第二十一話 訪問者

「そこは二人に任せるよ、なら明かりと取り巻きは任せてね」


マコトはそう言うと一人で洞穴の近くに移動する。お手並み拝見と行きましょうか。


「なぁアオイ、本当にアイツで大丈夫なのか?お前の言う事だから信じたいけど…なぁラシャール」


「うん…なんだろう彼ってどこかのんびりしていて、アオイに頼りきりって感じがする。本人も言ってたし仲間として見るのは躊躇ためらうかな…」


二人の印象は判らなくもないけど、彼は数か月前まで争う機会なんて無かった生活を送っていたのだから、それも仕方ない。行動と実力が伴ってないのも仕方のないことだ。


「まぁ見てなさい。彼が最強の魔法使いだってすぐに判るから」


マコトは短剣を抜くと詠唱をしているようだが、これだけ離れているのだから詠唱破棄いつものでいいのに…きっと私が言った事を忠実に守っているのだろう…すると彼の周りを赤い胞子のようなものが舞い始めた…あれって…まさか⁉


「アオイ…あれって…」


同じ魔法使いであるラシャールにもわかったのだろうか、彼がどれだけ凄いことをしているのかが。


「おい、何だよ、何が起こってるんだ?」


戦士であるクライブには起こっている現象すらわからないようだ。それにしても規格外の天才だと思っていたが彼は何処まで私の予想を超えていくのだろう…今ならあの人の気持ちが少し理解できる。自分では到底及ばない遥か高みにいる人物の側にいる事がどれだけ辛いのかが。



「せ…精霊魔法…」



「精霊魔法って古代に失われた技術なんじゃないの?アオイ…彼は一体何者…」


私たちが使う魔法は四台元素を元に行使が出来ているが、その元素を束ねるのが精霊。人間であろうが魔族であろうが、それこそ魔法の専門家であるエルフですら行使できる技術を失われたとされている。それをなぜ彼が?


「ね…マコトは凄いでしょ?」


私も声が震えているのがわかる。唯一確認できたのはマコトから放たれた四つの筋がゴブリンを貫き再度彼の前まで戻って言った事。まるで簡単な仕事を終えた子供のように…。


洞穴の前まで移動したマコトが立ち止まると一瞬動きが止まるが、そこに再度精霊が現れ大きな火球が出現し洞穴へ突撃していった。爆発などもなく辺りは耳が痛いほど静まり返っていた。一度ならまぐれや偶然で片づけられるかもしれないが二度も見せられたのだ。認めるしかない。



「マコト…今のって…」



判らないだろうけどとりあえず聞いてみると、彼は何とも簡単に


「うん、精霊が力を貸してくれたんだ。中を照てらしたから後は頼んだよ」


「どこまで規格外なのよ…」


………


……



帰りの道中ではクライブとラシャールはマコトとどう接すればいいのかを測りかねているようだった。きっとマコトは、まだまだ自分が頼りないからと思い違いをしているのだろう。そう考えるとなんだか可笑しい。


「アオイ?何だか嬉しそうだね?どうしたの?」


彼が隣を歩きつつ聞いてくる。


「マコトの凄さがより理解できたからね」


「そっか…僕も少しは役に立てたようで安心したよ」


役に立つどころか、それ以上のものを見せてもらった…ならば、もう…


「マコト、帰ったら聞いて欲しいことがあるんだけどいいかしら?」


「うん。もちろん」


そろそろ私の目的を話してもいいだろう。彼は恐らく世界でも希少な精霊の力を借りる事が出来る魔法使いだ。もし…私がいなくても…



交易都市に着きギルドへの報告を済ませると、報酬として銀貨30枚を受け取った。クライブらは報酬の受け取りを拒否したがマコトからの提案で半分を受け取っていった。そのまま宿へ戻り、装備を外す。長くなるかもしれないと飲み物を用意して彼に目的を話そうとすると、何だか外が騒がしい。


「アオイ…誰か来る、5人…」


「装備を…って間に合わないわね。大人しくしてましょうか…」


大きな音を立て、部屋の戸が開かれる。白銀の鎧を付けた5人の男たちは遠慮を知らず部屋の中に入ってくる。


「アオイ・カミサカ、マコト・オサベ!今すぐギルド本部へ出頭してもらう。余計な真似はするな!大人しくついて来い!」


「ならせめて、装備を整えさせて貰える?」


「装備はこちらで回収する。そのままの格好で来い、下手な真似は、痛い目を見るだけでは済まないと思え」


大きくため息をはくと、マコトに向かって首を振る。彼も何を言っても無駄のがわかったのか大人しく5人の男たちに前後を挟まれながらギルドへと連れて行かれた。執務室と呼ばれた部屋に連れて行かれると、そこには、恰幅のよい男性と、スラッとした金髪の美人が待っていた。


「ようこそ、急なお呼びたてで申し訳ありません。私はギルドマスターの補佐をしております、アーシャ・カミンズと申します。こちらはマスターのビガン。どうぞよろしく」


「自己紹介は必要ないようね。早速だけど要件は何?犯罪者のように連れてきて何の用なの?」


「申し訳ありません。まずはお掛け下さい、どうしても聞いておかなければならない事がありましたので」


マコトと目を合わせると、提案通りに座らせてもらうとグッと沈むような感覚があった。余程高級なソファなのだろう。


「早速ですが、マコトさん…でしたね?貴方が精霊魔法を使ったというのは本当ですか?」


成程。クライブたちから聞いたのか、さてどうしたものか。素直に認めれば今後の活動に影響が出そうだし誤魔化そうにもマコトと口裏を合わせていないので難しい。なんとか私一人で…


「それは…」


「アオイさん?貴女に聞いているのではありません。言葉の意味を理解していますか?」


アーシャに遮られ、目論見もくろみが外れてしまった。きっとマコトは正直に言ってしまうんだろう…だが、それも仕方ない。私がもっと早く彼に伝えていれば…。


「それで?マコトさんどうなんですか?」


「すみません。精霊魔法って何ですか?僕は使ったことがないので何とも言えません」


そうか、マコトには精霊魔法がどんなものか伝えていなかった。それならば…


「本当ですか?ラシャールから貴方が魔法を使った時に不思議な現象が起きたと報告を受けています。彼女が嘘を言っていると?」


「ラシャールが?ああ、あれを精霊魔法というんですか?」


ダメだった…。


「確かに魔法を使った時、精霊たちに力を借りたことは事実ですが、それは違反行為なのですか?」


「いえ、違反という事ではありません。ですが精霊に力を借りるなど遥か古代に使えた魔法で、現在では行使できるものは殆どいません。それが、昨日今日登録したての冒険者が使えるというのが不思議だったのです」


…おかしい。狼狽うろたえる様子や驚く様子がない。精霊魔法なんて聞けば、魔法を使うものなら誰だって少なからず驚くものだ。それなのになぜ?知っていた?だがいつ?どうやって…



「お二人には申し訳ありませんが、明朝、城壁都市へ移動していただきます。心苦しいですが一旦身柄を拘束させて頂きます。ですがあくまで客人として…ですのでご安心を」


抵抗したところで、部屋には魔法を妨害する結界も張ってあるようだ。少なからず予想をしていたのだろう。オロオロとするマコトをなだめ、私たちはギルド内の別室に案内された。…やはりここもか


「アオイ…ごめん。僕のせいで…」


「いいえ。私にも落ち度があったわ。取り敢えず休みましょうか、明日は移動日になりそうだから体力は温存しておかないとね」

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