第二十四話 復讐

…時間は少しさかのぼる…



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もう…気持ちが抑えられない…音もなく開く扉の向こうには、会いたくて会いたくて仕方のなかった人がいる。私はこの時の為に、向こうの世界で生きてきた。マコトに出会って、利用して、ここまで来た。今は全てを忘れよう…考える事はただ一つ…



扉が開き、マコトに忠告だけすると私は全身の血が熱く流れるのを感じていた。あの時以上に待ちわびた時そして…復讐ふくしゅうの時間だ。



「フィーーーーーアーーーーー!」



全力で斬りかかるが、フィアの錫杖しゃくじょうによって阻まれる。こうして間近でみると私が死んだ時とほぼ変わらない顔立ちをしている。少なくても当時は私より年上だったのだから、何が起こったのかは容易に想像がつく。



「お前!魔族と取引をしたな?その身を魔族にとしてまで、そうまでして私を殺したかったのか!」


「いきなりですね、エレノア…いえ今はアオイ・カミサカでしたっけ?どちらでも良いのですが、少し腕が落ちましたか?しかし、蘇生を防ぐ呪いだったのですが別の世界に転生して、また戻ってくるとは…余程未練があるですか?」


「未練ならあるさ!お前たちを殺してやるという未練がな!ライルも!リノも!その為に戻って来たんだ!」



何度か剣を振るうが、そのことごとくが阻まれる。フィアの表情も余裕そうで非常に不愉快だ。何度か打ち合い再度向き合うと、フィアは大きく首を振る。



「やはり…腕が落ちましたね。どんな世界に転生したのかわかりませんが、戦いから随分と離れていたご様子。以前の貴女であればこうは行かなかったのでしょうが…復讐心も相まって攻撃が単調ですよ?勇者様?」


「うるさい!お前に何がわかる!」


再度攻撃を仕掛けるが、やはり単調なのか全てが防がれてしまう。かわしてくれるのなら反撃の隙も生まれるのだろうが、打ち合いばかりではそれも出来ない。力も当時は私の方が強かったが、フィアは魔族に転生し身体能力も上がったのだろうか。


「今回の繋ぐリンカーは彼ですか?何と言いますか…頼りなさそうですね」


「お前がマコトを語るな!」


「おやおや、あのエレノアが随分と彼にご執心ですね」


フィアの口を塞ぐように猛攻を続けるが、あっちはずいぶんと余裕そうだ。私の方は少し止まっただけでも肩で息をするほど消耗してしまった。認めたくはないが戦いから随分と離れてしまって腕が鈍ったのは事実のようだ。向こうで訓練と言えば素振りくらいしかできなかった。


「あれが精霊を使った魔法ですか…成程、実際に見ると我々が使うどの魔法より強力そうですね」


私たちの後方ではマコトがアーシャと対峙していた。彼が使った魔法は…風の精霊?火だけではなく風も精霊の力を借りられるのか…


「よそ見とは随分と余裕じゃないの!…バースト!」


腕を振るい、フィアの正面に爆発を起こす。恐らく効果は薄いだろうけど目暗ましになればいい。フェイントをかけ、左側面から剣を振るうと黒い障壁に阻まれたが、そのまま押し切る。


「はあああ!猛進する刺突イリアル・バースト


刺突しとつ系の技と爆発力で勢いをつける合わせ技で、フィアが壁を突き破り外へ出るとそれを追う。上段からの振り下ろしを行う際に一瞬だけ、フィアが笑ったような気がした…



「やはり随分と戦いから離れた様子ですね。魔族に転生したとはいえ以前のエレノアでしたら、少なからず無傷とはいきませんから」


地面へ衝突したにも関わらず、フィアには左程ダメージは入っていないようだ。剣や魔法でも攻撃が届かないのであれば、私に勝つ手段がなくなってしまう。考えろ、以前はこちらで魔族とだって戦ってきたんだ。…弱気になるな!必ず突破口はあるんだ、攻撃の手を休めるな!



「いつまでも余裕ぶっていればいい。後悔するなよ!」


「後悔?そんなものは既にありません。以前からそうでしたね、貴女は何も変わっていない、何もわかっていない…そろそろ終わりにしましょうか、今度はこちらから行きますよ?」


一瞬の内にフィアが目の前に現れる、攻撃を防いではいるが、徐々に感覚が短くなってくる、ダメだ…防ぎきれない…


「きゃああ!」


大きく吹き飛ばされ、フィアは追撃の魔法を放つ。回避をしようと結界を張るが、体力や魔力も徐々に少なくなってきており、どこかで回復をしなければ…


「どうしましたエレノア。そのままでは結界が持ちませんよ?復讐するためにこの世界に戻って来たのでしょう?復讐も果たせず、また《・・》死んじゃいますよ?」


その言葉にタガが外れた…


「ああああああ!」


ある程度のダメージなど気にするな!そうだ、私は復讐するために!帰ってきたんだ!一つ一つの魔法の威力は強くない、剣で弾きながらかわせないのなら当たろうが構うものか、距離を詰めフィアに斬りかかるが、そこには姿がなかった。


「だから何も変わっていないというのです。考えなしに突っかかる貴女を誰がサポートしたのですか?誰がほかの敵の注意を引き付けたと?誰が周囲の警戒をしていたと?それなのに勇者と褒め称えられいい気になるから、周りが見えていないのですよ」


「カハッ!」


背後から現れたフィアに背中を強打され、倒されてしまった。首元に何かを押し付けられる感覚を覚えると、途端に体の自由が利かなくなった…これは麻痺?


「っく…」


「無駄です。いくら魔法金属ミスリル製の防具に耐性があると言っても完璧な耐性というものは存在しません。ああ、安心してくださいね。殺す真似はしませんから、あるお方からの厳命ですから」


「誰だ…魔王か?」


「わかりませんか?貴女の事を第一に考えているお方ですよ。…忘れてしまったのですか?」


こっちの世界にそんな事を考えてくれた人がいただろうか…思い返してみてもそんな人物は想像もできない。そんな事を考えていると、男の声が聞こえた。


「フィア、こっちは終わった。あんなのが同類と思うと情けなくなるな」


「我が主、よくご無事で」


「よせよせ、無事も何も軽くでた程度だ。虫を殺すのに全力を出すバカはいないだろ?それよりも…」


足音がこちらに向かってくる。私の正面までくると、しゃがんで顔を覗き込んでくる。


「久しぶりだな。エレノア…逢いたかったぜ。髪の色は変わっちまったようだが、その目だよ、肖像画なんかじゃ表せない強い意志を持った瞳、ああ…待ってた甲斐があったぜ」


思い出した…初めて会った時から気に入らなかった口調、彼と同じ黒い髪、にやけた口元、生理的に受け付けなかった最初の繋ぐリンカー


「ソウタ・ヤク…」


「おいおい、そんな他人行儀な呼び方をしないでくれよ。以前のようにソウタで良い。しっかし、今度のリンカーは使い物にもならねぇな?エレノア、戦い方を教えてなかったろ?あれじゃ遠からず死ぬぞ?」



まさか!マコトはこの男と?いつからいたんだ…最初から…?それよりも



「マ…マコトに何かしたのか!彼をどうした!何かあったら絶対に許さない!」


「ああ、安心しろ。剣で斬ってやったら痛い痛いと泣き言をいうもんだからアーシャに治癒させてある。それよりも…アイツは名前で呼ぶのにオレは元のように呼んでくれないのか?オレの気が変わちまったらオサベ君は死ぬぞ?」


私のせいだ。もっと早くこのことを話していれば…いや、そもそもが間違っていたんだ。この世界に連れてきてしまった時点で、こうなることは予想は出来た、だがそれを先延ばしにしてしまった…全てを先に話していれば違った結果になったのかもしれない…彼との時間はそれを忘れるほどに心地良かったんだ。


「今の今までお前の事など、すっかり忘れていたよ。本当に…久しぶりだな…ソウタ」


「くっくっく…イマイチだが、まあいいさ。エレノアに再会できたんだ。取り敢えずはそれで良い。だが忘れるな、オサベ君の命はオレが握っていることを、許可なくオレの前から消えてみろ…エレノアならわかるだろ?フィア、麻痺を解け」


フィアの解呪を受けると、程なく体の自由が戻って来た。ゆっくりと立ち上がるが消耗した体力や魔力はほとんど残っていない。今は逃げる事も出来ない…


「そうそう、大人しくするのが一番だぜ、エレノア。まずはゆっくりと休むといい。フィア後は任せた。オレは一旦戻る。また明日なエレノア」


そう言うとソウタは魔法陣へと消えて行った。転移魔法…か


「さ、エレノアこちらへ」


「どこへ連れて行く気だ。牢か?」


「そんな物騒な所ではありませんよ、疲れを癒し汚れを落とさなくてはいけませんからね。特別な客室です」


悔しいが今の私では勝つのは難しいだろう…マコトの件もある、今は大人しく従うしかないようだ。


「マコトは…無事なの?」


「ええ…今は…言っている意味が分かりますね?」


私の行動次第で…という事か。早く見つけ出して解放しないと…そうして私の復讐は何の成果も出せず終わってしまった…

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