第三十二話 反則級の能力

エルザの能力に僕らは声が出なかった。あれから先に進んでいくとモンスターとの戦闘になったが全てエルザの力によってあっという間に終わってしまったからだ。特質すべき点は察知さっち能力の高さだ。精霊を使って感知する僕とほぼ同じタイミングで敵を見つける事が出来た。


アオイの話によると亜人は魔法が使えない代わりに異常な身体能力を得ているという。あの細腕からは想像が出来ない程の怪力、スラッと伸びた足からは正に目にもとまらぬ速さを出す。本当に魔法を使っていないようで、能力強化魔法が使えるカインさんでもあの速さ出せないという。



「エルザ、気を悪くしたらゴメンね。亜人ってそんなに強いの?」


休憩中に思い切って聞いてみる。亜人だからと差別するつもりではないが、この質問はそうとらえられても不思議じゃない。


「どうかな?私は白狼族はくろうぞく以外を知らないから…でもこの位は白狼族なら誰でもできると思うけど…」


「白狼族は亜人の中でも別格べっかくだって聞いたことがある。それにあの容姿ようしだろ?そりゃいい値が付く…っとすまいない。失言だった」


「いいよ。気にしてない。それよりマコト、私は役に立ってた?」


「もちろん。驚きっぱなしだよ」


「なら、あれ、お願い」


そう言うとエルザは僕に背を預けて座る。僕は言われるがまま彼女の頭をゆっくりとでる、時折尻尾が大きく振られ喜んでいるのがわかった。


「エレノア、うらやましそうに見てんじゃねぇよ」


「⁉カイン!そんな事…ない…」


カインさんもアオイと旅が出来て楽しそうだし、仲良さそうに話す二人を見ていると僕も心が休まる。


「姉さま、次は姉さまがやって」


エルザはアオイの事を姉さまと呼びしたっている。姉妹きょうだいはいないと言っていたがアオイの厳しい中にもある優しさを感じ取っているのだと思う。アオイも本当の妹のようにエルザに接していた。


「マコト、私は魔法が使えないの?」


エルザの質問に答えを探す。アオイが言う様に凄まじいほどの身体能力があるのだから、魔法が使えたらそれこそ反則チート級だ。でも使えないって調べた訳じゃないんだよな…


「ねえ、アオイ。ロミナさんがしてくれたみたいに魔法適正って調べられないの?」


「出来ない事は無いと思うけど…色々準備が…ってマコト。精霊に聞いてみたら?貴方ならそれが出来るんじゃないの?」


そう言われても、精霊に聞くって言葉を話すわけじゃないし…それなら…でも誰に…しばらく考え同じ男としてカインさんに実験台になってもらおう。


「カインさん、少しそちらに立ってくれませんか?適性は地でしたよね?」


「そうだが…一体何をするんだ?失言だったのは謝るが、何だか恐ろしいな」


「違いますよ。カインさんの周りに精霊たちを近づけるんです。適性があれば教えてくれるように頼んでみます」


そう言ってカインさんの周りに精霊たちを近づけると、確かに地の精霊が淡く光っている。他の精霊は近づきはするが反応は無い。次にアオイもやってほしいとのことで彼女にも同様にすると火と光の精霊に反応が見られた。そうしてエルザにも行うと…反応がある。それも風の精霊だ。


「カインさんもアオイも自分で認識にんしきできている適正で間違いないようです。ただ…エルザにも反応があるんですよね…風の精霊が反応してます。亜人は魔法が使えないというのは確かなんですか?」



「オレはそう聞いているだけだし、亜人の顔見知りもいるが魔法が使えないって言うのは同じだったぞ」


「亜人特有の魔法とか?エルザは白狼族で魔法が使える人を見た事がある?」


「ううん。私も魔法が使えないって聞いてるから…でも本当に風の魔法が使えるの?」


正直そこに回答できる答えは持っていない。ただ反応があったことは間違いないし、精霊が嘘をつくはずもない。では何と答えれば良いのかわからない。


「ゴメン。正直言ってその答えは僕にはわからない」


そこまで言ってあることに気付く。


「そうだ。魔法は使えないけど、加護ならどうかな?風の精霊との親和性しんわせいが高いとしたら試してみる価値はあるかもしれない」





そうして再度進んでいくと、巨大なありのモンスターに出くわす。アーミーアントというモンスターで集団で行動するため町が襲われたらひとたまりもなく、更に仲間を際限さいげんなく呼び寄せるためギルドで対応するにも2,3組のパーティーで対応するのだという。


「いいかいエルザ、決して無理をするんじゃないよ?僕たちだって戦えるんだ、仲間を頼ることは恥じゃない。出来るね?」


「うん。大丈夫」


「それじゃ…行くよ?…風の精霊よ、彼女に加護を…」


「凄い…体が軽い…行くね!」



そこから先は僕には何も見えなかった。アオイやカインさんでさえ目で追うのがやっとだという。エルザが走り出すと同時に衝撃波が発生し、モンスターに襲い掛かる。周囲の木々を足場にしているのだろうかそこかしこで大きな音を立て木々が激しく揺れ、風で巻き上げられたモンスターがあっという間に切断されていき、最後には地面に叩きつけられる。


圧巻あっかんの一言。ここまでの成果が出るなんて思ってもみなかった。


「エレノア…見えたか?白狼族って言うのはここまでの亜人か?」


「正直目で追うのがやっと。亜人って言うのもあるんだろうけど加護がさらに力を引き延ばしているわね、もう…マコトとエルザでやっていけるんじゃないかしら」


しかし問題点があった。それはエルザのまとっている衣服が風の加護とエルザの驚異的な速度に耐えきれる代物しろものじゃなかったという点だ。戦闘が終わると彼女の衣服がボロボロになってしまい、その度に変えていてはいつしか…


「取り敢えずは、私とマコトの外套がいとうを加工するしかないようね。魔法耐性もあるからある程度は大丈夫だと思うけど、早急になんとかしないと…いつかエルザを丸裸で戦わせる事になりかねないわ」


「しかし、そうなると…金もそうだが売っているものでまかなえるかどうか…一番いいのは専用のモノを仕立てる方法だが…」


「そうね。エルザの速度から言えば重装は必要ないから軽装、それも加護に耐えられるだけの代物となれば…マコト、加護を今の半分程度に抑えることは出来ないかしら?」


試行錯誤しこうさくごを繰り返し、何度も布地をボロボロにして得た結果は加護を全身ではなく部分的に行う事。腕と足にのみ加護を付与することで、何とか戦闘が終わっても体は布地をまとえるようになった。エルザには申し訳ないが裸足での旅となってしまったが、


「元々靴は履かないから平気だよ」


と笑顔で答えてくれた。


それからというものエルザの活躍は凄まじく、隷属れいぞくの契約もあいまって僕が察知すると、すかさずエルザが加護をまとい敵へと突っ込んでいき、アオイやカインさんが戦う場面が無かった。ただ闇雲に突っ込むだけではダメだと注意をしては見たが、この辺りのモンスターではエルザの影を捕らえる事も難しいようで事実彼女は傷一つ負わなかった。



「嬢ちゃんが思う以上の活躍をしてくれたおかげで、ほら、補給ができそうな村へ着いたぞ。あまり大きな村じゃないから買い込むのもほどほどにしないとな」


「取り敢えず宿を取りましょうか。そこからは二手に分かれて補給しないとね」


「私お金持ってないよ?ニンゲンはお金が必要なんでしょ?」


「それなら安心して。私もカインもある程度は持っているから」



そうして大きくはないが宿を取り、部屋割りはせつに願い男性、女性で分けてもらえることになった。


「良いのか?エレノアと二人っきりになれるチャンスを逃しちまってよ?」


カインさんがニヤニヤした顔でからかってくるが、ある程度は慣れて切り返すくらいはできるようなった。


「そうなるとエルザがカインさんと同じになりますよ?大きくなったとはいえ、まだ子供なんですから…」


「おま…いいか?オレの好みはもっと…こう…って、マコトも言うようになったじゃねぇか」


ヘンゼの街まではこの村から4日程度。一日だけではあるが旅の疲れをいやすことにした。

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