第二十七話 伝説の魔法使い

 集団パーティー戦の基本は敵の数を減らす事。特に後衛からの回復役であるアーシャさんから狙うべきなんだろうけど、ソウタの攻撃は間隔も狭くその隙を与えてくれない。


「何があったかは知らねぇが随分とマシになったもんだなオサベ君よ!」


 彼の持つ剣に対抗しうる武器は無い。ならばと全身を覆う様に障壁を張る。障壁自体の強度もそうだがオリジンの加護の影響だろう、詠唱をしなくとも精霊魔法が使えているようだ。


「僕も覚悟を決めたんだ。以前のように簡単には負けないよ」


「いいねぇ、言うようになったじゃねぇか。ならスピードを上げるぞ?」


 攻撃の間隔がさらに速くなってくる。障壁が壊れない限りはダメージはないが、後衛を狙う隙が益々なくなってくる。これではいつか限界が来る。かといって障壁を解けばまず間違いなく先程のように…一瞬あの光景が頭に浮かび、身がすくむ。


「おら!ビビってんじゃねぇよ!猛進突撃チャージ・クラッシュ


 剣の突きをかわすと、それを読んでいたかのように回し蹴りが腹部に当たる。障壁越しとはいえその衝撃は大きく壁に叩きつけられる。


「ゴホッゴホッ…やっぱり痛いな…だけど…まだ戦える。まだ負けてない」


 起き上がることもできる。急いで障壁を張り直す。


「ほぅ?あれだけの衝撃を受けてその程度か、障壁の強度が段違い…だな。適性以外の魔法でそこまでの強度が出せるとは…正直驚いたぜ。なら…もうお遊びは止めだ。フィア、加護を切れ!速度と力の強化をよこせ!」


 まばたきをした一瞬で目の前まで移動してくると、更に剣戟けんげきの速度が上がる。防ぎきれてはいるけど、障壁越しにも衝撃が伝わってくる。このままじゃ本当に…どうする?考えろ!僕は…何が出来る?


 待てよ?ソウタは何と言った?適性以外の魔法で…もしかしたら…でも…ダメだ!余計な事は考えるな、出来ると信じろ。


疾風しっぷう…」


 移動魔法でソウタと大きく距離を取る。


「落ちろ…招雷しょうらい…散!」


 その距離も一気に詰めてくる。


「後衛を狙う…良い考えだが、障壁を解いて良いのか?これで二度目のサヨナラだな!」


 大丈夫だ。信じろ!ソウタの横薙ぎを腕で防ぐ…


「障壁を張らせねぇよ!腕を捨てるか?いい度胸だ」




 ガッキーーーン!




「どうなっていやがる!何でその強度のまま魔法が使える!?魔法は適性以外はロクな威力じゃない筈だ!その障壁は全魔力を使ってやってんじゃねぇのかよ!」



「誰もそんなこと言ってない。出来ると信じていた、君が言ったんだ。適性以外の魔法でそこまでの威力と…だから気が付いた。地の属性は確かに僕の適正じゃない。でも…聞こえる…見える…すべての精霊が僕に力を貸してくれる!」



 今僕の目には、色とりどりの胞子のようなものが見える。赤、青、緑、茶、白、黒、黄、世界を構成する四大元素に光と闇。黄色は恐らく元素の元であるオリジンの色…そしてオリジンの加護は全ての精霊を扱えるという事。



全属性適性アトリビュート…だと?…フィア、アーシャ…引くぞ。今のままじゃ無駄に時間を浪費するだけだ…覚えておけよ、オサベ。お前は必ずオレが殺す…エレノア!一旦お別れだが、また迎えに来る」




 雷の魔法で倒れているフィアとアーシャを抱えソウタは魔法陣の中へ消えて行った。なんだか一気に気が抜けてしまい僕はその場に座り込む。オリジンの所で起こった出来事がまるで夢のような感覚があったが向こうの世界の事を徐々に忘れて行ってしまうのだろう…



「マコト!本当に?無事なの?生きてるのよね?」


「うん…なんとかね…アオイも無事で良かったよ…カインさんも」


「オレはついでか!でもよ…よく頑張った。すげぇじゃねーか!」


 こちらに歩み寄ってくる二人を見て、ようやく緊張が解けた。まだどこか夢見心地な気分だけど、それでも二人が無事で本当に良かった。


 目に涙を浮かべ抱き着いてきたアオイを受け止めるだけの気力もなく、そのまま倒され頭を打つ…痛みよりも先に僕は気を失った…久しぶりだな…この感覚…


 ……………………


 …………………


 ……………


 …………


「どうだ?マコトの様子は?」


「うん…まだ目を覚まさない…ゴメンね。カインにも迷惑を掛けちゃって」


 あの後私とカインは、マコトをカインが背負い彼が持つ隠れ家に来ていた。あれから二日…未だに目を覚まさない。


「いや、良いんだけどよ。ホントにエレノアなんだよな?いまだに信じられねぇけど…」


「城壁都市で初めて会ったんだよね?いきなりパーティに入れてくれって叫んで、それから何度も会うたびに言っていたよね?絶対強くなる、絶対迷惑を掛けないからって…」


「そ、そんな事もあったか?まぁオレも子供ガキだったしな…でも生きててくれて良かったよエレノア…」


「そう…なるのかな?カインはずいぶんと立派になったみたいじゃない?ギルドマスターなんて。凄いよ」



 こっちの世界で初めて会った少年は、ずっと私との約束を大切に守ってくれていた。強くなる。ただそれだけを愚直に思い力をつけて行った。もし…彼を旅の仲間として連れて行っていたら…


「でもよ、マコト…凄いじゃねぇか。全属性適性アトリビュートなんて…あれ?これってどっかで聞いたことがあるような気がするな…」


「勇者の御伽話おとぎばなしでしょ?神様からの啓示けいじを受けた勇者とその仲間の魔法使い。その魔法使いは今は使えない精霊魔法を駆使して勇者を助けたっていう…勇者の伝説は多く残っているけど魔法使いに関しては多くは語られていない、唯一判っているのが…」


全属性適性アトリビュートか…」



 魔法を使うものは多くて3つ良くて2つの適正を持っている。私だって火と光の適正だけ、ほかの属性は使おうと思えば使えるが威力も高くないし、消費する魔力も多い。だから普通は適性の魔法のみを使用する。全属性を使える人なんてそれこそ御伽話に出てくる魔法使いくらいしか知らない。


「寝ている顔は何処にでも良そうな、気の弱そうな顔してんのにな。それよりもエレノア…これからの事なんだが…もし、旅を続けるなら…今度こそオレを連れて行ってくれねぇか?これでも、あの頃よりはずいぶんとマシになったし…」



「カイン…ありがとう、そう言ってくれてとても嬉しいよ…でも…私がこっちの世界に帰ってきた理由知ってるでしょ?ただの私怨しえん…復讐だよ?あの頃みたいに世界を救うなんて考えてないんだよ?本当はマコトにだって付き合わせるつもりなんて無かったけど…ううん。本当は彼を安全な場所に置いて私一人でやるべきだった…だからね?カイン…」



「エレノア…そりゃダメだ。お前の気持ちも判らないでもない。けどよ、こいつが戦ったのはお前の為だ。頼んでねぇかもしれない、言った覚えもないかもしれねぇ。でも、コイツはエレノアの為に戦ったんだ。それなのに目が覚めてお前がいなかったら…こいつはきっと後悔する。面倒事に巻き込んだんなら、最後まで頼っちまえ。こいつも…オレも迷惑だなんて思わねぇよ。それとも何か?オレもコイツも迷惑なんて言うような器の小せぇ男に見えるか?」



 そう言ってカインは外へ出て行った。私に考えさせる時間をくれるように…こういう気遣いもできるようになったんだ…ホント良い男になったんだね。マコトもカインも、私なんかには勿体ないくらいに素敵な人だ。マコトがそうしたように、私も覚悟を決めないとダメなんだ…

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