第二十話 新たな魔法

待ち合わせ場所にはクライブとラシャールがすでに待っており、こちらに気付くと手を振ってくれた。


「よお、準備はいいか?オレらはバッチリだ」


「クライブ、それよりもお礼が先でしょ?アオイ、マコト、昨日は本当にありがとう。おかげで宿にも泊まる事ができたわ」


「提案したのはマコトだからお礼なら彼にね。こちらも準備は出来ているわ、早速行きましょうか」


準備…僕だけ出来ていないけど、それを言っても仕方がないか。先頭にクライブとアオイが進み僕とラシャールはその後に続く。クライブの剣を見ると所々にこぼれなどがあり使いこまれているのがよくわかる。それにしてもよくアオイに話しかけている、なんだか少しムッとした。


「ごめんね、クライブったら…でもアオイってとても綺麗な人よね。マコトの恋人?」


顔に出ていたのだろうか、ラシャールは困ったような顔で僕に謝ってくるが彼女が謝る事じゃない。僕のつまらない嫉妬心しっとしんだ。


「うん、とは言ってもアオイに頼りっぱなしで恋人らしい事は出来てないんだけどね」


「そうなんだ…なんだかいいな、そういうの…それよりもマコトの適正は?私は風なの」


こういう時は素直に言わない方が良いんだったよな…だましてるみたいで気がひけるけど。


「僕は火だよ、それなら複合ふくごうすれば威力も出るし安心だね」


そう言うとクライブがもの凄い勢いで反論してきた。


「は!複合魔法なんて伝説級の魔法使いじゃないと出来るはずないだろ?マコトがそうだって言うのか?あんまりそう言う嘘はつくもんじゃねぇぞ?なあアオイ」


「どうかしら?」


しまった!少しくらい出来ているからって図に乗りすぎた…そっかできないのが当たり前なんだよね。


「いや、違うよ、そういう魔法があるって知っていたから出来たらなぁと…希望みたいなものだよ」


「まあ、嘘がよくねえのは事実だ、気をつけてくれよ」


「うん…そうする」


それからは変わらずクライブはアオイにばかり話しかけているし、ラシャールにはなぐさめられるし余り僕の居場所は感じられない。これじゃ向こうとなんら変わってない、どこかで挽回ばんかいの機会でもあれば…すると腕輪が震え敵を知らせてくれた。今なら…いやでも…高価な物をつけている初心者なんてわかってしまったら?ダメだなんと言い訳すればいいのかわからない…



「マコト!右前方よ。スライムが2体」


「わ、わかった」


アオイの声で手をかざすが、違う!剣を抜かなきゃ…もたついていると初動しょどうも遅くなりスライムに接近を許してしまう。


「風よ!我が名において命ず、敵を切り裂け、ウインドカッター!」


ラシャールの魔法がスライムを切り裂いた、だがもう一体は…辺りを見回してもそれらしき姿がない。


「マコト!伏せて!」


アオイが叫び剣を振るう、僕は身を屈めるとゴウッと何かが通過する。どうやらスライムは上から襲って来たのだがアオイの剣圧を飛ばす技で倒せたようだった。そうだ!お礼!


「ラシャール、ありがとう…助かったよ」


「え、ええ…いいのよ」


なんだかラシャールはよそよそしく、すぐに僕の視線を逸らす。アオイにもお礼をと彼女の方を向くとクライブは怒った顔で僕の胸ぐらをつかんだ。


「おい!何してんだよ!もしお前がやられたらラシャールだって危なかったんだ!お前本当に魔法使いか?オレら戦士と違ってスライムなら慣れてるんじゃないのか?」


「ごめん、次からは…」


その言葉だったのだろうか、態度だったのだろうか、僕には判別がつかなかったがクライブに殴られた。


「次?たまたま助かったから良かったが、死んだら終わりなんだぞ!あんまり戦いを甘く見るな!」



くやしかった。情けなかった、結局僕は自分の事ばかりで…バレたらどうしようなどそんな事しか考えていなかった。変わると決めたじゃないか、アオイの横に立つ為に。もう迷ってばかりの僕じゃないんだ…きっと出来る、彼女が教えてくれたじゃないか、それを信じろ…そして自分を信じろ…逆境ぎゃっきょうに立たされるのであれば…あらがえ!



「おい、アオイ。なんであんなのと一緒なんだよ、今からでも遅くねえって。オレらと一緒に組もうぜ?まだ冒険者として新米だけどよ、お前と一緒ならきっと大丈夫だって」


「ねえ、アオイ、私も少しマコトだと不安…かな。クライブの言う通り一緒に組もうよ。あんなすごい技が使えるんだもん、きっと」


「ふふッ私が貴方達と組む?私のパートナーは彼以外にあり得ない。そうね…依頼が終わるまでに彼が今のままなら考えてもいいけど…そんな事はあり得ない。しっかり見ていなさい、マコトは…最強の魔法使いよ」




前の3人が何を話しているかわからないけど、必ず挽回ばんかいするんだ。




それから道中はクライブとアオイが先頭を歩き、ラシャールはそのすぐ後ろ、そして最後尾が僕と並びにも変化がでしまった。これが今の僕だ、でもそれで良い。自分に出来る事をやるだけだ。集団パーティー戦では戦況を見極めろ、危険はより早く排除しろ。感知の魔法を広範囲に広げると行手に三つの反応がある。モンスターは魔石を内に宿やどしているから、人間と波長が異なる、ならばその反応へ更に集中すると確かに反応の中心に力が感じられる。



「炎よ、力を貸してくれ、敵を焼き尽くせ!フレイムシュート」


炎は反応の中心に当たり爆発を起こした。感知にも反応がなくなった、これなら安心だ。突然魔法を放った僕を振り返る3人、アオイだけはニコリと微笑ほほえんでくれた。きっと彼女もわかっていたんだ。



「おい!今度なんだ!まさか魔法使いだって証明する為に魔法を使ったんじゃないだろうな!」


「なら、魔法の場所を見て来たら?」


アオイが止めクライブとラシャールを向かわせ、僕の方へ歩いてくる。


「さすがね。気づいた?」


「うん、ゴメンまた足を引っ張って」


「気にしないで。マコトの事、信じてるから」


「ありがとう。必ずこたえるよ」


戻ってきた二人は魔石を三つ持っており、モンスターがいた事だけは信じて貰えたようだ。だが失ったモノはこのくらいじゃ取り戻せない。信じてくれる人がいるんだ、失望させるな。



そこからしばらく歩くと、依頼の場所ついたようで様子を見に行ったアオイが言うには、この先に洞窟がありそこにゴブリンの群れが確かにいるとの事だ。数はおよそ20体。


「ゴブリンは三、四体で行動するけどそれ以上の場合は?」


クライブとラシャールは顔を見合わせる。


「群れをひきいるリーダーがいるんだろうね、ならリーダーはアオイやクライブに任せるとして取り巻きは僕らで何とかするしかない」


「そうね、取り巻きを相手にしていたらリーダーが逃げる可能性もあるし」


「洞窟ってどこかにつながっているのかな?それだと逃げる可能性も高いよね?」


「どうかしら、依頼書を見る限り巣穴にしてる可能性が高いわ。なら洞穴ほらあなでしょうね」


僕らの話が不安なのかラシャールが恐る恐る聞いてきた。


「ね…ねえ、アオイどうするの?私の魔法は後2回くらいしか使えないしクライブだってゴブリン相手は2体までしか戦えないよ?」


…というかそれなら何で依頼を受けたんだろう…



「だ、そうよ、マコトどうする?」


「洞穴なら中で爆発する魔法でも使えばすぐ終わるんだけどね、討伐の証も必要なんでしょ?」


「リーダーのさえあればいいんじゃない?」


「そこは二人に任せるよ、なら明かりと取り巻きは任せてね」



そう言うと僕は一人洞穴ほらあなへ近づいていく、入り口に四体、後は中か。腰の剣を抜き逆手に持つ。詠唱えいしょうなんて恥ずかしいけど、こればかりは仕方ない…意識を集中する、イメージは四本の矢、速く、相手を貫く強度、なんだろう…周りがあたたかい…精霊?そうかこの世界には四大元素を束ねる精霊がいるんだって聞いたな…なら…ほんの少しでいい僕に力をかしてくれないかな?僕はどうしようもない程に間抜まぬけだけど…僕を信じてくれる人がいる…その人の為に…僕は…強くなるんだ!



目を開けると赤い胞子ほうしがたくさん舞っている…それぞれが意思を持つように僕の意識に語りかけてくる『外すなよ』『もっと力を抜け』『オレ達に任せておけ』と。


「ありがとう、じゃあ…行くよ!貫け!ファイアアロー!」


炎の矢はそれぞれが意思を持ったように扇状おうぎじょうに飛んでいき、相手の視界外から一気に速度上げ襲いかかった。

不思議と爆発もせずに僕の目の前に戻ってきたかと思うとフッと消えた。目を閉じて力を貸してくれた精霊に心の中でお礼を言うと洞穴の入り口まで到着した。中をうかがうが暗くてよく見えない。



「もう一度力を貸してくれないかな?洞窟の中を明るくしたいんだ」


再度赤い胞子ほうしが現れる。『仕方ねえな』『精霊使いが荒い』『いいよ僕らは君が気に入った』

様々な意見が意識に流れ込んでくる、さっきの精霊と違うのかな?助かるよ…


「暗き場所に安息を照らせ、フレイムシャイン」


魔法を唱えると、洞窟の入り口とほぼ同じ大きさの火球が現れ、一気に洞窟の中に突入していった。


『敵いた』『焼いた』『もういない』


はしゃいだ様な声が聞こえたと思うと、洞窟内が明るく照らされる。


「マコト…今のって…」


珍しくアオイが驚いた様子で立ち尽くしていた。


「うん、精霊が力を貸してくれたんだ。中をらしたから後は頼んだよ」


「どこまで規格外なのよ…」


アオイとクライブが武器を構えて中へ入っていく。僕とラシャールは入り口で待機しているが、やはりラシャールの態度はよそよそしい。あれだけの失態をしたんだ、それも仕方ない。これも自分が招いた結果なのだと痛感する。


『見つけた…』


あれ?今何か聞こえたような…


暫くするとアオイ達が首飾りの様なものを持って帰ってきた。


「それ、リーダーの?」


「そうね…ゴブリンのリーダーの証でしょうね…」


やはりアオイは強い、僕もいつかその隣に立っていたい。そう強く思った。


「な…の…ぜん…た…」


ぶつぶつとクライブが口にしている、何か恐ろしいことでもあったのだろうか、アオイを見ると彼女はため息をつき、僕を見るともう一度ため息ついた。


「中のゴブリンは全部焼かれていたわ。私達はただこれを取ってきただけよ」

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