ており誰かのうめき声が聞こえてきた。嫌だ…聞きたくない…群れをかき分けるように進んでいく。群れの熱気は僕など視界に入らない程高まっていた。どいてくれ、その先には…どいてくれ…どいてくれ


「どけぇえええええ!」


火の加護を使い無理やりに抜けると、そこには銀髪を赤く染め、衣服がズタズタに切り裂かれて倒れているエルザがいた。う…そ…だ…あんなに強いエルザが…何故?僕のせい?僕が戦えと言ったから?


「エルザ!エルザ!ゴメン、ごめんなさい。僕が…僕のせいで…」


「…マ…コト…ごめん…ちょっと失敗…しちゃ…た」


「今は助ける、回復を、だから…」



「「「「グオオオオオオオッ」」」」


モンスターたちが再度僕らに向かってくる。どうする?エルザを助けなきゃ、戦わなきゃ。エルザをこんなに痛めつけたヤツは誰だ?許さない…絶対に…


「殺す!炎よ…」


魔法が出ない?なら


「風よ!…」


沈黙…


「落ちろ!招雷!」


何でだよ!何で魔法が出ないんだ!なら少しでもエルザに回復を…魔力の流れを…これでは発動までが遅すぎる。道具屋でやったみたいに誰もが待ってくれる訳じゃない…だから…



「グハッ、ゴフッ」



エルザをかばう様にしておおいかぶさる事しか出来ない。何で魔法が出ないんだ、何で精霊は応えてくれないんだ、ならもういい!せめてエルザだけは助けないと…


「マ…コト…逃げ…て。わた…しは大丈…夫…だから」


「嫌だ…君を守る…んだ…魔法がなくたって…絶対…」


何処かが切れたのが視界が赤く目も腫れ視界が狭い。両脚は全く動かない…両手でってエルザに再度覆いかぶさる。


群れの中でも特に大きなモンスターが両腕を組み振り上げる。…せめて、エルザは…



ズンッ!



何が起きたんだ。衝撃は来ず、誰かが僕らの前に立っている。赤い…マントをなびかせモンスターの腕を幅広の剣で受け止めていた。



「まだ生きてるな?これをくれてやる」



その人は僕らに向かって淡い緑色をした液体を振りかける。痛みが徐々に引いていき視界も元に戻る。


「ありがとうございます。あなたは…」



「我が名はライル、ライル・バリモア。貴様がよく知っているエレノアの…かたきだ」



アオイを殺したという勇者パーティーの一人…そんな人が何故僕らを助けてくれるんだ?


しばらく眠っていろ。直ぐに終わる。…王国騎士団よ!突貫とっかん!モンスターを蹂躙じゅうりんせよ!」



「「「「「オオオオオオオオオ!」」」」」


多くの人の咆哮ほうこうが聞こえる。僕が目を伏せる寸前にライルが僕にささやく。



「悔しいか?強くありたいか?貴様にその気があるのなら、オレが導いてやろう。この場所に来い。エレノアに言おうが貴様の好きにすればいい」



そう言うと僕の手に紙切れを握らせる。そして僕は意識を失った。


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