第三十六話 連携
これは夢だ。それは理解できる、夢の中で夢とわかる事を何と言ったかな?思い出せないが、それでも夢は続いていく。目の前にいる男性が何かを言っているが聞こえない。だが夢の中で僕として登場している人はとても悲しい気持ちになったのがわかった。そして夢の中の僕は、何かを決断したように魔法陣を仕上げていきその中心に立ちこう言った。
「必ずとめる、それはきっと私じゃない私が。ごめんね。そして今までありがとう…」
ゆっくりと目を開けると、何か夢を見ていたような気もするが全く思い出せない。でも何故かすごく悲しい気分になっていた事だけは覚えている。
「お?お目覚めか?起きて支度をしたらヘンゼへ向けて出発だぞ」
「はい。わかりました」
顔を洗い身支度を済ませ宿の受付へ行くと、すでにアオイたちは準備を完了していた。その隣にいる美人は誰だろう…
「おはよう、マコト。昨夜は大変だったわね、体調は平気?」
「ああ、大丈夫…って何かあったっけ?」
夢でのことしか覚えていない。昨夜はみんなで酒場に行って、それから…そうだ!エルザが!
「今思い出した…ならそっちの人がエルザ?」
「やっと気づいた!マコトおはよう。
「しかし、亜人だからなのか白狼族だからなのかは判らねぇが、大きくなったもんだ。エレノア…油断すんなよ?」
「うっさい!黙れバカカイン!」
何の油断だが知らないけれど、カインさんの言う通り色々と大きくなっていて服がピッチピチだ。ヘンゼはそれなりの規模らしいからそこで整うまではエルザの戦闘は控えてもらうしかないな。
「そうだ、お客さん
宛名は…エルザ?中身を見てみると薄い藍色のローブだろうか、早速着てもらうとゆったりとはしているがとても動きやすそうだ。袖口や足周りなんかは接近戦でも邪魔にならないような細工がしてあった。
「でも…どうして」
その答えは一緒に入っていた手紙に書いてあった。
ジャンカルロさんは奥さんが自分の為に何かをしていた事は知ってはいたが、防具作りとまでは知らずエルザの一言で気がついたようだ。お礼の意味も込めて仕立ててくれたらしい。急激な成長にも耐えられるように胸周りにも気を回して貰っていて、僕らは早速お礼に向かう。
「あら?防具屋…なくなってるわ」
村の人に聞いても誰も知らず、お礼を言うことができなかった。
「それだけ立派な仕事をする職人だ。きっと会えるさ。礼はその時言おうな」
カインさんの言葉で僕らはヘンゼの街へと旅を進めた。
戦闘でのエルザの活躍は留まるところを知らず、防具の効果もあって加護を
「エルザ」
「うん」
この二言だけでほぼ終わってしまう。僕らがやるのは残党処理だけ、
「次はオレにも戦わせてくれよ、マコトや嬢ちゃんが凄いのはよく判ったから、たまにはオレにも…な?」
「カインの意見に賛成。…って私はカイン程じゃないけどパーティーで戦うのなら
確かに言われてみればその通りだ。この先もう一度ソウタと戦う事があるのなら、きっと連携は必要になってくる。
「そうだね。でもそうなると、カインさんとエルザは前衛、僕は後衛、アオイは?」
アオイなら前衛や後衛も出来るだろうし、というか指揮をする人が必要じゃないか。いやそれはアオイ…なんだよな。
「私は中央で、マコトを守らないと」
「姉さま、それは私が」
「エルザは前衛で敵を押えておかないと、それがマコトを守る事にも
非常に嬉しいことではあるんだけど、この話題になると話が進まないんだよな…
「取り敢えず指揮する人を決めましょうよ。僕はアオイが良いと思うんですけど」
「オレもエレノアで文句はねぇよ、それが夢だったからな」
「…姉さまが指示をするなら…私もそれでいい」
全員の意見もあってアオイが指示を出し僕らがそれに従う方向で何とか
「アオイ、敵だよ。左前方、数は5」
「オッケー。今度はカインをメインに戦うわ。エルザはカインを抜けた敵を攻撃。カイン、思いっきり暴れてらっしゃい」
「はい。姉さま」
「おう、任せとけ」
そうして見えたモンスターは大きな2足歩行の熊の群れ。カインさんは槍を構えると徐々に距離を詰めていき射程圏内に入ったかと思うと槍を払う。
「まず1!」
水を得た魚の如く生き生きと姿で戦う。だがその隙をついた一匹がこちらに向かってくる。
「カイン!抜けたわ、しっかりなさい!エルザ、お願い」
向かってくるモンスターが横に吹き飛ばされる。エルザは武器を持って戦うよりも武闘家の様に自らの体で戦っている。その一撃一撃は重いようで攻撃当たるたびにモンスターがよろめき、ついには力尽きて倒れて行った。
魔石を回収し、そのまま進むと何度目かの戦闘に入った。アオイの的確な指示、カインさん、エルザの実力もあり、連携もスムーズになっていった。僕はあまり役に立っていないけど、戦闘での一体感のようなものを感じる事が出来た。勇者と呼ばれたアオイのパーティーもこの様に戦っていたのだろうか…
「だいぶ連携も出来てきたわね。でも、カイン。もう少し注意を払ってね?何度か槍がエルザに当たりそうになったわよ」
「お…おう。すまないな嬢ちゃん」
「平気、避けるのは簡単だから」
「それだと、オレの槍捌きが否定される気がするんだが…ま、これはオレの問題か」
国境を越え、戦闘を重ねながらヘンゼの街を目指す。そうして翌日には街へ着くだろうと言った距離まで来て一旦野営の準備をし始める。その時だった。精霊が大きく騒ぎ出す、今までに無いような感じだ。エルザを見ると、彼女も何かを感じたようで耳をぴくぴくと動かしていた。
「アオイ、何かが起きたみたいだ。精霊の様子がおかしい、エルザ何かわかるかい?」
「こっちの方向、ごめんなさい…遠くてよく判らないけど…」
エルザの指さす方向はヘンゼの街じゃないのか?
「カインさん、この方向は…」
「ああ、ヘンゼの街の方向だ、だが、どうする?」
全員の視線がアオイに集まる。
「マコト、風の加護を私たちに。多少無理をさせてしまう知れないけど急ぎましょう」
「わかった。任せて…精霊よ、力を貸してくれ。僕らに加護を…疾風」
僕らは一斉に駆け出す。地力の違いか同じ加護でもエルザの速度が圧倒的に速い。
「エルザ、悪いけど様子を見てくれないか?必ず戻ってきてね」
「うん。任せて」
正に疾風というべきスピードで、あっという間に彼女の姿が見えなくなった。
「カインさん、ヘンゼまではどのくらいの距離があるんですか?」
「歩けば1日程度だが、この速度で移動を続けられれば日が昇る前には…と言ったとこだ」
つまりまだまだ距離があるって事か。走る速度よりも速く移動をすれば、当然疲れも出てくる。加護を受けても元の体力が変わる訳じゃない。ふらついた足を引っかけ僕は盛大に転んでしまう。
「おい、大丈夫か?」
「マコト、平気?」
「はぁっはぁっ…うん…なんとか、ゴメンいつも足をひぱって」
心臓の鼓動が激しい、呼吸がうまくできない…
「お待たせ!様子を見てきたけど、街が燃えてた。それにモンスターも何体もいたよ!」
息も切らさずこの短時間で良く往復できたものだ。だがエルザの話を聞くと休んでも居られない、急がなくては…何とか立ち上がろうとするが、足に全く力が入らない。
「僕はあとで行きますから、早く行ってあげてください。手遅れになる前に!」
「マコト、立てないの?ならこうすれば…よっと」
エルザは僕を背負い、そのまま再度駆け出す。彼女は走ると言うより片足で踏切り着地までの一歩が大きい。これもエルザが持つ脚力の成せる業か。
「ありがとう…ごめんね足を引っ張って」
「ううん。マコトももっと私を頼ってね、きっと役に立って見せるから」
エルザは十分すぎるほど助けになってくれている。僕ももっと頑張らないと…そうして夜空を赤く照らす炎が見えてきた。やはり火事か…アオイたちを待ち合流すると再度街へ向かって駆け出した。
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