第十五話 小さな一歩、大きな決意
ロミナさんやカミルさんに見送られながらエルフの里を出ると、また森の中を歩く。
「さて、ここから次へ向かうんだけど同じ帝国領内の交易都市か王国領内へ向かうか、マコトはどっちが良いと思う?」
いきなりそんな事を聞かれても…
「かみ…アオイさんには目的があるんでしょ?それに近い方でいいですよ。土地勘のない僕に聞かないでくださいよ」
「相変わらず直って無いわよ?いいから。こういうのは直感がモノを言うのよ。事前情報がない分素直な意見が聞きたいな」
そうは言ってももはや癖になっているようで自然と出てしまう。距離的には交易都市が近いようだ…と言ってもそれなりの距離がある。長距離の移動は避けたいところだ…体力的にも。
「それなら交易都市ですかね。正直言えば体力的に少しでも距離の近い方を希望します」
「素直でよろしい。なら交易都市へ行きましょうか。途中にも町や村に寄るから心配しないでね」
森を抜けるまでに何度かモンスターに
「エルフの里で聞けなかった事なんですけど、僕の他にも繋ぐ
「隠しても仕方ない事だけど、他にもいるわよ。ただそう何人もいるわけじゃないの。今この世界にいる繋ぐ
「その人にもロミナさんは会っているみたいな言い方でしたよね?となると僕よりも先に来ていたって事ですよね?その人にも僕みたいに誰かと一緒だったんでしょうか」
彼女は途端に黙ってしまった。聞いてはいけない事だったのだろうか…でもこのくらいなら差し
「どうかしら。そうなのかもしれない、それよりも交易都市では無理できないわよ?」
あからさま過ぎるけど彼女はこの話題には触れたく無いように思える。
「どういうことですか?」
「交易都市はその名の通り交易によって栄えた街なの。だから色々な商人がいるわ、中には
エルフの里で聞いた事が蘇ってくる…ならば…
「助けたいって顔してるけど、出来ないわよ?公に出来ないからこそ探すのはほぼ不可能だし、そういった商人は街中でもそれなりの権力者と繋がりがあるの。旅を続けるのならそういったトラブルは避けたいわね」
なら見過ごすのか?彼女の言う通り権力者とのトラブルは避けるべきなのは理解できる。でも…
「私の希望でもあるからマコトと旅が出来るのは嬉しいけど、言ったはずよ我慢しなきゃならない事は山程あるって…」
まるで僕の考えを読んでいるかのように彼女は答える。
「エルフの里でロミナさんやカミルさんが助けてくれって言っていた?その子の親が言っていた?許せない行為だって言うのはわかる、でも、彼らだってきっと…」
「諦めろと!?そんなのおかしいじゃ無いですか!何かできる事があるかもしれない、それだけでもきっと…」
「そんなのわかってる!私だって助けたい!でも…仕方ないのよ!そんな事をすればどうなると思うの?私達はきっと他の街でもお尋ね者になる、そうなればアイツらにだって情報が…私だって…こうする事しかできないの…どうすればいいの?私にだってわからないのよ…」
初めて聞いた…彼女の思いを。押し殺していた気持ちを爆発させるように叫んだ彼女の瞳は涙で溢れていた。いつでも余裕がありなんでもこなすと勝手に思っていたが…
僕はいつまで彼女の
それから街道に出るまでは、お互いに最小限の会話だけで黙々と森を進んで行った。幸い戦闘も極力彼女が避けてくれたようで、遠回りになったようだが森を抜け街道まで出る事ができた。
「街道沿いに行けば一つ町があるからそこで休憩にしましょうか」
僕に出来る事は多くない。でも、出来る事があるはずだ。それを見つけて行こう、それがいつか彼女のためになると信じて…この気持ちは多くの人にとって、きっと当たり前でちっぽけな一歩だ。けれど僕にとっては…
「アオイ、僕は…頑張るよ。今は頼りっぱなしだけど、いつかきっと君の隣に立てるようになる。だから…これからもよろしくお願いします!」
「大丈夫、きっとマコトはそうなるから。ううん、私よりも先を歩くよ。繋ぐ
僕と彼女は笑顔を浮かべながら握手をした。笑顔の彼女は僕が見た中で一番輝いて見えた。
僕の中で何かが変わった瞬間だった…
そうして歩みを進め日が傾くと、ようやく町に着いた。交易都市に近いこともあって宿屋や露店、装備品等を売っているお店、
「ここが宿屋。今日はここに泊まって、明日以降の話をしましょうか」
「わかった…って僕お金持ってないけど…アオイは?」
「そっか、小屋に里とお金に関わりがなかったものね。なら換金しましょうか一旦道具屋ね」
「換金って何を?」
「魔石、モンスターが落とすでしょ?それを換金するの。そのままじゃ使えないけど加工する技術があってそれが一般に広まるの。スライムやゴブリン、マコトが倒したオークの魔石あるから二、三泊は出来るかな」
宿屋の前を通り過ぎ再度石畳を進んでいくと、とてもいい匂いがしてきた。元を辿ると露天商が串焼きを売っているようだ、向こうでもそうだったがどうしてああいう匂いは食欲をそそるんだろう…グゥ~ッと僕のお腹が鳴りそれを彼女が笑う。
「美味しそうだね?換金が終わったら食べてみる?」
「いいの?…なんだかゴメン、はしゃいじゃって…」
再度彼女の後をついていくと至る所に食事が出来る露店が多く出ていた。剣を背負った人、ローブを纏った人と
「この世界ではどの町にも警察みたいな自治組織があるの、それがギルド。で、ギルドに所属しているのが冒険者。彼らはホームと呼ばれる場所からめったに動かない。その方が知名度も上がりやすいし、知名度が上がればより良い仕事が受けられるってわけ」
「依頼料はお金だけじゃなくて、こういった飲食の提供なんかでも冒険者が良いならOKなんだよね?」
「そうね。それも教えたことだね。さ、道具屋はこの先だよ」
そこからもう少し進むと目当ての道具屋があるようだった。扉を開けようとすると中から大きな物音がした。彼女と顔を見合わすと、勢いよく扉が開かれ僕の頭に大きな痛みが走った。
ガンッ!
「いった…」
余りの痛さに蹲ると、さらに追い打ちがかかり中から出てきた人に蹴り飛ばされた。
「イテッ…」
「なんだ?貴様、冒険者か?このゲイリー様の行く手を遮るとは
低い声を発し文句を付けられると思ったが何故か口をパクパクとして声が出ないようだ。起き上がるとゲイリーと名乗った人物は僕ではなく彼女の方を見ている。
「お…お…おお!これは美しい。
珍しく彼女が黙っている…ベタベタと触られ、髪を撫でられ、あんなことを言われたら烈火の
彼女の手を引こうとするゲイリーの腕を掴む。
「なんだ?貴様に用は無い!そうか、この女を連れて行かれるのが納得できないか。ならばそら!」
そう言って僕の足元に金色の硬貨を数枚投げつけた。
「それをくれてやるから、さっさと失せろ。貴様には手が届かないほどの金貨だ。
不快な笑い声は聞くだけでムカムカする。彼女を売り渡せと?そう言ったのか…掴む力をさらに強める。
「彼女は僕の恋人だ!金で渡せるものか!消えるのはお前だ!」
「そう!その言葉が聞きたかったの!」
彼女はゲイリーの股間を蹴り上げると、僕に抱き着いてきた。
「今日はいい日ね、マコトが初めて私の為に怒ってくれるなんて…今日は記念日にしましょう」
「えぇ…その為に黙ってたの?」
「いいじゃない。あんなのに触られて不快だったんだけど我慢したのよ?」
「そうだろうけど…」
手を引かれるまま道具屋で換金を行い、露店で串焼きや食べ物を買い宿屋では一人一部屋を
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