第三十三話 それぞれの休日①

マコト・カインside


宿の部屋に一旦入ると、簡素ではあるが寝台や机回りも綺麗に整頓されており清潔感がある。普段は野宿が多いから、こういう清潔感のある宿は冒険者にも人気が高いという。


「荷物を置いたら、道具周りをそろえに行こうか。エレノアたちは嬢ちゃんの防具を見ると言っていたしオレたちでその辺りを担当するか」


「そうですね。武器や防具はこのままで良いんですか?だいぶ使っていますが…」


決して武器屋を覗きたいという訳ではないが…


「オレやマコトが使っているのは、それなりに良い品だ。勿論もちろん買える品ではあるがな。通常武器は木、銅、鉄なんかを加工するからどんな場所でも買える。だが魔法金属ミスリルを始め効果が高い鉱石は、やはりそれなりの金額や加工が盛んな場所じゃないと手に入らない、見ても構わないが買い替える必要はないな」


取り敢えずは外に出て道具屋を探す。村は大きくないが、ひと通りの商店があり道具屋で携帯できる食料を購入する。


「そう言えば薬草などは必要ないんですか?こっちの薬は解毒効果もありますよ?」


「お前なぁ…自分の職業をわかってんのか?マコトがいればそういうのは必要ないだろ?」


「え?僕は魔法使いですよ?そういう魔法は聖職者さんが使うのが普通なんじゃ…」


そんなに変なことを言ったのだろうか?カインさんは口をあんぐりと開けて、信じられないようなものを見る顔で僕を見ている。


「エレノアから何も聞いてないのか?お前さんは天才なのか世間知らずなのか…時々わからなくなってくるなぁ。いいか?聖職者や神官が使うのは主に支援魔法だ。力を向上させたり、魔法防御を高めたりとその魔法は非常に多岐にわたるもんだ。当然回復なんかもそうなんだが、お前さんは一人でそれが出来るだろ?」


確かに加護は支援魔法と言ってもいいかもしれないが、僕は回復魔法なんて使ったこともないし…


「加護はそうなのかもしれませんが…回復魔法なんて使えませんよ?」


「お前は使えないんじゃなくて、知らないだけだ。知ってしまえば使えるようになるさ。まあ今のメンバーじゃ使う暇がないけどな」


知らないだけ…魔法を使うイメージは一緒で良いのだろうか?傷がふさがるようなイメージとか?どうもピンと来ないな。だが使えるのならばそれに越したことはない。ソウタとの戦いだって使えていればもっと違った結果だったのかも知れない。


「あの…恐れ入りますが、お客様は魔法使い様でいらっしゃいますか?」


カインさんとの会話が聞こえていたのだろうか、道具屋の店主さんが話しかけてきた。


「オレじゃなくて、コイツがな。だが魔法使いなんてそこまで珍しくないだろ?何の用だ?」


「いえいえ。この村に来る冒険者もいますが魔法使いがいるのは珍しいので…つい…それで一つお願いがありまして、お受け頂けるのであればそれ相応そうおうの礼はしますので、どうかお話だけでも」


「良いですよ。僕に出来る事であれば」


「おい!そう簡単に決めるな」


「何故ですか?困っているのであれば力になるのは当然じゃないですか?」


カインさんは大きく息をはきながら、「仕方ねぇな」と頭をきながら店主さんの話を一緒に聞いてくれた。何だかんだ言いながら面倒見が良い人だ。



店主さんの話を聞くと、お子さんが数日前に村に入り込んだモンスターと戦っときに腕を折られたらしい。そのせいか昨日から高熱が出てしまっているようで、道具屋にある薬では痛み止めがやっとで医者に見せるにもここから一番近い医者がいる場所までは、それなり遠いようだ。


「お話はわかりました。ですが、先程も話していたことですが僕は回復系の魔法を使ったことが無いのです。また、使えたとしてもどのような結果になるかも知れないので…残念ですがお力にはなれそうにありません」


僕がそう言い、頭を下げるとカインさんは僕の肩を叩き、店主さんに耳打ちを始めた。店主さんは一旦驚いた表情をするが、すぐにカインさんに頭を下げた。


「よっしゃ、じゃ行くか。魔法使い殿」


「行くってどこへですか?」


「決まってんだろ?その子供のトコだよ」


「話聞いてました?僕は…」


「いいから黙ってついて来いって、教えてやるよ、回復魔法を」


そう言われカインさんについて行くと店の裏側に店主さんの自宅があり、そこの一室に左腕に包帯を巻き苦しそうにうなされている男性が眠っていた。どうやら彼が店主さんのお子さんなのだろう。


「カインさん…回復魔法使えるんですか?」


「はあ?使える訳ないだろ?オレが教えるのはやり方だけだよ、実際にやんのはお前だ。良いから横に座れ」


とお子さんの横に座らせられると、お子さんの包帯を取る。確かに異様にれているのはわかる。


「いいか?先ずはゆっくりと魔力を相手の体に流し入れるイメージを持て。そうすれば何処かに異常があるのがわかるはずだ。やってみろ」


納得は出来ないが力になれればと言ったのは僕自身だし、カインさんの言われるがまま魔力を体に流し入れるように彼の体を覆っていくと、確かに左腕だけ魔力の流れが異常なのがわかる。


「わかったな?なら次だ。こいつの場合は右腕が正常なはずだから、それと同じようにゆっくりと流れを正していけ。いいか?ゆっくりだぞ?いきなりやるとショックで痛むどころじゃねぇからな。あせるな、マコトならできるさ」


初めて実施じっしするのにそんな恐ろしいことを言わないで欲しい。少しづつ魔力の流れを正常に戻していくとだんだんとれが引いていき、ついには全身の流れが正常に戻ったことがわかった。


「これで折れた腕は、元に戻ったはずだ。おい、聞こえるか?腕に痛みは無いはずだ。動かしてみろ」


うなされていたはずの彼は、いつの間にか起きており、ゆっくりと左腕を動かすと痛みも無くなったようで自然に動かせていた。初めてだったがどうやら上手くいったようだ。



散々お礼を言われ道具屋を後にする。少しでも人の役に立てたのならこれほど嬉しいことは無い。カインさんも嬉しそうだ。言い方や言葉使いは乱暴に聞こえるが、やはり優しい人なのだろう。



「カインさん、ありがとうございました。でもどうして回復魔法の使い方を知っていたんですか?使い方を知っているならカインさんでも出来るでしょうし…それに道具屋のご主人と何を話していたんですか?」


「ん?いいか?やり方を知っているのと実際に使うのは大きく違うんだ。アドバイスだけで出来ちまうのはマコトにそれだけの力があるからなんだよ。お前はそういうつもりじゃないのはよく知ってるし、そんな気が無いのも知ってる。でもな?自分に出来る事が他人にも出来るなんて、そうそう言うもんじゃねぇ。出来るのが当たり前なんじゃねぇ、出来ない事の方が多いんだ。無自覚な侮辱ぶじょくは敵を作るぞ?」



そうか…言われてみればその通りだ。自分が優れてるなんて思った事は無いけど…僕の力はそれほど大きいんだ。どこかでおごっていたのかもしれないな。



「言ってくれてありがとうございました。今の言葉…本当に嬉しかったです」


カインさんは「おう」とだけ言い、僕らは宿へ戻っていく道中、カインさんがニヤっと笑う。



「それにしてもマコトがいて助かったぜ、この道具類普通に買えば金貨2枚ってとこだが、マコトの治療のお陰で半額以下になった。儲けモンだな」


「はい?どういう事ですか?」


「道具屋の主人に言ったんだよ。マコトは初めての回復魔法を使う、通常医者に見せれる費用、そこに行く費用、帰ってくる費用と金額だけで考えても金貨10枚は掛かる。そこで、回復魔法はタダで良いから道具類を半額にしろって言ったんだよ。いや~マコト様様だな。わっははははは!」



少しでも感動した僕がバカなんだろうか…けど、こんな風に言って気を使っているんだっていう事くらいはわかっている。僕もいつかはこんな風に人に教えられる男になりたいと、そう強く思えた。

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