第十四話 自覚なき力
空き家ではあったが、雨風を凌げベットもあれば温泉の効果もあり翌朝には疲れは嘘のようになくなっていた。彼女の提案でロミナさんに魔法の手解きを受けに行くことになったのだが…
「ロミナさんはエルフの中でもかなりの実力者よ、しっかりと勉強してね…だ・け・ど!顔や体つきばかりに目が行ってるのは気付いてないでしょうから注意しておく。バレバレだからね」
そうだったのか…そんなつもりは無かったけどしっかりと謝っておいた方が良いだろうな…というか気付いていたなら教えてくれてもいいのに…。ロミナさんの家の前までは来れたが、入りづらい…ウロウロとしているとカミルさんが出て来てくれた。
「マコト、先程から何をしている?
「はい…あの…ロミナさん…怒ってますか?」
「?何を怒る必要がある、さぁ中へ」
良かった…中へ入ると昨日とは違い2階へ上がらず地下に降りていく。突き当りの扉を開けると部屋は薄暗いがそこかしこに松明が灯っていて床や壁一面に不思議な紋章が描かれていた。
「ようこそ、マコト。ここは魔法の修練場、魔法陣があるのである程度の魔法を使っても耐えきれる作りになっているから安心せよ」
「あの…不快な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした」
開口一番深々と謝罪をする。こういう事は大げさにさっさと済ませしまえばいい。これは、僕が17年生きてきて学んだ処世術だ。
「マコト、お前は何を言っている?昨日会ったばかりで、まだ会話すらまともにしていないというのに何を謝る?」
「え?だって…僕が…あの…」
「成程、大方察しはついた。これもエルフに生まれたものの宿命と考えれば、私もまだまだ捨てたもんじゃないな。お前はエルフを見た事がなかったのだろう?なら仕方あるまい」
そっか、エルフは美形というのはこの世界でも共通認識だったのか。言わば見られ慣れていると…向こうで言うと芸能人的な?
「早速始めるぞ?先ずは魔法陣の中央に立て。適性を見る」
「適正?」
「アオイからも聞いているだろう?魔法は四大元素を元にしているからどの魔法が得意なのか個人差がある。得意魔法は使用する魔力量が小さくても威力が出る。不得手ならばその逆だ」
そう言えば彼女も同じことを言っていたな。それで僕の得意な属性を調べるってことか。漸く納得すると魔法陣の中央に立つ。それを確認したロミナさんが両手を前に出し何かを呟いているようだ。途端に魔法陣が光り出すと、それと同じ大きさのモノが僕の体を通過していく…何だかムズムズするような感覚がした。
「マコト、あまり動くな…これは珍しい。風と火…そして雷…」
「え?四大元素なんですよね?火、水、土、風、じゃないんですか?」
「あくまでも元になるのが四大元素、そこから光、闇、空と、この世界を構成する要素がある。もっと言えばその全ての元素を束ねる精霊もいるのだが、今は置いておこう。そのうちの空に出る現象の雷は熱を持つから火、その移動速度から風と親和性がある」
え?雷ってそうだったっけ?あぁ…向こうと法則が違うのか。いい加減こういう事にも慣れて行かないといけないな。
「では、おさらいだ。魔法の発動に必要なものは?」
「魔力です」
「うむ。では魔力はどこにある?」
「この世界には魔力と呼ばれる魔法を使うための力があります。そして魔力は何処にでもあり、それを感じる力が魔法を使う上で重要です。そしてその力は先天性…いえ、生まれ持ったもので後から発現するというのはない。それゆえ魔法を使える人は少数だと聞きました」
ロミナさんはうんうんと頷きながら聞いてくれている。暗記…というか何度も聞いたことだし間違ってないと良いんだけど…
「アオイから聞いてはいたが、流石だな、その通りだ。では魔法を使う手順を言ってみろ」
「はい。使いたい力をイメージします、複雑に考えず簡単に、そして発現させる言葉を言います。ゆえに魔法の効果自体に固有の名前はありません」
火の魔法ならファイアーとかファイアボールなどではなく、なんでもいいのだ。神坂さんもシュートやバンドといった具合に要は自分オリジナルの言葉で良いのだ。時間があるのであれば詠唱などを行えば効果が上乗せされる。
「ふむ。そこが通常と違うな、その方法が出来るのはお前やアオイだけだ。通常は自分の魔力を使って現象を起こす。だからエルフも人間も魔族ですら魔力の高い者はそれなりの地位につく。だがお前やアオイは違う。言うなればお前はそこらにある魔力をそのまま魔法として使う事が出来るのだ。当然通常の魔法使いの数倍、数十倍の威力が簡単に出せるのだ。だから魔力が切れることがない、ならば魔法は?」
「無制限に使える…?」
「そう。だから規格外なのだ。自分の魔力を回復させる手段は多くない。マコトはそれが必要ない。実際に体験するのが一番だろう…カミル、そこへ的を。多重結界は6層でいい」
「はい」
カミルさんが少し離れた場所に等身大の人形を2つ置きそこに6層にもわたる結界を張る。それを破壊して人形を壊せるか…というモノらしい。
「まずは私からだな。いいか?これが通常の魔法だ」
そう言うとロミナさんは目を閉じ詠唱を始める。意外に長いな…
「貫け!ペネトレート!」
ゴウッと出現した炎の槍は結界を貫き人形を燃やす。ロミナさんは大きく息をはき、こちらを見る。
少し肩で息をしていて、うっすらと汗が出ている。
「私では火の適正は無いが、同じ魔法はあと2度使えれば良いくらいだ。正直な感想を言ってみろ…と言ってもマコトは言わぬのであろうな。詠唱は長い。威力も想像よりも小さい…と言ったところか」
確かにその通りだと思っている。戦闘ではあんなに長い詠唱は出来ないし、いつも先制攻撃が出来るとも限らない。ならばより短く…と教えられてきたのだ。
「次はマコトの番だ。この部屋は少しだが魔力を集めやすくなっている。なので適性が無い私でもあれだけの威力が出せる。さぁ…」
6層の結界、一層がどれほどの厚さなのかもわからない。ならばロミナさんと同じくらいの槍を、強く、速く、イメージしろ。槍を投げるように…全力で!
「スピア!」
野球投手のように思い切り投げる寸前に頭を叩かれた…
「いてッ」
「お前は里を破壊する気か!…いや最初に見せた私が悪いか…とにかくだ、その威力を放ってみろこの里なんて吹っ飛び残骸しか乗らぬぞ、せめてその力の半分…いやとにかく威力押さえろ、もう一度だ」
まさかそんな威力があるなんて…ロミナさんと同じくらいをイメージしたんだけど…半分よりももっと抑えるのか?それで威力が出せるのかな?ならば、より強固に、6層の結界を貫けるほどに硬く!
「スピアッ!」
今度は軽く腕を振るうと、その瞬間に
キッン!
甲高い音を立て結界が破れ人形を貫き、壁に穴が開く。
「………これは、何というか、凄まじいな。すまない私はこれ以上の賞賛の言葉が出ない、まさかこんな短期間に越えられるとは…繋ぐ者か…今日ほどお前が敵でなくて良かったと思う」
ロミナさんたちに見送られ空き家へ戻ると、ちょうど彼女も用を済ませ戻って来たところに出くわした。
「あら、ずいぶん早いのね?もう少しかかるかと思ったけど、どうだった?」
「何というか、自覚のない力は世界を滅ぼすと痛感しました…」
彼女は吹き出すとお腹を抱えて笑い出した。
「あはははっ!でしょうね、これで分かった?マコトがどれだけ規格外の力を持っているのか。貴方は十分強い。魔法だけに関して言えば私よりも…ね?それが理解できただけでもエルフに逢わせた甲斐があったわね。なら、もう言葉使いも普通にできるわよね?」
「うん…そう…なるのかな?もう少し力の使い方を教えて欲しかったんだけど、ここから先は自分で気づけって追い出されたように感じたよ…」
こうして彼女の予定を大幅に短くすることに成功し、翌日には次へ向けて旅立つことにした。
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